機械の呼びかけ
新しい章に突入します!
メイル・ノトメイアは自身の研究室でデータを打ち込んでいた。
「さすが、未来の最高司令官ね。」
打ち込んでいるデータは、つい先日緑の星から送られてきたものであった。リンネルーア軍の訓練生部隊が、偶然遭遇した機械群を倒した。その時のデータである。
太陽系辺境であれだけの被害を引き起こし、いまだ「辺境戦争」として爪痕を残す鉄の星ヒルタで作られた自衛システム。水の星地球では「メカ」と呼ばれ、緑の星リンネルーアでは「敵」と呼ばれたその機械群であったが、最近では3星の連携と、開発元であるノトメイア研究所の研究によって恐れるに足るものではなくなりつつあった。
しかし、開発者の娘であるメイルが開発した「メカ弱体化プログラム」をもってしても、メカはやはり脅威であり続けた。また、あとどれくらいのメカが宇宙空間を漂っているのかもまだわからない。
メイルはヒルタ科学高等専門学校とヒルタ宇宙軍士官学校を卒業してからは、両親が残したノトメイア研究所で、主にメカの研究をする、ヒルタ宇宙軍技術士官となった。そこでメカの解析と弱体化プログラムの開発を続けていた。
「本当に、訓練生ばかりなのによく勝ったわ。」
メイルはデータを打ち込む手を止め、コンピューターの横に置かれた写真を見つめた。水の星地球のウエキセンカLSSE戦略局第1戦略長、緑の星リンネルーア次期王位継承者のレイア・リンネルーア王女、そして自分が写った写真だった。
「王は最高の戦士でなければならない、か。」
友人の声を思い出しながら、メイルはつぶやいた。長いこと共和制であるヒルタで生まれ育ったメイルにとって、いまだに星を統一するのが王であり、すべての権力が王に託されている緑の星リンネルーアや、LSSE(地球・太陽系連盟)という超国家組織の元に統合されつつあるも、宇宙移民自治政府を中心とする各移民星ごとの自治政府も存在し、地球という惑星そのものにも200を超える国家が残っており、中には王を持つ国もあるということが、少し信じられなかった。友人の1人は未だに「天皇」と呼ばれるエンペラーを尊敬しており、もう1人はあと2年ほどで「王」になるということも、おとぎ話のように聞こえた。
ぼんやりしていると、突然通話機が鳴った。
「軍司令部かしら?」
そうつぶやきながら通話機をとる。
「こちらノトメイア研究所所長およびヒルタ宇宙軍技術士官、メイル・ノトメイアです。」
「ああ、ノトメイア技術士官。こちらヒルタ宇宙軍中央通信室のペルソナ-レです。実は今、極秘回線で緑の星リンネルーアから、あなたにつないでほしいと。」
「レイア・リンネルーア王女?」
「ええ、そのようです。」
「個人的な通信?」
「ええ。これはリンネルーア王家の一員としてでもなく、リンネルーア軍の一員としてでもなく、メイル・ノトメイアの友人のレイア・リンネルーアとしての通信だと。」
「個人的な通信はインターネットで勝手に送ってくれと言っているのに。何のためにセンカが自分たちの通信システムやらネット文化やらを売り込んだと思ってるのよ!」
メイルの悪態に、通話機の向こうから笑い声が聞こえてきた。
「とにかくおつなぎしますね。」
電子音の後、懐かしい声が聞こえてきた。
「メイル・ノトメイア技術士官?」
「ええ、そうです。レイア様。」
「やだ、敬語使わなくていいよ。」
「極秘とはいえ、公式の通信回線でしょ?」
「まぁいいっていいって。メイル……というか鉄の星の人が使う敬語とか敬称とか、挨拶とかってなんだか心がこもってないというか、無理やり使っている感じがして嫌なのよね。」
「そうですか、レイア様。」
わざとリンネルーア語で言ったが、向う側からは笑い声しか聞こえなかった。
「ところでメイル。リンネルーア軍からの報告書は届いた?」
「ああ。今こちらで解析している。しかしよくやったな。訓練生たちばかりだったんだろ?」
「ええ。彼らは本当によくやってくれた。それにあなたが開発してくれた最新の弱体化プログラムもあったし。」
