沈黙の病室
ヒルタポリスのある病院の病室の一角に、天の川銀河の中枢たちが集まっていた。
ショウタ、コウスケ、リンカ、スズナ、タケル、トウキ、ハルカ、そしてカズマは、黙って座り込んだり、歩き回ったりしていた。
先ほど手術が終わったメイルとレイアも、集団病室のベッドに横になりながら、やはり黙っていた。鉄の星ヒルタの代表と、緑の星リンネルーアの代表も座り込んでいた。
不気味な静けさがあたりを包んでいた。
大混乱になった会場をまとめたのは、ヒュンベルガー首相であった。彼は混乱した会議のすべての後始末をこちらがすると言い切り、ショウタを病院へと送り届けてくれた。
「君の大切な戦友だろう。ここはヒルタ。わたしがなんとかするから、近くにいてやりなさい。何か進展があれば、すぐに知らせてくれ。」
今も殺到する民衆やマスコミに対応してくれている。頼れる大人だった。
緑の星リンネルーアのリーヒ女王からの通信もさきほど入った。まず姪のレイアの無事を聞いて安堵したようだが、混乱に終わった会議と、センカの容体を心配しているようだった。
彼女によると、中継映像を見たリンネルーアの人々が、説明を求めて王宮に殺到しているようだ。
「これはリンネルーアの問題ですから、わたくしたちでなんとかします。」
リーヒ女王はきっぱり言い切った。
「けれど、そちらの状況もなるべく早く教えてください。」
その不安げな声に、ショウタはリーヒ女王のやさしさを垣間見た気がした。
地球の様子も似たようなものらしい。
テラポルトスに残してきたユリアン・ゲープハルト戦略局戦略第2課長曰く、テラポルトスにマスコミや民衆からの問い合わせが殺到し、関係機関や政府の施設には、説明を求める不安げな人々が集まりつつあるという。
「ウエキ戦略第1課長の容体は?」
やはり直属の上司であるからだろう、ユリアンも不安げな顔で聞いてきた。
「現在、手術中だ。分かり次第連絡しよう。」
「そうですか。アサヒ戦略第3課長は?」
「身元はこちらに移してもらった。戦艦ベガの営倉で保護している。」
「僕は未だに……信じられません。」
「俺もだ。」
ショウタは通信機の前でつぶやいた。
「それから……ウエキ戦略第1課長のご家族から、容体について問い合わせが……。」
「そうか……。すまない。脇腹を撃たれ、手術中としか伝えられない。」
「わかりました……。」
「とにかく地球のほうの対応はゲープハルト戦略第2課長に任せる。また詳しいことが分かり次第連絡する。」
「わかりました。」
ユリアンの不安げな声が、今でもこびりついていた。
不意に沈黙を破るように、医師団が病室に入ってきた。3つの星から集められた医者たちである。
「手術、終わりました。」
「ありがとうございます。」
ショウタは頭を下げた。この会議のための代表団の責任者はショウタであったし、チームゼロとしてもショウタがリーダーであることに変わりない。その彼がいまや、センカの保護者替わりでもある。
「センカの容体は?」
メイルがベッドから身を乗りだして尋ねた。
医師たちは顔を見合わせた。やがて1人の医師が、つらそうに告げた。
「ウエキセンカさんの、ご両親と連絡をとることはできますか……。」
ショウタはうなだれた。コウスケが黙ってショウタの肩を叩き、通信機を取りに向かった。
通信機越しに、センカの自宅のリビングが映った。センカの両親が不安げな顔で通信機に映る。秘匿回線で特別につないだものであり、映像は少し荒い。
「カズヤくんは?」
メイルが尋ねた。
「メイル……あの子は、先に寝かせました。」
センカの母親がしっかりした声で答えた。医師はそれを聞くと、ゆっくり切り出した。
「手は尽くしましたが……お嬢さんは傷が深く、あと1週間もつかどうか……。」
センカの母親が泣き崩れた。通信機越しに聞こえてくる泣き声に、一同は一層沈んだ。
「現在、我々のタンクベッドの技術で、なんとか生命維持をしている状況です。」
「そう、ですか……。」
センカの父親がそういて目をそらした。
「我々としては……なるべく早くお嬢さんをご家族のもとに……せめて故郷の星で最期を迎えるべきだと……思います。」
医師が告げた言葉に、病室はすすり泣きでいっぱいになった。
「どうでしょう……?」
「それは……。」
センカの父親は少し悩んだが、きっぱりと告げた。
「あの子は……地球の未来を背負った子です。覚悟は……覚悟はしていました。娘をどうするかは、LSSEの皆さんに……お任せ……します……。」
ショウタは唇をかみしめた。
「司令官、どうなさいますか。」
ショウタの目から涙があふれた。今すぐセンカを地球に帰してやりたい。しかし今無理に引き上げようとすれば、天の川銀河に動揺を与えかねない。
「3日後に出発……航海長、できるか。」
ショウタの声は、ぞっとするほど低かった。
「今までの航路データがある。問題ない。」
「最短ルートを導き出してくれ……。スズナ、タケル。」
「補給と出航準備を3日ね。問題ないわ。」
「任せておけ。こういう準備は俺たちの仕事だからな……いつも、いつもだ。」
「すまない……コウスケ、リンカ、そしてハルカ。」
ショウタは3人を見つめた。
「戦艦アルタイルに、タンクベッドを設置してくれ。そのための医療技術の習得も。頼む。」
「わかったわ。」
「マッドサイエンティストの……。」
リンカが珍しく言葉に詰まった。
「出番だ……。」
コウスケが沈んだ声でつづけた。
「しかし、肝心の説明やら後始末やらは……本来ならセンカの仕事だけど……。それにユウキのことも……。」
「それは……。」
ショウタは少し悩んだ。しかしやるしかない。
「カズマ、君はミノリとミズキと共に、戦艦ベガにいてくれ。そして、この事件のすべての決着は俺がつける。」
ショウタは静かにつぶやいた。
「さぁ、とりかかろう。残りの時間は少ない。」




