赤と黒の艶
「ええ、アルテミスシティ及び月の皆さんのご協力に感謝します。」
「こちらもそれが確認できてよかった。僕ら月移民は理想の世界を目指すため、これからも高度な学問や研究の最先端の場所であり続ける。でも僕らは生まれた地球と常に共にある。君たちLSSE、テラポルトスの人たちとはうまくやっていきたい。」
「ありがとうございます。」
「しかし僕らは、宇宙移民自治政府を構成する一つの移民自治政府だ。プロセルピナではないがプロセルピナなんだ。」
月移民自治政府の若いエリートは寂しげに笑った。
月移民団は、最初の宇宙移民団である。エリートが集められできたこの移民団は、その後の宇宙移民団とは少し違う雰囲気を持っていた。高度で最先端の技術が集まる、理想のエリートの街。そのため宇宙移民自治政府を構成する他の移民星のようにガツガツした汗のにおいはほとんどなかった。古代ギリシアの都市国家のような、文化的に高度に栄えた衛星となっていたのである。
そんな彼らを、人々はいつしかルーナティストと呼ぶようになった。
今回の定期便計画をはじめ、様々な場所で、彼らルーナティストは他とは少し違う立場を取り続けている。それはまるでどこか遠くにある理想を追い求める、古代の哲学者のようであった。
「あなた方の言うことは、わたしには理解しかねます。」
センカは少し笑った。
「冗談がお上手ですね、戦略局戦略第1課長。」
若いエリートもそういって微笑むと、くるりと背を向けた。
「ああ、ユウキくん!」
会場を歩いていると、ユウキは突然陽気な男に呼び止められた。
「ああ、海王星プラントのジェンキンスさん!」
「いやぁ、あの戦争やら戦後やらでいろいろ世話になった。」
「こちらこそ、いろいろ助かりました。」
「いやぁ初めて冥王星で会った時は、もっと背が低かったのにな。アサヒの後ろでもじもじしてたっけ。今じゃ…えーと。」
「役職ですか?」
「それそれ。」
「宇宙移民自治政府戦略委員長および第3軍副司令官、LSSE戦略局戦略第3課長ってところですかね。」
「すげえな。お前らまだ18才だろ。」
「仕方ないですよ。あんなことになってしまったんですから。」
会話が弾んだ。宇宙移民の多くは、辺境移民再建協会時代から、ユウキとカズマたちを支持し続けてくれた。いや、支持というより好いている、いや好いているというよりも、自慢の息子として信頼している、というような状況だった。まだ若いユウキがこんなことができるのも、新しい時代の大人たちが支えているからであった。
「ところで、ちょっと聞きたいんだが、移民星アスの再建はどうなってるんだ?」
「プロセルピナシティやテラポルトスでの作業が忙しくなってしまって……。大学を卒業するまではお預けですね。」
「そうか……がれきの撤去はだいぶ進んだんだろう?」
「しかし再建までは……。」
「わかった。いや、君のお父さん、アサヒ団長とは移民仲間というか、いろいろ仲が良くてな。あいつはアスのことが本当に好きだった。早くあの星を、と思ってしまうんだ。」
「すみません……。」
「まぁ、仕方ないな。」
ジェンキンスはがはがはと笑った。
「大学卒業したら再建すればいい。俺たちも協力する。今度プロセルピナシティに行く用事があるから、その時でも話さないか。」
「大学に行っているかもしれませんが。いいですよ。」
「よっしゃ。親父さんの仲間集めておく!」
「父の仲間ですか?」
「ああ。移民仲間だ!」
熱い会話は尽きなかった。ユウキは勢いよく話すジェンキンスを笑ってみつめていた。
パーティも終わりに近づいいている。話すべき人とは話した。センカは少し背中を伸ばした。
スパイたち、いやスタッフたちは会場の掃除を始めた。センカは少し外に出て風に当たりたくなった。
要人たちの間を縫って、バルコニーに出る。ニューヨークという都会を吹き抜けた風が吹いていた。そしてそこに、見慣れた人影があった。
「ユウキ…?」
「センカか。」
ユウキが振り返って、ちょっと笑った。
「疲れてるの?」
「ああ。そりゃあ。」
「いい交渉はできた?」
「まあな。」
2人はしばらく黙った。
「パーティは楽しめた?」
突然ユウキが聞いてきた。
「うーん、どうかしら。」
「せっかくなんだから、楽しめばよかったのに。」
「そんな、仕方ないって。」
「でも……。」
ユウキはセンカをもう一度見つめた。
「きれいだ。今日。」
センカはどう返していいかわからなくなった。それでもやっとの言葉をつぶやく。
「今日だけ?」
「え?ああ。」
「何それ。」
センカは思わず笑った。赤いドレスの裾が小刻みに震える。ユウキもつられて笑う。
「そろそろパーティはおしまい。テラポルトスに戻らなきゃ。」
「これから飛ぶのか。」
「ゼロで飛ばせば問題ないって。」
「はいはい。」
「先、着替えてくるね。」
センカが笑いながらパーティ会場に戻っていくのを、ユウキはただ黙って見つめていた。
射干玉まではいかないが、美しい暗闇にぽっかり浮かぶパーティ会場の光。そこを歩いていく赤いドレスの黒髪の少女。赤いドレスと黒髪は、怪しく艶やかに光っていた。
彼女は戦友でありライバルであり、命の恩人である。だがそれとは違う感情がふつふつと湧いてきた。
「センカ、本当にきれいだ……。」
誰にも聞こえないほどの小さな声で、ユウキは思わずつぶやいた。
大学などが忙しくてなかなか更新できないのが、悔しい今日この頃ですね。
それでもいつも読んでいただき、ありがとうございます!




