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あれから1年

太陽系辺境防衛戦争から1年がたった。


早朝、日が昇る前に大船団が滑走路を埋め尽くした。鉄の星ヒルタと、緑の星リンネルーアの代表団だった。チームゼロはその大船団を、黙って出迎えた。


「センカ……。」

「みんな……。」

レイアとメイルが最初に降りて、チームゼロの面々と握手をした。朝の冷たい空気が風と一緒に吹き抜けていく。

「慰霊祭は夕方から始めるから、それまではゆっくり休んで。」

センカはそれだけ言うと、少し目をそらして、それからゆっくりと立ち去っていた。


「メイル。」

レイアとメイルは相部屋だった。(ちなみにこれは2人の希望だった。)レイアに声をかけられて、メイルはハッとした。

「あ、ごめん。」

「大丈夫?」

レイアの重々しい声。普段のわがままでいじわるそうな声や、高く留まったような声、おちゃらけた声とはまた違う声だった。レイアが星を背負う王女であることを思い起こさせる声だった。

「まあ、ね。」

「やっぱり。」

レイアはメイルの顔を両手で包み込んだ。

「慰霊祭、無理に出席しなくても……。」

「でも……出なきゃ。何があっても出なきゃ。」

「メイル!」

「レイア、わたしは……わたしのために出る。だから水の星に帰ってきた。」

メイルはそう言った。しかし顔色が悪い。

無理もなかった。辺境戦争の敵は、彼女の両親が作り上げた自動防衛システムなのだ。どれだけ悩み、どれだけ苦労したのか、レイアはとっさに考えあぐねた。

自分もメカに両親を殺された身だ。いまでもあの機械の塊を許せない。しかしあくまで許せないのは機械であって、その開発者やその家族を許せないのではない。それでも誰かに責任を押し付けたい。でもそんなことで、誰かを、友人を怨みたくない。そんな複雑な気持ちでいっぱいだった。

だから地球の、太陽系の人々の気持ちもよくわかった。

「とりあえず、メイルは寝たほうがいいわ。」

「うん……。」

メイルは布団にもぐりこんでしまうと、レイアは1人窓の外を眺めた。岩場とわずかな緑の奥に、青い海が見えた。






センカは再び正装姿に喪章をつけて会場内を歩き回っていた。再びテラポルトスは弔問外交の場となりつつある。1年前も国連宇宙機構設立に向けて、白々しい演技をしていたのだが、結局今も、新しい太陽系の体制のために演技をしていた。

「ああ、ウエキ戦略部長。」

「あら、国連の。」

「はい。あれから1年ですか……。」

「ええ。もう1年とも、まだ1年とも。」

センカは会話をつづけながら、ちらりと向うの塊を見ていた。

リンカやコウスケが囲まれている。公開していない異星の技術についての情報や、テラポルトスのメインコンピューターYURIKAの情報を、引き出そうとする大人たちに囲まれているようだった。

スズナやタケルも新組織の構想や、それに伴うテラポルトス本部施設の計画について、これまた大人たちに追われているようだった。

ハルカとトウキも、異星との関連情報で追い回されているらしい。当然ユウキとカズマも、遺族などに追いかけまわされていた。

ショウタがいないと思ったが、すぐに見つけた。彼は軍関係者に囲まれているようで、いろいろと機密情報を嗅ぎまわっているようだ。センカもさすがに舌を巻いた。


テレビ局もうろついている。さっそくセンカもつかまった。無難な言葉を吐いては逃げるが、マスコミも必死だ。センカは思わずため息をついた。



夕日が沈むころ、慰霊祭が始まった。

慰霊祭の直前に、メイルとレイア、2つの星の代表団も会場入りした。地球のメディアの前に現れるのはほぼ初めてに近いので、フラッシュがまぶしく光った。いつにもまして神妙な顔つきのメイルと、存在自体が高貴さを醸し出しているレイアは、まったく動じない。


