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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【高校生編】銃声が守りたかったもの
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銃声の理由

3月の春を帯びたまだ冷たい風が、吹き抜ける日本をセンカはゼロで飛び立った。行先はもちろん、テラポルトスである。


空港にに降り立ち、航海局が管理している管制塔からの指示に従って、そのまま格納庫に向かう。ゆっくりコックピットから降りると、荷物をもってさっそうと歩き始めた。

歩きながら、上着を羽織る。センカは基本的には宇宙空間で使う戦闘服を、特に戦艦オリオン時代の戦闘服を着ていた。それに、LSSEのスタッフジャンパーや、コート、ジャケットなどを合わせて地上装備にしていることが多かった。

そのまま長い通路を歩いていく。途中何人もの職員に会釈されたり敬礼されたりした。誰も言葉を発さない。それでも職員たちの顔がすべてを物語っていた。

長い通路の角を曲がると、そこの壁には大きな文字で「戦略局」という文字がかかれていた。地球上の様々な言語で書かれている。その横を通る。左右に資料室や会議室、通路が広がっていた。時折すれ違う職員たちのほとんどが、戦略の印であるオリーブとペンの紋章を胸につけていた。センカの姿を見るたびに、彼らは顔色を変え、敬礼や会釈を返した。センカも万感の想いでそれに答えた。

一番奥、最後の扉を抜けた先には、巨大な吹き抜けが広がっていた。


何段かに分かれたフロアには、オペレーターや職員たちがひしめき合っていた。機械やモニターも並んでいる。そんなフロアの塊が8つ、円形の壁に並んでいた。それぞれに、それぞれの局の紋章が飾られている。ここはLSSEの中核である、テラポルトス第一発令所であった。ここからすべての指示が飛ぶのだ。それぞれのフロアの塊の裏、壁の中に職場があり、この発令所を通じて実行していくのだ。

そしてもう1つの塊。9個目の小さなフロアが、すべてのフロアの1段上にある。ここは「最高司令所」である。非常時にはここにすべての長が集まり、指示を出すのだ。サメロトリアテロ型戦艦の艦橋共有システムのように立体映像で参加することもできるようになっていた。

本来であればここに立つのは、局長の役割であるが、実質第1課長をはじめとする課長クラスの者が必要に応じて対応していた。

真ん中の吹き抜け部分は、高度な技術で映し出されるモニターとなっている。これがあれば、どの部局でも同じ情報を共有できるのだ。


テラポルトス第一発令所、戦略局フロアに、センカは戻ってきた。

そっと息を吸い込む。あたりは急に静かになった。書類やタブレット端末を持った職員も、コーヒーを持っていた職員も、モニターと向かい合っていた職員も全員こちらを見ていた。

「センカ……。」

戦略局戦略第3課長の席にいたユウキが、そっとつぶやいた。

「全員、戦略第1課長に敬礼!」

ユリアン・ゲープハルト戦略第2課長が叫んだ。

「お待ちしていました!」

そういってユリアンは笑った。センカも全員に敬礼を返す。

「ただいま。」





「早速ですが、ウエキ課長、この資料を……。」

「ここにあなたのサインが必要なんです。」

さっそく職員に囲まれ、センカはちょっとため息をついた。

「復帰早々、ね。」

戦略局のフロアは笑いに包まれた。

「それによりも、高校卒業と大学合格、おめでとうございます。」

ユリアン・ゲープハルトが大量の資料を抱えてこっちに来た。

「チームゼロの皆さんがそろうのを、楽しみにしていたんですよ。」

「わたしと、ハルカが、合格発表遅かったもんね。」

「ええ、私大の皆さんは比較的早かったですね。」

「ところで、この資料は?」

「あなたが学業のためにいなかった分の、まぁ残った課題ですよ。」

頭を抱えるセンカに、周りの大人たちは声をあげて笑った。その様子を、ユウキはそっと見守っていた。









「それじゃあ……」

「おつかれー!」

10人の声が響く。テラポルトスの第一食堂のいつもの場所。チームゼロはささやかな祝いの場を設けていた。といってもただ夕食を食べているだけであったが。

「無事卒業できてよかったよ。」

誰ともなしに高校生活や大学の話が始まる。今まで学業に専念できなかったので、こんなに勉強に励んだのは久しぶりだったのだ。

「そういえば、今年のセンター試験のあれ、結構難しくて話題になったよな。」

「そうそう、時間足りなかった!」

「全部解いたけどね。」

高校生の会話が続いたが、だんだんと会話は、10人が最後に顔を合わせた時、つまり天の川銀河会議の一連の事件の話になっていった。当事者たちによる思い出話であった。

「センカは、どこで暗殺計画に気付いたんだ?」

コウスケがお茶を飲んでいった。

「あら、報告書に書いたつもりだったけど……。」

「センカ、報告書はまだ戦略局と戦術局の間で描いている真っ最中だ。コウスケは知らないよ。」

ショウタがたしなめる。

「ああ、そうだったか。」

センカはため息をついた。

「スーマーが太陽系辺境防衛戦争とその後のファーストコンタクト、そこから天の川銀化会議と天の川憲章についての本を書こうとしていて、そのために資料を集めているのは知っているでしょ?」

