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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】ちょっとした勢力均衡
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祖国との探り合い

「いやぁ…君たちの活躍には驚かされた。日本人として誇りに思うよ。」

「はぁ。」

「ありがとうございます……。」

チームゼロの10人は全員日本人だ。センカ、ショウタ、コウスケ、リンカ、トウキ、スズナ、タケル、ハルカの8人は、LSSEテラポルトスの最重要人物として太陽系のために動いていたが、彼らはあくまで「日本人の学生」であるとしていた。

そもそも国連宇宙保安隊の訓練生になったとき、8人が条件として出したのが「希望するまでは学生として進学し、そちらをできうる限り優先させる」というものであった。高校3年生の時に一時休業して受験に集中できたのも、その契約のおかげであった。

一方、自分たちの意志で移民星アスに向かったユウキとカズマであったが、ユウキたちも「日本人」である。彼らは移民星アスの星籍を持つことになったが、日本側の法整備が整っておらず、日本国籍は残したままだった。どちらにせよ、彼ら宇宙移民第1世代は皆故郷の国籍を持ったままだった。国籍を持っていないのは、レーシャ・コーサチュやパトリック・シャーリーのような「最初の世代」の子供たちくらいだろう。

2人はあくまで「アスの人間」であるとしているが、「日本人」であることに変わりはない。現に親戚の家から日本の大学に通っているのだ。


「君たちの活躍で、日本中が勢いづいたのは事実だ。日本人が宇宙で活躍する。素晴らしいよ。」

チームジパングもチームゼロも日本人だった。経済大国とはいえ、今まで宇宙開発や世界を動かす影響力の面ではやや遅れていた日本であったが、国連宇宙防衛軍でのチームジパングの活躍と、その後のZ作戦におけるチームゼロの活躍に伴い、急速に太陽系での影響力を伸ばした。

太陽系を動かしているテラポルトスやプロセルピナのトップが「日本人」の「子供」なのだ。そして外交面、つまり鉄の星ヒルタや緑の星リンネルーアへの影響力も持っている。

日本は世界への巨大な影響力を持ってしまった。平和主義の国家らしく、穏便に宇宙時代に適応しつつあるが、それでも今までにない力に野心を持ち始める国民も出てきた。それらが不気味な空気を作り出しつつあることに、センカはいつも悲しげな眼をするのだった。

「実はわが国でも宇宙への関心が高まってな。企業も宇宙に関心を示しているし、宇宙旅行や宇宙移民、鉄の星や緑の星への問い合わせも盛んだ。」

「宇宙を扱ったテレビ番組もたくさんあるの。」

センカは唇をかんだ。

宇宙に関心があるのは、単純な興味からだけというわけでもない。日本が優位を保っている宇宙に関心があるからだ。現に宇宙空間での影響力を失いつつあるアメリカやロシアなどは保守に走りつつある。しかし今までの宇宙開発を進めてきた、相変わらずの大国であることには変わりない。それだけに、新しい太陽系や地球人の在り方を考えているLSSEテラポルトスとしてはやっかいな大国であった。

日本は比較的LSSEにも宇宙移民自治政府にも寛容だ。だが明らかに天狗になっている節があり、センカはどう祖国日本と向き合うべきか悩んでいたのだった。

「ところで、君たちのLSSEは、職員を大量に募集していると聞いたが。」

「ええ。私たちは慢性的な人手不足なんです。あの辺境戦争で宇宙時代を作っていくはずだった多くの先輩方を失いました。私たちがそれを補おうとしたのですが、やはり子供ですからね。」

「軍籍と文籍に分けて募集するそうだが……。君たちの母体は国連宇宙防衛軍だ。いろいろと思うところもあるのでは?」

鋭い質問に、センカは少し舌を巻いた。

「現在はLSSEの課長クラスの私たちがそのまま太陽系防衛軍の要職を務めていますが、軍と官が一体となってしまうことはよいことではありません。」

センカは、そっと首相の目を見つめた。

「私たちの国は、かつてその軍国主義で、たくさんの国の信頼と多くの人の命を失ってしまった。『日本人』として繰り返してはいけないと思っています。」

首相の目がひるんだのをセンカは見つめた。あの世界大戦から、守られ経済大国になったとはいえ、敵国条項が残り続け、戦争の影を引きずらなければならなかった日本。首相をはじめ多くの政治家がそれを払しょくし、よりよい日本にしようとがむしゃらになっていたのはセンカも知っていた。

チームジパングとチームゼロによって影響力を増した今、地球や太陽系、国家の在り方が問い直されている今、日本はそれを払しょくする機会だと思い込んでいる人々がいることもまた事実だった。

センカはそれに、さりげなく牽制をかけたのだった。

「現在は私たちがほぼ太陽系を支配しているような状況になってしまいました。ですが私たちはまだ『子供』。周りの大人たちの意見を聞きつつ、正しい未来を選びたいと思っています。そして私たちが大人になってしまうときには、きちんと権力が分散されているようにしたいと思っています。だから軍籍保持者はしっかり管理し、ゆくゆくはしっかりとした文民統制シビリアンコントロールの制度になるようにしていくつもりです。」

