奇跡の記者会見
ショウタたちチームゼロの面々は失意の表情のまま、記者会見に臨んだ。
最初に、メイルとレイアの状況を説明した。比較的軽い傷で済んだことを淡々と説明する。
続いて、センカの状況を説明した。意識不明の重体であることはすでに知られていたが、詳しい説明はされていなかった。
「ウエキセンカ戦略局戦略第1課長は……いまだに意識が戻っていません。我々は……せめて彼女を、故郷の家族のもとで、普通の高校生の女の子として、最期を迎えさせたいと思っています。そのための治療を続けると同時に、この会見直後、サメロトリアテロ型戦艦3隻を地球に向けて発信させます。」
ショウタは淡々と述べた。記者たちのざわめきが大きくなる。
「では、ウエキ戦略第1課長は……?」
ショウタは首を横に振った。ざわめきがさらに大きくなった。
「僕は、彼女にせめて……やすらかに……旅立ってほしいと思っています……。皆さんのご協力をお願いします……。」
ショウタは深々と頭を下げた。ざわめきが消えた。
ショウタは頭を上げると、言葉を続けた。
「今日、皆さんにお伝えすることはもう1つあります。」
ショウタはそう言ってユウキのほうを見た。
「アサヒユウキ戦略局戦略第3課長が、守ろうとしたものについて、です。」
ショウタは大きく息を吸い込んだ。それから、事件が起きた時の状況を一つ一つ確認する。使われた銃、銃の男たち、ユウキの射撃の腕、彼が背負ってきたもの。ショウタができる限り集めた状況証拠であった。
「以上を合わせ、考えた結果、彼はセンカたちを殺そうとして撃ったわけではないという結論にいたりました。」
ショウタはユウキを見つめた。
「お前は……センカを守るために撃ったんだろ。」
ユウキは黙って、驚いたようにショウタを見つめた。それからチームゼロの全員の顔を見渡す。
チームゼロの全員で話し合って導いた結論だった。ユウキがセンカを殺すわけがない。彼が銃を握るときは、誰かを守るときであった。
しかし、証拠がなかった。
ユウキは息を吸い込むと、やっと口を開いた。
「違う……違うよ……。僕は、センカを、もちろんメイルもレイアも殺すつもりだった!」
ユウキは叫んだ。
「辺境戦争で、僕らはすべてを失った。すべてを、すべてをだ!」
ユウキの目に涙が浮かんだ。隠してはいたが、これもまた自分の本心であることにもう気付いていた。
「なのに、僕たちはまた地球に縛られて、僕らからすべてを奪った機械を作った人々と仲良くしろという。」
全てをぶつけようと思った。次々と思ってもいなかった言葉が出てきた。
「そりゃあ、すばらしいことだよ。天の川憲章、信じる、可能性、希望。でもそれだけじゃ、それだけじゃ語れないこともある。僕らは、大切なものを失った悲しみや悔しさを、どこにぶつければいいんだ!僕はどうすればいいんだ!僕らはまだ子供だった、なのに!」
ユウキの言葉を聞いていたカズマは、涙を抑えられなかった。本心だった。それをやっと口にできたのだ。こらえきれず、思わず嗚咽を吐いた。
「僕らは……僕は……。」
ユウキは叫んだ。
「それでも、あいつは前を見続けた。悲しみも悔しさも、そんな暗闇の中にすら美しい希望という可能性を見いだせるんだ。それに僕は何度も救われた。命だけじゃない。本当に救われたんだ。だから……。」
ユウキは座り込んだ。歯を食いしばるように呟いた。
「暗闇しか見ない大人から、守りたかったんだ……。」
ショウタは、黙って立ち尽くした。賭けに失敗したのか成功したのか、まだわからなかった。
一か八かの勝負だった。記者会見の場で状況証拠を並び立てた上で、ユウキから自白を引き出し、証拠をそろえる。しかしユウキの独白は思っていたものよりもずっと生々しかった。
「僕が犯人である証拠はそろっているけれど、僕が犯人でない証拠は何もない。」
ユウキは静かに告げた。
「もう十分だろう……。」
「十分じゃ、ない。」
不意に鋭い声が聞こえてきた。ショウタは後ろを振り返った。その声に聞き覚えがあった。
「あっ……。」
全員言葉を失った。
正装姿のセンカが、そこに立っていた。
センカがゆっくり歩き出す。だが全員、彼女がテーブルを支えにして歩いていることに気付いた。それでも彼女は歩いて、会見場の舞台の中央まで来ると、あたりを見渡した。
