海に行こう
私の家から学校までは徒歩で十五分くらいのところにある。遠いようなそうでもないような微妙な距離だ。
別に過去だし、もう元の世界に戻ったときには私は死んでいるのだから別に学校にいかなくてもいいのかと気づいて私は家へと帰る。先生や親に怒られても関係はない。
さて、そうは言っても何をしよう。特にすることもない。
「暇だ……」
秋の空は青く澄みきっている。雲は穏やかに流れていく、風に乗って。
「あれ?なごちゃん何してんの?」
「帷、おはよう」
自転車に乗った帷が話しかけてきた。
「学校行かないの?」
「うーん、今日は何となく行きたくないの」
「……そっか」
「帷も今日は休もうよ」
「え……でも」
帷は迷っていた。だがすぐに「そうだね」と言って自転車を降りた。
「たまにはいいよね」
「でしょ?どっか行こう」
「うん、どこ行こうか」
話し合いの結果近くの海に行くことにした、帷の提案だ。近くとはいえ結構な距離だと思う、自転車や徒歩では無理だろう、なので二人でバスを使って行くことにした。
バス停でバスを待っているとすぐにバスはやってきた。
「バス、案外来るの早かったねー」
「よかった」
バスの一番後ろの席に座る。バスはゆっくりと走り始めた、静かな朝のバスにはお年寄りが何人か乗っているだけだった。静かすぎて話すのも憚られる。
バスに揺られていると眠くなってきた。
「なごちゃん、眠いの?」
「うん、眠い……」
「寝てていいよ、近くになったら起こすから」
「ありがと……」
そのまま睡魔に身を委ねて目をつぶるとあっという間に私は寝てしまった。
「……ごちゃん、なごちゃん、起きて」
「ん……?」
「もう着くよ」
「うん……」
窓の外を見ると青く輝く海が広がっていた。今までいたところとはまったく違う場所に来たように思えた。隣に座っている帷は何だか浮かない顔をしている、やっぱりいじめについて何か悩んでいるのだろうか。
そうこう考えているうちにバス停につく。料金を払って降りる、潮風が心地よい。
「わあ、帷見て!綺麗だよ!」
私は帷を何とか元気付けようとしてできるだけ明るい声で言ってみた、けれども帷は相変わらず浮かない顔だ。
「帷?」
「あ、ごめん、ぼーっとしてた」
「眠たいの?」
「ううん」
心配だった。何だかこのまま帷が消えてしまいそうに見えた。
「帷」
「何?なごちゃん」
笑う帷はやっぱり消え入りそうな笑顔を浮かべていた。
でも、自分からは言い出せない。意気地のない自分に腹が立つが着いた途端に聞くのも無粋だろう。
「砂浜の方歩こうよ」
「わかった」
砂浜を無言で歩く。秋の海は静かで夏のような賑わいもない、何だか物悲しい。
「綺麗だけど何だか寂しいね」
「そうだね」
「でも、こんな海もいいよね」
「うん」
帷の口数は段々と少なくなっていく。私は喋り続けてないと不安に押し潰されそうだった。
「帷、何か今日変だよ」
「え?」
私はもう不安に耐えられなかった。
「何からあった?」
帷は目を見開いた。私は何も言わずに黙って帷が話始めるのを待つことにした。
どれくらいの時間私たちはお互いを見つめ合っていたのだろう海は。いや、私に至っては帷を睨み付けていたかもしれない。
帷がようやく口を開いた。そしてにっこりいつものように笑ったのだ。
「やだなあ、別に何にもないよ。ちょっとバスに酔ったんだ、心配かけてごめんね」
そう言って笑う帷に対して私は何だかやるせない気持ちになった。