「そうか……。」

首相は何か言いたげにセンカを見つめていたが、不意にユウキのほうに目を移した。

「宇宙移民自治政府はうまくやれているかな?」

「ええ。なんとかおかげさまで。」

ユウキはそっと頭を下げた。

「君たちには負担の大きな事だろう。私もいっぱしの政治家だ、君たちの苦労はわかっているつもりだ。」

「ありがとうございます。」

ユウキは静かに続ける。

宇宙移民自治政府プロセルピナの人間として、またLSSEテラポルトスの人間として、故郷である地球や日本、つまりあなた方と対立せざるを得なかったこと、申し訳ないです。」

「いや、謝ることはない。」

「あなたたちはよくやっているわ。同じ『日本人』ですから。うれしく思っていますよ。」

「ありがとうございます。」

「しかし、君たち2人に『大人』として言いたいことがある。」

首相は急に声音を変えた。政治家というよりも、保護者のような声だった。

「今回の件、軽率すぎやしないか。」

「定期便計画、ですか。」

「ああ。君ら2人は望んでいなくても、大きな力を持っている。私よりもずっと大きな力だ。君たちは『子供』であると言い続けているが、もうそうは言えない。」

首相は2人は見つめる。

「もうすぐわが国での成人にも達する。学生とはいえ。立派な大人だ。少しは行動に気を付けたほうがいい。」

「ええ。あなたたち自身の命にも関わるわ。現にセンカさん、あなたは撃たれているでしょう?」

「その撃った本人は隣にいますが。」

「撃ったのにもいろいろ理由があったんですが。」

センカとユウキの言葉に、首相夫人は思わず笑ってしまった。首相も和やかに笑っていたが、また声音を引き締めた。

「とにかく、今回のことは軽率すぎだ。日本の利益を考えれば、この論争をきっかけに外交合戦を進めるべきだと思う。現にそうさせてもらっている。しかし、君たちの国のリーダーとして、保護者として、ひとつ抗議させてくれ。」

2人は黙った。正論だった。

「だいたい、テラポルトスとプロセルピナの対立はやっかいだ。そこのところ、君たちなら何とか解決できるだろう?」


「実は……総理。」

センカは言葉を選びながら話し始めた。

「私たちは、わざとこの論争を大きくしたんです……。」

ユウキも静かにうなずいた。

「僕らが動けば、対立を終わらせることはできます。しかしモヤモヤした気持ちは残ってしまう。それはチームゼロの一員であり、宇宙移民自治政府プロセルピナで誰よりもLSSEテラポルトスに近い僕自身すら、そうなんです。」

「それはそうだが……。」

「その危ういバランスの中、私たちは時に団結し、時に自立していかなければならない。それに気づく、いいチャンスになると思った。議論が盛り上がって注目されれば、自然とそれを考える人々も増えることを狙ったんです。」

センカの言葉にユウキも言葉を続けた。

「こればっかりは、正解がない。だから考え続けなくちゃいけない。そのきっかけにしたかったんですよ。」

「そうか……つまり君たちの計算内だったということか。」

「最初はここまで大ごとにするつもりはなかったんですが。」

ユウキはそういって自嘲気味に笑った。

「おかげでトウキはかんかんに怒ってしまいましたね。」

センカも少し笑った。

「太陽系に必ず必要なのは、強いリーダーでも正しい選択でもない。私はそう思っています。」

センカは言葉を続けた。

「その時々で、一番良い選択をできる地球人が必要なんです。」

首相夫妻は黙って頷いた。


「ところで、LSSEが職員を募集していると聞いたんだが、どうだろう。日本には優秀な人材がいる。紹介したいのだが……。」

センカは頭の中でため息をついた。LSSE内での日本の影響力を少しでも高めるため、新たに職員を送り込みたいのだろう。センカたちがいずれは要職を兼任しなくなるのであればなおさらだ。

「こちらで選抜をしますから、日本政府には応募を呼び掛けて頂けると助かります。もうすぐスギヤマ主計局主計第1課長が詳しい募集要項や職員養成学校、防衛軍士官学校や防衛軍訓練学校などの資料を公開すると言っていますから、そちらを参考にしてください。」

「そうか……厳しい選抜になりそうなのか。」

「ええ。よりよい人材を集めたいですからね。信用できる職員たちを。」

「しかし厳しすぎては……。」

「日本人は優秀ですから、きっと選抜されますよ。」

センカは慰めるように声をかける。

「しかし、国籍ごとのバランスがあるだろう。日本はどれくらいの枠をもらえるのだろうか……。」

「それも担当が調整中です。」

「そうか……実はな、日本としてLSSEを支援すべく、予算を用意しようと思っている。日本人の訓練生を支援する奨学金のようなものを検討しているのだ。」

「それは素晴らしいですね。」

「他にも、技術面での協力や様々な資金面での協力も検討中だ。私たち日本は、LSSEの協力者であり続けたいと思っているよ。」

「そうですか……。ありがとうございます。」

腹の探り合いが続いた。LSSEへの支援と協力の見返りに、祖国日本は何を求めるのだろうか。センカは鋭い視線で首相を見つめた。


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