Power Game
「ユウキとカズマと対立するつもりはなかったんだけど……。」
センカはちらっとリンカを見た。情報局情報第1課の解析室の一角での出来事だった。
「やるからには、プロセルピナにきっちり勝ちたい。」
「わかったわよ……。必要な情報でしょ。」
リンカは呆れた顔でセンカを睨み、キーボードをたたいた。
「もういくつか調べてあるの。確認して頂戴。」
「さすが。ありがとうね。」
センカはそういってコーヒーの入った紙コップを飲み乾した。
「しっかしあんたたち、大ごとにしたわねー。」
リンカはそういってため息をついた。
「マスコミにかけあって公開討論して、航海局の3人の課長に決めさせるなんて。タケルの部屋で決めてもよかったのに。」
「ここまで来たら、下手に鎮静化させるより盛り上げたほうがおもしろいし、うまくまとまると思ったから。」
センカはそういいながら画面をのぞき込む。
「なに、この資料?」
「地球上の交通機関についての資料。ざっくりだけどデータを解析して、地球上の人々がどんな交通機関を求めているかまとめてみたの。」
「さすがすぎる。」
「本当は宇宙移民バージョンも作りたかったんだけど、ちょっと第3課、プロセルピナ側と喧嘩してね。ちょっとデータ集めるのに時間かかりそう。」
「なんとかしてみる。」
「お願いね。」
リンカはそういって、キーボードをたたいた。
「あなたのコスモクラウドのアカウントに送っておいたから、確認しておいてね。」
「ありがとう。今度お礼する。」
「じゃあ、YURIKAシステムの情報開示を求めるお偉さんを黙らせて。」
「今度、ニューヨーク側と会談する予定なんだ。その時に何とかしてみる。」
「よろしくね。あのおじさんたち、本当にやっかいだから。それからあと、自分の国のハッカーくらい落ち着かせてくださいと、伝えてほしいかな。」
「了解。」
センカはそういって解析室を出た。
「で、情報は集まったのか?」
用があって戦術局の作戦室に出向いたセンカを、ショウタはからかうように見つめた。
「地球上の情報はね。」
「やっぱり宇宙全体となると、難しいか。」
「ええ、プロセルピナ側がすでに第3課に手を回している。」
「まぁ宇宙移民自治政府の出先機関でもあるからな、第3課は。当たり前だろう。」
「同じLSSEなのに。もうよくわからんわ。」
「自分で作った組織だろ……。」
ショウタは頭をかいた。
「地球による太陽系連盟。連盟の名のもとに、各移民星と地球の国々が対等になった組織だ。宇宙移民自治政府はその中の1勢力であるし、僕らはそのすべてを代表して連盟として行動しているだけだ。まぁプロセルピナの影響力がでかすぎるけどな。」
「半ば独立状態。まぁそうでもしなきゃ、辺境移民再建協会をつなぎとめられなかったし。」
「とりあえず地球人の対外代表機関は第1課、つまり僕らテラポルトスさ。」
「ただし対内の代表機関はごちゃごちゃしてる。」
「俺は地方分権みたいなものだと思ってるんだが。」
「そういう曖昧な状況がこうなってるのよ。」
センカは頭を抱えた。
「とにかく、情報が欲しい。特に辺境の。」
「で?」
「そして第3軍が管轄してる辺境の防衛事情をすべて。」
「ほう。」
「あんたならできるでしょ。太陽系防衛軍最高司令官殿。」
センカはにやりと笑った。
「確かに俺は第1軍司令官であると同時に、太陽系防衛軍最高司令官だ。俺が……まぁ職権乱用して、第3軍司令官に命令して、すべての情報開示することも可能だが……。」
「まぁ無理よね。」
「さすが戦略担当。その通りだ。いくら最高司令官とはいえ、根拠もなく第3軍に命令することはできない。ましてや司令官はカズマだ。あいつがどう報復してくるか、俺にはわからないぞ。」
「俺がどうした?」
不意に聞きなれた声がして後ろを振り向いた。入口にクラモトカズマ第3軍司令官が立っていた。3人は軍籍保持
者であるし、立派な軍人だ。とりあえず3人は敬礼した。
「で?」
「ショウタ。辺境防衛についての報告だ。」
「ああ、構わない。」
「辺境の開発が進むにつれて、隕石をはじめとするスペースデブリ対策が急務になってる。」
「第3軍はどうするつもりなのか?」
「まず第1軍の話を聞きたい。」
センカは頭を叩いた。うまくいけば第3軍から情報を引き出せるかと思ったが、どうやらそれだけではいかないらしい。
「第1軍は、機動部隊だ。地球防衛は第2軍の管轄だしな。一応。」