国連の代表やら、各国の首脳やらがスピーチを始めた。

「トウキ、寝ないで。」

スズナが隣のトウキを突っつく。

「まだ出番じゃないだろ。」

続いて遺族の言葉。彼らの言葉に、辺境移民再建協会への感謝の言葉が非常に多いのに、センカは気づいた。ユウキとカズマも気づいたらしく、やれやれという顔をしていた。しかし、すこし誇らしげなのを見て、センカはほっとした。

続いて、レイアとメイルの番だった。

「続きまして、緑の星リンネルーア、代理たる女王リーヒ・リンネルーア様の名代である、王女レイア・リンネルーア様のお言葉です。」

レイアが静かに立った。

「地球のみなさま、初めまして。緑の星リンネルーア、代理たる女王リーヒ・リンネルーア様の名代である、レイア・リンネルーアと申します。女王に変わり、緑の星リンネルーアと、鉄の星ヒルタ、そして水の星地球との友好関係が築けたことにお礼を申し上げます。」

レイアは静かに頭を下げた。

「また、辺境戦争で亡くなられたすべての方に哀悼の意を捧げます。」

レイアは間をおいて、語り始めた。

「私の両親である、先代のルヒート王、レイピア王妃は、やはりあの機械たちに殺されました。先日、私は両親の最後の通信をリーヒ女王から聞かせてもらいました。最後まで、リンネルーアの人々と、私の未来を考え、最後までともに戦った両親の最後に、深い悲しみを思い出さずにはいられませんでした。その機械たちは、鉄の星と水の星の方々によって倒すことができました。そしてわたしは、かけがえのない友を持つことができたのです。地球もリンネルーアも、暗く悲しい過去を持っています。でもその中にも希望がありました。その希望を、これからは紡いでいけたらよいなと、緑の星リンネルーアは願い続けています。」

レイアの美しいリンネルーア語は、様々な言語に直されて、全宇宙を駆け巡った。レイアがお辞儀をすると、会場からは拍手が沸き起こった。

「続きまして、鉄の星ヒルタ代表団、メイル・ノトメイア技術士官からです。」

会場が一気に静まり返った。メイルはゆっくり立って一礼すると、口を開いた。

「わたしの両親は、ヒルタポリスの研究者でした。そして両親が作り上げた自動防衛システム。私にとっては兄弟のようなものです……。両親は人の命を無駄にせずに星を守るシステムを完成できたことをとても誇りにしていました。」

メイルは言葉を必死で紡ぎだしていた。

「しかし、私たちにとっての『希望の可能性』であった機械システムは暴走しました。一部がわたしたちの制御下を離れ、遠い宇宙に飛び去ってしまったのです。そしてシステムは、システムは、私の大切な友人たちの、両親を、友人を、上司を、本当に大勢の人を殺してしまいました。」

メイルの目からは思わず涙がこぼれた。そう、自衛システムは希望だったのだ。無駄な内戦を防ぐための。

「なのに私たちはなにもできなかった。何もしなかった。本当に、どのように詫びていいのか……。」

メイルは言葉を失った。しばらく沈黙が続いたが、やがて言葉を再びつづけた。

「私たち鉄の星ヒルタが、どうしていくべきか、まだわかりません。しかし、この水の星地球と緑の星リンネルーアとの友好関係が、いつかその答えをくれると、私は……一人の科学者として信じています。」

しばらく沈黙が続いた。やがてユウキが、拍手を始めた。ぱらぱらとあちこちで起きた拍手は、やがて大きな拍手へと変わった。

「ありがとう……ございます……。」

メイルはそう言って、座った。その膝に、涙がしみ込んでいた。





「続きまして、辺境移民再建協会代表、そして遺族代表の、アサヒユウキさん。」

ユウキは妹のミノリの手を放すと、立ち上がった。

「レイア、メイル、ありがとう。」

ユウキはまずそういった。

「僕は、両親を、移民団の仲間を、戦艦オリオンの人たちを奪った機械メカが憎い。でも……メカが憎い、メカに復讐したいだけですべてがすむ時代は、戦艦オリオンと共に終わった、と僕は思っています。」

