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未知の宇宙

「この先を抜けると、いよいよ未知の宙域だ。」

トウキがにやりと笑って後ろを振り向いた。

「索敵を頼むぞ。」

ショウタは第一艦橋を見渡して言った。

「こちら戦艦ベルダーナ第一艦橋。まもなく出口の宇宙の裂け目ですが……。」

「こちら戦艦アルタイル。そのまま通過します。」

「了解です。」

時折ヒルタ宇宙軍の最新鋭の戦艦ベルダーナから通信が入ってくる。宇宙の裂け目の通行に関しては鉄の星ヒルタのほうが技術も経験も上だが、この先のメカとの戦いとなると、実戦経験者は水の星地球のチームゼロだけとなる。

「リンカ、こちらで解析したメカの痕跡は?」

「間違いなくここを通っているわ。」

リンカがコントローラーの画面を凝視しながらつぶやく。センカはそれを聞くと、通信機をとって戦艦ベルダーナのメイル・ノトメイア技術士官につないだ。

「こちら戦艦アルタイル、艦隊戦略長のウエキです。ノトメイア技術士官を。」

「はい、こちら戦艦ベルダーナ、ノトメイアです。センカ?」

「ええ。そちらのメカの解析の結果は?」

「だいたいの規模はわかった。地球を襲ったものとほぼ同じくらいの総母艦ね。」

「そうか……。」

「メカの弱点をたたくわ。こちらで作ったメカを弱体化させるプログラムをハッキングして撃ちこむ。そうすれば、かなり楽に倒せるはずよ。」

「とはいえ、油断は禁物。そうみんなに伝えて。」

「そうね。ありがとう。」

センカはそういって通信を切った。そのままショウタのほうを向いて、そっと頷いた。

「総員そのまま第一種戦闘態勢を維持!宇宙の裂け目を出るぞ!」









未知の領域は、驚くほど穏やかな海だった。

「通信用の人工衛星の敷設は完了したか?」

タケルとコウスケが確認を続けている。センカはそっとこぶしを握り占めた。しばらく宇宙を進んでいくと、突然レーダーが鳴った。

「メカか?」

ショウタがそっとつぶやくように聞いた。

「戦艦アルタイル。こちら戦艦ベルダーナのメイル・ノトメイアだ。」

「こちら戦艦アルタイル、ウエキセンカ。どうしたの?」

「レーダーで確認した敵影は、メカと思われる。これからこちらの技術士官で敵の無力化を始めます。」

「ありがとう。」

その時、またレーダーが鳴った。

「敵か?」

ショウタが身を乗り出した。

「いいえ、メカではないわ!」

メイルの声が少し震えた。

「ハシモト連合艦隊司令官。国連宇宙機構戦略部長および太陽系防衛軍連合艦隊戦略長、ウエキセンカ、意見具申。」

センカはしっかり敬礼して、かつて命を任せたパートナーであるショウタに向かい合った。

「許可する。」

「敵の偵察及び、レーダーに映った影の調査のため、偵察部隊を出すことを提案します。」

「誰が行くのか?」

ショウタが少しわかりきったような声を出した。

「地球側の偵察要員として、チームゼロの誰か、そして私が行くことを提案します。」

「理由は?」

「はい。メカの戦闘能力はかなり高いです。かつ実戦経験者はチームゼロのみですから、この人選は適切だと思われます。かつ今比較的手が空いているのが、連合艦隊戦略長である私であるからです。また、仮に異星人とのファーストコンタクトがあった場合、交渉人ネゴシエーターとなるのは国連宇宙機構戦略部長の私がいいでしょう?」

