あとしまつ
「で、なんでわたし、病室でこんなことしなきゃいけないわけ?」
「当然よ。自分で銃の前に飛び出して大騒動になったんだから、始末書のひとつやふたつ書きなさいよ。」
リンカの毒舌ぶりに、センカは戦艦アルタイルの病室で閉口していた。
「さすがにセンター試験まではお休みくれるみたいだから、今のうちにやれることやっといたほうがいいと思うよ。」
「わかった。」
センカは病室で頬を膨らませた。目の前にはあちこちからの書類やら何やらで埋め尽くされていた。パソコンのメッセージは正直見たくもない。
「はぁ。」
センカはため息をついて、作業に取り掛かった。
「あと、よろしくねー。」
リンカは病室を出ると、自分も安堵のため息をついた。
それと入れ違いに、通信が入ってきた。
「はい、ウエキです。」
「ウエキ戦略第1課長、戦略第2課のユリアン・ゲープハルトです。」
「おつかれさまです。」
センカとユリアンは画面の中で敬礼を交わした。2人とも軍籍保持者であるから、敬礼は妥当であった。
「さっそくですが、地球の各国政府からの問い合わせが殺到しています。」
「でしょうね。」
「ええ。そもそも天の川憲章は採択されたと言っていいのか、とか、それに伴う新ルールについてとか、あとはあなたが動けない間のLSSEの体制とか。」
「嫌になるね。」
センカは少し笑った。
「こちらもうまいこと対応しておきました。LSSEに反感を持っている国も少なくありません。対応は慎重にしたほうがいいと思われます。」
「ええ、そのあたりはあなたに一任する。決して反テラポルトス運動を必要以上に弾圧しないように。寛容さを見せつけないと、LSSEが『連盟』を名乗った理由にならないわ。」
「わかりました。」
ゲープハルトが手元の資料をめくりながら言った。
「それから、2か月の休暇を受理しました。そのあいだの勤務体制や連絡系統なども確保してあります。」
「ありがとう。」
「ゆっくり休んでくださいね。あと試験頑張ってください。」
ユリアンはそういうと敬礼した。やはり、人生の先輩である。センカが敬礼を返すと、画面が消えた。
ふと窓の外を見る。星空が広がっていた。艦内放送が入った。トウキの声だった。
「ただいまより、宇宙の裂け目から藍色の宇宙に入ります。総員用意せよ。」
たちまちまばゆい光に包まれたかと思うと、今度は星のない藍色の深みの世界に包まれた。
再び資料をめくった。
「さすがです……。」
ヒュンベルガー首相の手腕は大したものだった。あれだけの血が飛び散った天の川憲章を守り抜いたのだ。ヒルタの独裁者と言われ、場合によっては敵になりかねなかったシャスタ・ヒュンベルガーも、今では頼れる大人であった。彼との協力関係が築けたことは、LSSEとして、チームゼロとしてはかなりよいことであった。
センカたちがいまこうやってすんなり地球に帰れているのも、ヒュンベルガー首相をはじめとする鉄の星ヒルタの官僚たちのおかげであった。
「ここから先は、大人たちの仕事よ。」
そういってくれたのは、リーヒ女王であった。センカは改めて、2つの星の元首たちに向けて礼をする。結局センカたち子供が始めたことの後始末をしてくれたのは大人だった。感謝の念でいっぱいだった。
「さぁ、あとちょっと。」
センカは資料に向かって笑いかける。ひきつった笑いだった。
「今の自分にできることはやらなくちゃ。」
藍色の宇宙はどこまでも静かだった。