ユウキはそう言って、空を見上げた。

「あの人たちは、z作戦だけを残していなくなってしまった、未来のために、僕はそう思わずにはいられません。」

ユウキはそういうと、チームゼロの面々を見つめた。

「チームゼロのみんな。国連宇宙機構として、太陽系のために力を尽くしてくれた。僕はいつまでも君たち8人を尊敬しています。」

それから、メイルとレイアを見つめた。

「メイル、レイア。君たちのおかげで、僕ら辺境移民は、新しい希望を見つけた。敵を怨むのではなく、友達を信じる希望だ。僕はこの可能性をいつまでも続けたいと思っています。」

そしてカズマとミズキを見つめた。

「辺境だけでなく、すべての宇宙移民の皆さん。皆さんは深い傷を負った。それでも歩みをとめなかった。その日々の努力のおかげで、もうすぐ辺境の星々への帰還が始まります。ありがとうございます。でも僕の夢は、壊滅した移民星アスの再建です。すべての移民星が、再び希望にあふれた星になるまで、頑張っていきましょう。そして、支えてくれたクラモト兄妹に、改めて感謝申し上げます。」

ユウキは少し間を置いた。

「そして、ミノリ。父さんと母さんと移民団のみんながいなくなって、すごくつらかったのに、弱音の一つも吐かなかった。よく頑張ったな。ありがとう。これからも、一緒に頑張ろうな。」

ミノリは兄を見つめて頷いた。

「最後に、辺境移民として人類の大いなる一歩を踏み出し、辺境移民としての誇りを忘れずに敵と最後まで戦ったすべての辺境移民の皆さんと、僕らを守ろうとして死んでいった防衛軍の皆さんへ、哀悼の意と、ゼロパイロットとして守れなかった謝罪を込めて、このスピーチを終わりにします。ありがとうございました。」

ユウキはそう言って、深々と頭を下げた。


「最後は、国連宇宙機構戦術部戦術部長ならびに太陽系防衛軍連合艦隊司令官および戦艦アルタイル艦長、そして戦艦オリオン艦長代理、ハシモトショウタ大尉。」

「はい。」

ショウタが静かに立ち上がった。

「ぼくらは……。」

ショウタはあたりを見渡した。その時、会場の後ろのほうに、懐かしい集団が見えた。

全員戦艦オリオンの徽章をつけている。まさか。

だが次の瞬間、懐かしい集団は消えてしまった。ショウタはもう一度深呼吸をすると、あの伝説の艦長に向けて語り掛けるように、言葉を続けた。

「ぼくらは、あなた方を失わなければならなかったあの戦争の痛みを、決して忘れません。」

ショウタは最前列に座るチームゼロの面々を見つめた。

「ぼくらは生き延びた。この戦争の痛みを無駄にしないために。だから僕たちは……。」

ショウタは、自分自身に言い聞かせるかのように、しっかりと言い放った。

「前に進み続けます。何があろうと。この宇宙セカイにあふれている可能性を希望に変えるまで。そしてこの世界を面白くて、希望に満ち満ちた世界にしたいという、あなた方の夢を実現させるまで。」

ショウタは涙で目の前がかすんだのを感じた。

「僕らは、歩み続けます。」

そう言って、ショウタは深々と頭を下げた。拍手がいつまでも鳴り響いていた。宇宙のかなたからも、決して聞こえることのない拍手が響いてくるかのようだった。


これにて、First Contactsの章はおしまいです。

異星人とのファーストコンタクトが主なテーマでした。

とはいえ、チームゼロと3つの星の話はまだまだ続きます。

これからもよろしくお願いしたします。

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