「わかった。ヒルタ側は?」

「あちらに一任しますが、メイル・ノトメイア技術士官を推薦したいと思います。彼女はメカについて詳しいですし、交渉人ネゴシエーターとしても経験がありますから。」

「……わかった。」

ショウタは一瞬唇をかみしめた。

「俺も同じことを考えていたが……。」

「なら話は早いですね。」

「ああ……。ウエキセンカ艦隊戦略長に、敵の偵察任務を命じる!今すぐゼロで出撃すること。」

「はっ!」

センカは敬礼して第一艦橋を飛び出そうとした。

「センカ、気を付けろよ。」

ショウタはついいつも通り声をかけた。

「ええ、いつも通り、命は預けたわ。」

センカは少し笑って飛び出していった。ショウタはその姿を黙って見送った。

「センカなら大丈夫だよ。なかなかの戦闘マニアだから。パートナーともどもね。」

リンカがさらっと言って、情報解析を続ける。

「おい、こんな時に。」

「いいじゃないか、ショウタ。」

コウスケがそう言って、ショウタの肩に手を置いた。

「なんだかんだ言って、ちょっと前まで国連宇宙防衛軍 特別青年地球防衛班、通称チームゼロっていって、みんなで仲良く飛び回ってたじゃないか。」

「立場が違うだろ。」

ショウタはそういって、あたりを見渡した。

「この俺が連合艦隊司令官、全員機構でも防衛軍でも要職を務めている。」

「でもただの日本人の高校生でもある。気楽にやってこうぜ。」











センカのゼロと、メイルのジュラーダが飛び立って、ある小惑星のあたりを飛び回っていた。あたりには岩の塊とも呼べそうな小惑星があちこちで漂っていた。

「センカ、どう?」

「メカは……いた。」

「そう?何機?」

「ざっと4機ね。総母艦は見当たらない。」

スズナとセンカが通信機ごしに会話するのを、ショウタはやきもきしながら聞いていた。

「センカ、いけそうか?」

「何言ってのよパートナーさん。」

センカはそうとだけ答えると、操舵槓を大きく動かした。

「センカ!」

「ここは戦艦オリオン航空隊補佐の出番。経験者に任せなさい!」

「わかった。引き続き総母艦を探します!」


センカは右から回り込み、最初の1機を落とす。宙返りして2機目の攻撃をよけている間に、3機目をロックオンしたが、かわされてしまった。

「やっぱなまってる。」

センカはそうつぶやきながら、うまいこと4機目を撃ちぬいた。体勢を立て直すや否や、残りの2機を続けざまに追い、あっという間に倒してしまった。

「メカ戦闘機4機落としました。」

「ご苦労。引き続き偵察を続けてくれ。」

ショウタはそっとパートナーをねぎらった。


「センカ。こちらメイル。」

「どうしたの?」

「総母艦を発見したわ。あの小惑星の裏に隠れているみたい。」

「さすがね。」

2機の戦闘機は並んで宇宙を切り裂いた。メイルが戦艦ベルダーナと戦艦オリオンに通信を送っているのを、センカは少しぼーっとしながら眺めていた。

「データを戦艦ベルダーナに送る。」

「了解。いったん戻ったほうがいいかもね。」

「待って。あっちの……小惑星、8時の方向に何か。」

「レーダーに反応?」

「生体反応がある……。メカじゃないわ。」

「ショウタ!」

センカは通信機に向かってどなった。

「まさか、航空隊を出したんじゃないでしょうね!」

「何もしていない。出撃したのはお前らだけだ。」

「となると……。」

センカは少し黙った。

「ウエキ機、正体不明の戦闘機の確認に向かいます。」

「ノトメイア機もです。」

2人は、かすかな胸騒ぎを覚えながら、その小惑星に降り立った。





ゼロも白い機体だが、その戦闘機はもっと白く、金の装飾が施された美しいカーブを持っていた。それが不時着したように乱暴に止められており、中に乗っていたパイロットが、宇宙服姿で外に出ていた。ゼロとジュラーダが止まり、センカとメイルが外へ飛び出した瞬間、そのパイロットは銃のようなものをこちらに向けてきた。