「ああ。」

「その資料を参考程度に送ってもらっていたの。それを久しぶりに読んで、反テラポルトス運動に妙なつながりがあることに気付いた。で、世界中の企業や活動家……実は戦略局で洗い出していた反テラポルトス運動家たちの動向を調べていて、それで、暗殺計画の存在に気付いた。そんなところ。」

「なんで教えてくれなかったの?」

「あまりに突拍子もなかったし、出航直前だったから。まさか実行されるとは思わなかったしね。」

センカはみんなの顔を申し訳なさそうに見た。

「せめてそういう資料があるということを伝えておけばよかった。」

「ああ、まったくだ。」

「ほんと。」

みんながざわざわと話し始めた。

「ところで、ユウキはなんで気づいたんだ?で、なんでセンカを撃てた?」

トウキが不思議そうに聞いた。

「実はな。」

ユウキもすまなそうに顔をすくめた。

「辺境移民再建協会が、国連宇宙機構と対立する可能性は十分にあった。だから、反国連宇宙機構テラポルトス側の人ともこっそり連絡を取っていた。そのうちの1人が、シャルル・コルドだ。」

「俺もそいつには会ったことはないんだ。」

カズマが口を挟む。

「ユウキと、反テラポルトス派になる可能性については話していたんだが、そのために反テラポルトス側と接点を持っていたことは全く知らなかった。」

「協会を守るためだったんだ。」

ユウキがすまなそうに続ける。

「もし、君たちが国連宇宙機構テラポルトスとして反テラポルトス運動を取り締まることになった時、僕も反テラポルトス運動に関係があったとして取り締まられる可能性があった。カズマと反テラポルトス運動の接点がなければ、それを言い訳にカズマが協会をまとめていける。もし僕らが反テラポルトスの立場をとる場合、あるいは君たちが負けて国連宇宙機構テラポルトスの勢力がなくなる場合は、僕が持つ反テラポルトス運動へのコネクションを使えばいい。」

「そういうこともあって、僕は全く知らなかったんだ。」

カズマがそういいながらユウキの方を叩いた。

「奴らが天の川憲章とそれによる新たな価値観を否定するために、何らかの行動に出ることは予測していた。もっとも、絶対あり得ないと思っていたけど……。」

ユウキはちょっと顔を背けた。

「偶然、過激だったシャルル・コルドを会場で見つけて、暗殺犯たちが3人を狙っているのを見て、とっさに撃っちまったんだ。」

「しかし、あの対応は正しかった。」

ショウタの言葉に全員が頷いた。撃たれたセンカも大きくうなずいた。

「メイルとレイアの2人は、足を撃たれて倒れたし、出血も派手だった。一見はね。」

ハルカがみんなに向かって話し始めた。

「でも実際は出血しやすいだけで急所でもなんでもないし、うまく掠らせてくれたから本当に軽いけがで済んだの。一瞬でそこまで判断して撃ちぬいたのは、さすがだと思った。」

「それを見た暗殺犯たちは、ユウキを仲間と思ったのか、敵だと思ったか……だが先を越されて、獲物は倒れて注目を浴びていて、周りには助けが群がっている。奴らを思いとどまらせるには十分だったし、もし奴らに撃たれるがままになっていたら、3人は見事に急所を狙われて死んだ。」

ショウタの淡々とした声が響いた。

「あえて撃つことで、3人を守る。いい決断だった。」

「でもさ。」

タケルがお茶をすする。

「普通、撃てないだろ。ユウキの射撃の腕は知ってる。でも、俺は撃てない。一歩間違えれば殺してしまうし、自分は裁かれて最悪死ぬ。とっさによく……銃を向けられたな。」

しばらく、沈黙が続いた。重い沈黙をスズナが破る。

「なんなら、センカもよく、ユウキの意図を理解したよね……あの一瞬、メイルとレイアが撃たれて、会議がめちゃくちゃになったのを目の前にして。」

再び、沈黙が続いた。やがてセンカが口を開いた。

「実は、ユウキになら、いつ撃たれてもいいと思ってた。今も思ってる。だから受け入れられた……。」

「は?どういうこと?」

スズナが聞き返す。

「わたしが辺境戦争の後、やったことは、ユウキにとって裏切りに等しい行為であると、わたしはずっと思っていた。」

センカはポツリポツリとつぶやくように話し始めた。

「ユウキとカズマ、ミノリとミズキは、アルテミスケノンや戦艦オリオンに協力してくれたし、Z作戦も協力してくれた。一緒に太陽系の未来を作ってくれた。でもみんなは……。」

