航海の合間
鉄の星ヒルタと、水の星地球の関係は良好だった。
1か月ほどの滞在で、互いの星が得た利益は計り知れないほど大きかった。
一部の乗組員を残して地球に帰還した連合艦隊と共に、ヒルタ宇宙軍の戦艦と代表団も同行していた。
地球人たちの混乱が予想されたが、どの場所でも代表団は歓迎された。
「とにかく、平和に進んでよかったな。」
ショウタがテラポルトスの食堂で、センカに笑いかける。明るい陽射しが差し込んでいた。
「ああ、本当だよ。まったく、センカがヒュンベルガー首相に啖呵を切ったときはぞっとしたよ。」
「コウスケ、センカの意図くらいわかっていたでしょ?」
コーヒー片手にノートパソコンをいじるリンカに、コウスケがくってかかる。
「いや、でもビビったよ。」
「まぁ、私も驚いたけれどね。この戦闘マニア!って殴ろうかと思った。」
リンカがさらっと言い放った言葉に、センカがやれやれという顔をする。
「悪意はないとはいえ、鉄の星には加害者としての責任がある。それを効果的にちゃんと伝えないと、太陽系で暴動起きかねないと思ったし。」
「でもあれはなかなかだったな。」
ショウタがコーヒーを飲みながらつぶやいた。
「あとでヒュンベルガー首相に言われたよ。あの子大変じゃない?って。思わず頷いてしまいたくなった。」
「そこで頷かないで、『そうですか?』って返したショウタも相当だと思うよ。」
トウキがしれっと毒を吐いた。
「まぁでも、あれくらい言ってくれたから、辺境移民としても納得できたのは事実だよ。」
カズマがそう言ってユウキの肩をたたく。
「ああ。場合によっては、辺境移民再建協会として国連宇宙機構に抗議する準備もしていたんだ。」
「そうならなくて本当に良かった。」
ハルカがそう言ってコーヒーを飲んだ。
いまや辺境移民再建協会は、宗教や企業、政党のごとく支持を集めていた。辺境移民の大部分はもちろん、辺境移民を支持したり、宇宙開発のさらなる拡大を目指したりする人々も加わり、地球人の中では相当大きな勢力となりつつある。
代表のアサヒユウキや、副代表のクラモトカズマにその気がなくても、国連宇宙機構に並ぶ一大勢力として世界を動かすことができるのである。
ユウキとカズマはまだ学生であるし、戦友であるチームゼロと敵対する気はなかった。そもそも敵対するよりもまず、辺境の復興が最優先だからだ。それでも移民たちの中には、メカや鉄の星ヒルタ、そしてそこと友好関係を結ぼうとする国連宇宙機構への不信感を持つものが大勢いた。また水の星地球の地球人として、あくまで太陽系はまとまるべきだという方針で政策を進める国連宇宙機構に対する、辺境移民の反発も大きい。
国連宇宙機構としても、辺境移民再建協会を無視できなくなってきたのである。
センカが鉄の星で強硬な態度に出たのも、地球優位を保ちたい保守的な人々や、移民たちの独立を目指す革新的な人々でバラバラになりつつある地球を、まとめていきたいからであった。その難しい現状を知ったヒュンベルガー首相をはじめ、鉄の星の高官たちは、被害者の感情をできるだけ大切にしてくれていた。
鉄の星ヒルタとしても、星内で起きていた反発から目をそらし、一致団結する機会になったと喜んでいるようだ。またノトメイア一家を悲劇の一家扱いし、同情心を誘うことで、加害責任の決まり悪さを和らげているようだ。
「ところで、スズナ。」
タケルが設計図から顔を上げていった。
「ん?どうしたの?」
「僕らの役職とか階級ってどうなってる?」
「現状維持。」
「その点も早く解決しなきゃいけないな。」
ショウタが頭をかいた。
「センカの新しい組織の構想が解決になってくれればいいが。」
「でもショウタ、これは相当な難題だぜ。」
カズマが言う。
「これを実現させるとなれば、辺境移民再建協会も改革を迫られる。」
ユウキが続ける。
「僕らが自治政府のようにならなければいけなくなってしまう。ちょっと想定外だよ。」
「でも、鉄の星との交流で、業務が急増していて。そろそろ太陽系の代表になるような組織にしたいしね。」
センカはため息をついた。
「人類宇宙委員会の支持をとりつけられる自信がない。」
「この間鉄の星で担架切った女子高生が、テラポルトス(ココ)じゃこれだ。」
コウスケがそういうと、笑い声が広まった。
「どっちにしろ、お互いつらい時期になりそうね。」
リンカがユウキとカズマのほうを向いた。
「そもそも、国連宇宙機構の部長クラスの人間と、辺境移民再建協会の代表クラスの人間が、テラポルトスの第一食堂でこんな風に一緒に高校の課題やってるほうがおかしいよ。」
ショウタがため息をついた。
「このメンバーで、世界を壊そうと思えば壊せるんだぜ。」
「いまなら、課題が辛すぎて、喜んで世界をぶっ壊してやる。もう数学分からない!」
「センカ、だからゼロの計器類に置き換えればいいんだって!」
「そう、訓練思い出して!」
スズナとハルカに囲まれ、実は生粋の文系のセンカは悲鳴を上げる。
「だって、この問題意味わからない!」
「だからここは三角関数を使えばいいの!」
「測量と一緒!」
「でもわからない!もう勉強したくない!数字なんて見たくない!」
「仕方ないよ、センカ。」
タケルがため息をついた。
「僕らずっと学校に行ってなくて、この課題出さないと単位もらえないんだから。」
「でも、鬼みたいな量だよな。もう、遠方への航海なんてごめんだよ。」
トウキが珍しく弱音を吐く。
「おい、艦隊航海長。」
連合艦隊司令官たるショウタは笑いながら、トウキの頭をポコポコたたいた。
様々な思惑と立場に、高校生たちは巻き込まれていた。それでもこの場は、当たり前の日常の風景が広がっていた。
久しぶりに、ユウキとカズマが出てきました。
ユウキとカズマも辺境の復興のためにあちこち飛び回っているので、あんまり高校に行けていないようです。