「リンカ。」
「なに……センカ……?」
「わたしのコスモクラウドのアカウントをハッキングするのにどれくらいかかる?」
「パスワードは?」
「もう、知ってるでしょ?」
「ちょっと待って。」
リンカは手元のノートパソコンを取り出した。しばらくキーボードの音のみが響いた。
「トウキ、この会見が少し長引いても、航路に差し支えはない?」
「問題ない。想定の範囲内だ。」
「ありがとう。」
センカはあたりをもう一度ゆっくり見渡した。
「ショウタ、ありがとう。そろえられるだけの証拠を集めてくれて……おかげで、わたしは仲間を失わずに済んだ。」
「ああ、そうか。」
「ええ。」
「センカ、アクセスしたよ。」
「その中の、スーマーってフォルダの中の、一番新しいファイルをなんとかして全宇宙に公開して。」
「……いったんわたしのパソコンにデータを移して、情報局情報第1課長の権限で、LSSEの公式ホームページにアップロードするわ。それでいい?」
「ありがとう、リンカ。」
「コウスケ、ホームページのほうお願いしてもいい?」
「任せろ。」
しばらくまた、キーボードの音のみが響いた。
「センカ、アップロードした。」
「それじゃあ、それを開いて。」
センカは淡々と続けた。
「私が、地球を離れる直前に受け取った情報です。内容は……私たちの暗殺計画でした。」
ざわめきが広がっていった。
「ウエキ戦略第1課長、その情報はどこから?」
「この情報そのものは、友人のスーマー・ヤオから。彼はあくまで反テラポルトス運動の1つとしてこの情報を仕入れたんだけど、個人的に調べてみたら、暗殺計画の概要が入っていたの。」
センカは言葉を続ける。
「この、暗殺計画の指導者は、反テラポルトス運動家の、シャルル・コルド。彼は、様々な人を言葉巧みに味方に引き入れようとした、その1人が、ユウキよ。」
「シャルル・コルド……まさか?あいつ?」
ユウキの言葉にセンカは頷いた。
「ミノリから、あなたが頻繁にスーツの男と出会っていると聞いてから、ひそかに彼のことも調べていたの。結構大変だったんだけど、地道に調べたらいろいろわかって。」
センカはそういって記者たちのほうに向き直った。
「わたしは、アサヒユウキが私たちに殺意を抱いていない証拠として、この暗殺計画の概要書および、シャルル・コルドをはじめとする実行犯のデータをすべて提出します。」
ショウタは呆然としていた。証拠が出そろった。
「ユウキ。」
センカは突然ユウキに声をかけた。
「ありがとう。助けてくれて。」
「あの時の恩返しをしたまでだよ。」
ユウキはそっと笑った。
「いえ、あの時もあなたは私に銃を向けて助けてくれた。」
センカもにやっと笑った。
「さぁ、地球に帰るんでしょ?」
ざわめく記者たちとフラッシュの中、センカは堂々と部屋を出ていった。チームゼロも後を追う。部屋の外には、メイルとレイアがセンカを待ち構えていた。
「うっ。」
突然センカは呻くと、いきなり倒れこんだ。
「センカ!」
メイルとレイアがとっさに支えようとする。飛び出したユウキに支えられ、センカは床に横になった。顔色も悪い。さっきまでの堂々とした風情はまるでなかった。
「お前……体まだ……治ってないだろ。」
ショウタはセンカの腕をさすった。センカはぼんやりと目を開けた。
「だって……守りたかったんだ……。」
ユウキが嗚咽を漏らした。
「お前……何なんだよ……。」
「ばかっ、センカ!」
レイアが半泣きで叫ぶ。
「センカ、急に目を覚ましたんだ。で、いきなり起き上がろうとして、ショウタは?ユウキは?ってみんなのことを聞くんだ。記者会見のことを話したら、いきなり正装を持ってきて、って。まだふらついてて、私たちの支えがなきゃ立つこともできないのに……。」
メイルがセンカの頭をなでながらいった。
「ありがとう……2人とも……。」
「とにかく、検査ね。なんだかんだ元気そうだし、異常がなければ、地球に帰ろう。」
ハルカが、わざと明るい口調で告げた。
「センカ、背負ってくぞー。」
ユウキがそういってセンカを背負った。
「あ、意外と重いなこいつ。」
「なに……よ……。」
やっと、いつも通りの笑い声が戻ってきた。ショウタはほっとして窓の外の、空を見上げた。