センカはユウキとカズマをしっかり見つめた。

「移民星アスの子供たちに過ぎなかったんだよ。辺境戦争ですべてを失った。被害者なのに……。メカと同じくらい、テラポルトスやポイオーティア、地球や大人を怨んでいるはずなのに、ずっとついてきてくれた。」

「ああ。」

ユウキがぼんやりした顔でつぶやいた。センカは続ける。

「そんなユウキとカズマが近くにいたのに、ユウキがあえてそういう立場をとってくれているのに、わたしは戦略担当として、急ぎすぎた……。太陽系の復興や気持ちの整理整頓もできていないのにメカを作った鉄の星と交流しようとし、メカに襲われた緑の星を助けようとした。」

センカはいったん息継ぎをするように間を置いた。

「わたしは、移民星アスのアサヒユウキを、裏切り続けた。だから、ユウキがいつか、わたしに銃を向けるだろうと思っていた。だってわたしは……。」

センカはユウキを見つめた。

「メイルとレイアを言い訳にして、地球を中心に太陽系が団結することを目指してしまった。それは、宇宙移民の人たちにとって……ユウキにとっての『古い考えの大人』になってしまったんだ。そうなったときは……。」

「銃で殺す。僕はそう約束した。」

ユウキが続けた。

「いつ撃たれるか、正直そう考え続けてた。」

センカは少し笑った。

「だからあの日撃たれた時、正直それをすべて受け入れられたの。ああ、自分は死んで当然なんだって。」

「センカ!」

ショウタが叫んだ。それをセンカは笑って制止する。

「でもユウキの目を見て思った。それに、アスでメカを一発で撃ちぬいたユウキなら、わたしも一発で殺せる。なのに殺さなかった。何か理由があるだろうと思った。そこでスーマーの資料を思い出した。すべてがつながったと思った瞬間、ユウキが警備兵に撃たれそうになっていて、とっさに飛び出してしまった。」

センカはふふっと笑った。

「そうしたら、脇腹に穴が開いた。」

「で、そこから意識を失い、延々と眠り続けた。」

「こっちに仕事を押し付けてね。」

ショウタとリンカがちらっとセンカを睨んだ。

「本当に大変だったんだから。ご両親の気持ちにもなってあげて。」

リンカが静かに続けた。

「うん、軽はずみだったとは思う。でもあれ以外にユウキとあの警備兵さんを助ける方法がなかった。」

「センカのほうはわかった。でもユウキ、なんでお前は?」

コウスケが再び聞いた。ユウキが話し始めた。

「僕が独立派になろうとしたように、センカが革新派として『古い考えの大人』を演じ始めたのには気づいていた。もちろんそれが演技なのも知っていたけど、納得できていない自分もいた。」

ユウキはみんなを見渡した。

「センカとメイルとレイアを助けようとしたのは事実だ。でも心の本当に奥で、僕は『古い考えの大人』への反発を強めてた。センカを助けたい気持ちと、センカを殺したい気持ち。とっさに銃を出さざるにはいられなかった。あの時僕にできたのは、銃を撃つことだけだったし。」

ユウキはカズマと向き合った。

「僕にはカズマと、みんながいる。僕がやりたいことは君たちがやりたいことと同じだ。僕がたとえ銃を撃っても、大丈夫だと信じていた。信じてよかった。」

ユウキはみんなを見渡した。

「また、ここのテーブルにみんなで集まれて……。」

だがユウキはセンカと目が合うと、突然泣き崩れてしまった。カズマ以外は、初めて見るユウキの涙だった。

「……本当によかった。」


テラポルトスの食堂は少し騒がしい。いつものことであるが、目前に迫った辺境戦争の2年目の慰霊祭の準備がそれに拍車をかけていた。

何かのために動き回る人々。戦艦オリオン、移民星や宇宙ステーション、アルテミスケノンベースキャンプ、鉄の星ヒルタのヒルタポリスや緑の星リンネルーアのリンネルーアポリス。あらゆる場所でチームゼロを囲む心地よいざわめき。

子供たちは暖かいざわめきの中、互いがこの高校生の3年間を、宇宙で無事生き延びたことをあらためて実感していた。


この話で、この章はおしまいです。

高校生ながら宇宙を背負った10人。無事に高校を卒業することができました。

皆さんもここまで読んでくださり、ありがとうございます。


さて、いよいよ大学生編に突入です!

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