見たこともない宇宙服に戦闘機。進化や歴史の異なるヒトであることは明らかだった。センカは思わず、隣に立つ友人のことを考えずにいられなかった。彼女もまた、進化や歴史の異なる鉄の星ヒルタヒトである。最初は言葉も通じず、彼女を地球で守るためにありとあらゆる手段を使わなければならなかった。

全く知らない星に、しかも両親が作り出した、兄弟と言うべき自衛システムの機械メカがおこした戦争の傷が癒えていない星に、1人取り残されたメイルの苦労は、想像を絶するものだっただろう。一方で、辺境戦争で多くを失い、生まれ育った星と宇宙の命運を握ってしまったセンカたちチームゼロの面々の苦労もまた、想像を絶するものであった。

しかしそのつらさを越える価値が十分にあると、自信をもって言えるほどの何か、センカは「希望」や「可能性」と呼んでいたが、それもまたあったことも事実である。


「こんにちは!わたしは、センカ。あなたと友達になりたい。」

センカは、日本語と英語で語り掛けた。反応はなかった。

「わたしは、メイル。わたしも、あなたと友達になりたい。」

メイルが、今度はヒルタ語でゆっくり語り掛けた。一瞬パイロットが動揺したように見えた。

「何か、通じたの?」

センカがそっとつぶやいた時だった。耳をふさぎたくなるような音があたりを遮った。

「メカ!」

「戦闘機タイプか!こんなところにまで!」

センカとメイルはとっさに顔を見合わせた。メカの戦闘機が上空から3人を狙っていた。

「メイル!その人をお願い!」

センカはそう叫んで、ゼロに向かって走った。

「わかった!」

そう叫び返すと、メイルはパイロットに近づいてその腕をつかんだ。一気に走り抜けていく。

「あの。岩場まで、全力で!」

岩の隙間に2人は体を押し込むと、宙を見上げた。

「センカ……。」


「ゼロ、発進。」

センカは一瞬でゼロを飛び立たせると、メカを追いながら、戦艦アルタイルに通信を入れた。

「こちらウエキ機。小惑星にて生存者を確認した後、メカに襲われた。現在戦闘中。メイルが生存者のパイロットの保護にあたってる!」

「センカ!無事か!?今から増援を送るか!?」

「ショウタ、その必要はないわ!今のところ!」

センカはそういいながらレーザーを放ったが、メカはするりとそれをよけた。あたりの星空がぐるぐると変わる。

「くっそ!」

「センカ。レーダーに感あり!」

リンカの声が通信機越しに入ってきた。

「総母艦が動き出した。」

「ショウタ、メカがこちらに気付いた可能性がある。何か手をうたないと!」

通信機の向こうの第一艦橋が騒がしくなったのを、センカは敏感に感じ取った。

「センカ、戦闘中すまない。」

ショウタの申し訳なさげな声が聞こえてきた。

「くっ、またはずしたか……。要件は?」

「戦艦アルタイルと戦艦ジュラーダで、メカ総母艦をたたく。」

「わかった……今回はK作戦はないわよ。」

「戦略長が多忙なのはわかってるさ。そのメカ戦闘機を倒したら、メイルとそのパイロットさんと共に帰投してくれ。」

「ウエキ、了解。」

「必ず帰って来いよ。」

「お互い様!」

センカは操舵槓を大きく前に滑らせた。

「こんどこそ!」

ついにメカをロックオンした。そっとボタンを押す。レーザーの炎の中に、メカは消えていった。その横をすり抜け、再び小惑星に乱暴に着陸した。メイルとそのパイロットが、戦闘機に乗り込んだのを確認すると、再び空に舞い上がる。

「センカ。その子連れて戦艦アルタイルに戻って。」

「メイルは?」

「技術士官としての責務がある。」

「わかった。」

通信機がまた騒がしくなった。見慣れない白と金の戦闘機は、素直に後ろからついてきた。メイルはいったんスピードを上げて、戦艦ジュラーダに戻っていった。センカは機体をわざと不自然に動かしてから、ゆっくりと戦艦オリオンに向かった。その意味を、白と金の機体のパイロットも理解したようだった。






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