華やかな外交合戦
「ではヨーロッパ経済面での新たな協力体制の構築を支持してくれるのだな。」
「ええ。地域で協力していくことは必要不可欠ですから。ドイツは真面目で信用できる国ですから、助かります。」
「私たちも君たちの考えには賛成しよう。しかし我々はあくまで地上の一つの国家に過ぎない。ましてや、LSSE戦略局戦略第2課長、ユリアン・ゲープハルトの出身国でもある。」
「彼にはいつも助けられています……。エリーゼ・フェシカさんを軽く超えるんじゃないかってくらいよく働いてくれていますし。」
「第2課はLSSE、つまりテラポルトス派の牙城でもあるが、同時にニューヨーク派の最後の砦でもある。君ならわかると思うが……。」
「ええ。第1課が暴走し、地球や宇宙移民のことを考えられなくなったときは、第2課と第3課が止めることになっていますから。そういう点では、第2課は『最後の砦』ですね。今回の件でも彼は様子見を徹底してます。」
「まだ若いが、ゲープハルトの影響は計り知れない。彼の出身国であるというのは、国家にとってはチャンスでもあり足かせでもある。きっと君たちの祖国である日本も同じなのだろうな。」
ドイツの政府要人はそこで低い笑い声をあげた。
「どちらにせよ、地球人がまとまることは必要だ。しかしそのための方法はいくらでもある。それは忘れないでくれ。」
「ありがとうございます。」
センカは軽く頭を下げる。部下らしき人に呼ばれ、がタイのいいドイツ人の政治家は去っていった。
「ふぅ」
思わずため息をつく。オレンジジュースを探してあたりを見回した。センカはまだ未成年なので目立つところでは酒を飲むことができない。
ふと会場内を歩き回っているスタッフが目についた。
「テラポルトス?」
そっと無線機にささやく。
「センカ、どうした?」
カズマの声が返ってきた。
「本当のスタッフの皆さんは無事?」
向うから何か笑い声みたいな声が聞こえてきた。
「さすが、元パートナー。」
「どういうこと?」
「なんでわかった?」
「まず最初に、パーティが始まった時とスタッフのメンバーががらりと変わっている。」
「スタッフの正体はわかったか?」
「CIAとMI6、FSBもいるわね。あとは日本の公安、カナダのCSISもいる。ドイツのBND、あれはイスラエルのモサド? というか世界中のスパイであふれかえってるじゃんこの会場。」
センカはそっとささやいた。
「さすがすぎて褒めるしかないや。さすがチームジパングの弟子だな。」
「よく集めたわね。暗殺計画をネットで公表でもしたの?」
「誰の暗殺計画だったかわかるか?」
「さぁ。」
「まぁ政府の要人相手のがごろごろしてたんだが、君とユウキの暗殺計画もあった。」
「へぇ。」
「政府の要人狙ったふりして巻き添えて殺そうとしたんだろうな。まぁ防衛軍の情報長の前に全部さらけ出されてるけどな。にしてもセンカ、殺されすぎじゃね?」
「まだ死んでないけどね。」
ヒヒっと笑い声が聞こえた。
「どーせいろんな目的でスパイがニューヨークにでも集まってるだろうって、俺たちの司令官殿が言い始めて、何するかと思ったら……すげえな。」
「何したの?あいつ。」
「チームジパングのリーダーにして史上最強のスパイといわれたトニイの人脈をフル活用。何がどうしたか知らんが、ニューヨークにいたスパイというスパイは次々と協力してくれたってわけだ。」
「で、本物のスタッフは?」
「交代要員が来たって喜んで帰っていったよ。」
「情報、ありがとう。」
「どういたしまして……あっ、ショウタ早く!」
通信機がごぞごそなったかと思うと、ショウタの声が聞こえてきた。
「すまん席を立ってた。」
「状況は把握している。問題ない。」
「暗殺計画はほとんどおじゃんだ。実行犯全員俺たちの味方になったからな。」
「ショウタ、各国の情報機関に謝罪文送っときなよ?」
「ハルカが最高の謝罪文を作ってくれた。あとはリンカがそれをうまく送りつけてくれるだけだ。」
「そう。」
「とにかく、お前は外交合戦に集中しろ。お前にしかもう収められないだろう?」
「わかってる。オーバー。」
センカはそっとつぶやくと、オレンジジュースを飲み乾した。そばを通ったスタッフにグラスを返す。このスタッフはたぶんフランスあたりの有名なスパイだ。
「メルシー。」
そっとささやくと、フランス人のスタッフはにやりと笑った。
「ええ。ロシアの方の宇宙移民希望者は多いです。」
ユウキはロシアの大統領に捕まってしまい、若干うんざりしていた。
「ロシア系の移民団もありましたしね。確か、僕らのアスの隣の、移民星キノスラもロシアやカナダといった北の国々の人が集まっていたんですよ。温かい料理を教わった記憶があります。」
「そうだったな……しかしキノスラに移住したロシア人は全員亡くなった。」
大統領の鋭い視線に、ユウキは嫌な予感がした。
「レーシャ・コーサチュとパトリック・シャーリーだけでも生き延びてくれましたから、今はそれだけでも感謝しましょう、大統領。」
「そうだな。しかし2人はその後どうなったのかね。全く情報がないんだが。」
おそらくロシアは2人の宇宙生まれの赤ん坊の監視を続けているはずだ。しかしユウキは無理に何も知らない笑顔を作った。
「その件は、ウクライナとカナダに任せてあります。普通の子供たちとして育ててほしいとお願いしました。彼らが生まれ故郷のキノスラに帰るという選択肢を選ぶなら、僕ら宇宙移民自治政府は全力でそれを叶えましょう。LSSEもそうです。でも彼らはまだ幼い。せめて15歳になるまでは、と考えて、2人を地球に帰したんですよ。」
「それを決めた君たちも十分子供じゃないか。」
「まぁそうですけどね。」
2人はひきつった笑い声をあげた。
「カナダはまぁいいとして、ウクライナは少し信用できない。「宇宙生まれ」の彼女がどう扱われているか心配だ。」
ユウキもうなずかざるを得なかった。ウクライナ側からレーシャに関する情報が届くことはなかった。ロシアの影を恐れ、あるいはロシアに対抗する切り札にすべく、「普通」とはかけ離れた生活を送っているのではないかという噂もあった。しかし2人が15歳になるまでは、国連宇宙防衛軍、そして国連宇宙機構やLSSEは一切関与しないという約束があった。結局ウクライナとカナダに任せるしかないのである。
パトリックはカナダの孤児院に預けられた後、信用できる人の家に預けられたそうだ。
「心配であれば、我々も動くが……。」
「いえ、ぼくらは約束しましたから、動けません。」
「そうか。手遅れにならなければいいが。」
「すみません。」
「やはりまだ若いな。まぁその若さが、君たちを信用する最大の理由でもあるがな。」
ロシアの大統領はそうにやりと笑うと、別の誰かの元に向かってしまった。
「結局、敵なのか味方なのか。」
ユウキはため息をついた。
こんな具合で、あちこちで腹の探り合いが続いていた。