ショウタはカズマを見つめる。
「第1軍は引き続き、ヒルタ宇宙軍やリンネルーア軍と協力しながら、メカの探索及び、危険なスペースデブリの排除を行う予定だ。ただその過程で辺境などの防衛任務の補助をすることは可能だ。」
「なるほど。第3軍としては、今度大規模な訓練を行いたいと思っている。デブリ対策は必須なんだ。それに外敵と真っ先に顔を合わせるのは僕ら第3軍だからね。」
カズマは腕を組んだ。
「ただ、下手に大規模な訓練なんかすると、準備するだけで勘違いする奴がでかねないんでな。一応最高司令官の意見も聞いたうえで準備しようと思っていたんだ。」
「俺としては構わない。しかしこれは、戦術局よりも戦略局に聞いたほうがいいんじゃないか。ということで、ウエキ戦略局戦略第1課長はどう思っているんだい?」
「鉄の星ヒルタや緑の星リンネルーアが、水の星地球の軍事活動に敏感になっているのは事実なのよね……。」
センカはちょっと悩んだ。
「でも、安全保障は必要不可欠ね。辺境戦争から2年経った今、友好ムードと平和ムードも相まって、結構危機感がなくなっているのは、すこしお門違いだと思うし……。」
センカは2人の顔を見た。
「両軍を招いて、合同で演習することにしたらどうかしら。」
「しかし、そうなると相当大規模な演習になるじゃないか。LSSE、国際連合、宇宙移民自治政府はもちろん、平和主義者からたたかれかねないぞ。場合によっては、軍拡になりかねない。」
「辺境戦争の爪痕をしっかり巡って、慰霊の意味も込めて行うのはどう? でもどちらにせよ、鉄の星ヒルタとの戦争責任の問題とか、いろいろあるわね。」
センカはため息をついた。
「あちらの星々の意見も聞いてみるわ。」
「助かる。」
カズマはそう言って笑った。
「で?さっきまで何の話をしていたのかな?」
カズマより一足先に冥王星のプロセルピナシティに戻っていたユウキは、LSSEと宇宙移民自治政府の引き継ぎやら何やらに追われながら、端末の画面をなぞる。
「アサヒ戦略委員長。」
「ああ。」
ユウキはうかない返事をした。LSSEの第3課長としての業務だけではない。太陽系防衛軍第3軍副司令官としての任務や、宇宙移民自治政府の重要人物としての責務、そして移民星アス移民団の団長。もちろんその合間を縫って大学に行っている。やはり疲れがたまっていた。
「例の対決、どうなっていますか?」
「ああ……。まぁ、ぼちぼちってところかな。」
ユウキはコーヒーを持ってきた部下に、にやりと笑いかけた。
「第3課、というか宇宙移民自治政府の自治権の行使の一環ということで、第1課、つまりLSSEに送る辺境の情報を少し制限させてもらった。」
「さすがですね。」
「縦割り行政の弊害が起きなきゃいいけど。」
ユウキはコーヒーをすする。
「その代わり、こちらも必要以上に地球の情報を探りにくくなった。僕自身も冥王星にいるしね。いま何か行動を起こされたら面倒だな。」
「そうですか……。」
「心配するな。もしもの時はテラポルトスの本部に残ってるカズマが知らせてくれるさ。ところで、例の資料は?」
「はい、宇宙移民たちの移動手段についての最新の調査の結果です。こちらは実際に我々が運用するときの予算案。この資料は、安全管理面の提案書ですね。」
「そうか。ありがとう。」
ユウキはもう一度伸びをした。
「ところで、今度ニューヨークで開催される各国の首脳会談と、それに伴う大きなパーティがあることを知っているかい?」
「はい、知っております。アサヒ戦略委員長にも招待状が届いています。クラモト司令官は欠席を表明していますが……。」
「僕は参加する。その方向で日程調整をお願いしたい。」
「何か地球でなさるのですか?」
「ああ。お偉いさんを味方につけるチャンスだ。」
ユウキは黒い笑みを浮かべた。部下は黙って立ち去った。
この対決は大きな話題になっていた。
結局大ごとになりすぎて、国連総会やLSSE総会でも取り上げることになってしまった。そのためセンカとユウキは、地球上の国々(国連総会)への根回しや、宇宙移民自治政府を構成する宇宙移住地への根回しも必要になってきたのである。このちょっとしたゲームは、今や世界的な政治問題に発展していた。各国もそれを材料にLSSEや宇宙移民たちとの交渉を始めている。
そして、各国の首脳があつまるパーティの日がきたのだった。