「いや、それもそうだが、レイアの指揮もなかなかうまい。ヒルタ宇宙軍士官学校でも85点くらいはもらえるんじゃないか?」
「それはうれしいわね。残りの15点は?」
「ああごめん。実はあんまり意味はないよ。だって私たちは、自分たちを守る自衛システムと戦うなんて思ってもいなかったんだから、戦術もまだ確立されていないよ。10年近く前から戦っていた君たちリンネルーア軍や、あれだけ戦った太陽系防衛軍のほうがよっぽど優秀だよ。」
「でも、この問題を解決するには、鉄の星の協力が必要なのよ。」
「ああ、だからこんなに頑張っているんだ。みんなね。」
メイルが少し笑った。
「とにかく、無事でよかった。」
「ええ。わたしもよかったと思う。」
しばらく沈黙が続いた。
「話すの久しぶりじゃない?」
レイアが沈黙を破る。
「確かにね。センカが忙しそうだったからな。」
「定期便計画だっけ?すごそうだったよね。」
2人は笑う。
「地球も大変なんだと思うよ。だって、まだ国家が200もあって、星にも政府があって?それに国や星の中にも地方自治体がある。すごいよ。」
メイルの言葉に、レイアも頷く。
「ええ。それをまとめるのは、また難しいんだなと、叔母と話していて思った。」
「あ、リーヒ女王は元気?」
「ええ、とても。」
「そうか、またリーヒ女王のごちそうになりたいとお伝えしてくれない?」
「いいよ、あとで伝えとく。」
「ありがとう。」
「ところでね、メイル。」
レイアの重い声に、メイルは思わず黙った。
「何か……?」
「報告書には書けなかったことがあるんだ……。」
「どういうこと?」
「わたしが部隊の指揮を執りながら、自ら戦闘機スプレプトに乗ったことは報告書にも書いてあるよね?」
「うん。確かにメカに対応できるパイロットは少ないもんね。」
「そう、どっちにせよ、最高の戦士は常に兵士の先頭に立つべきだから。とにかくわたしは一人で戦っていた。」
「うん。」
「その時、通信が入った、というよりも信号を受信した。」
「信号?」
「うん、信号。」
「それは、どんなものだったの?」
「ヒルタ語だった。発信源は私が撃ち落そうとしたメカの戦闘機。」
「ええ。わかったわ。でも別に極秘事項でもなんでも……。」
「その通信の内容がこうだったのよ。『スタワード兄さん』って。」
「はぁ?」
「まさか……あんたの生き別れた兄弟が乗ってたとかないよね?」
「そんなことないでしょ!?だいたいメカには生体反応がない。ただの機械よ。」
「ええ、そうよ!わたしも確認した!」
レイアが怒鳴る。
「でも、確かにあの戦闘機は『スタワード兄さん』と呼んだ。」
しばらく沈黙が続いた。
「すまない、その件に関してはよくわからない。しかしメカにはヒルタ語のプログラムも内蔵されている。故障か何かで適当な言葉を発信したんだろう。そうとしか言えない。」
「ええ、でも少し気にならない?それにね。」
レイアの声が少し興奮気味に高くなる。
「最近、メカも動きがより複雑になっている。もちろん弱体化プログラムを撃つと、ずいぶん扱いやすくなるんだけど、なんというか。」
レイアの声にメイルは思わず聞き入った。
「最近?」
「うん、最近。メカがね、賢くなった。」
「メカが?賢くなった?」
「うん。いままでは、確かに高度なコンピューターではじき出された作戦を使ってきたけど、あくまでただのプログラムだった。でも今は違う。戦術、いえ戦略を持っているみたい。まるで人間の指揮官がいるみたいなの。」
「ふーん。」
「あ、聞いてない。」
「さすがに夢を見すぎよ。」
メイルは笑ってその話を終わらせた。
「とにかく、久しぶりに話せてよかった。あと、データもありがとう。解析したらきっと新しいこともわかると思う。また連絡する。」
「……うん、わかった。無理しないでね。じゃあ。」
通話機を置くと、メイルは少し伸びをした。そのまま立ち上がり、ふっとつぶやいた。
「スタワード兄さん……か。」




