3つの艦長帽
2人の艦長は、戦艦アルタイルの食堂へ向かった。
「デネブの艦長さんは?」
「スズナは忙しくて艦を離れられないと言っていた。」
「そう、いろいろ話したかった。」
「まぁ、YURIKAによって通信環境も大幅に向上したし、直接会えなくても大丈夫さ。」
「みんなと会えないの、結構つらいけどね。」
「ああ。頻繁に集まるわけにもいかないしな。」
2人は簡単なランチを挟んで座る。センカは戦艦ベガの艦長の紋章が入った帽子をとり、横に置いてため息をついた。
チームゼロは、連合艦隊の要職を歴任しているが、乗っている艦自体はバラバラになってしまった。戦艦の要職も兼任していたからである。戦艦アルタイルには、ハシモトショウタ、シイナリンカ、ニイムラトウキの3人が乗り込んでいた。センカは、オオノハルカと共に戦艦ベガに、残りのツツイコウスケ、ニシオカタケル、そしてスギヤマスズナは戦艦デネブに乗り込んでいた。
そして必要があれば連合艦隊の幹部として旗艦アルタイルに集合するというスタイルをとっていた。
よって8人が集まる機会はほぼなくなってしまったのである。
2人はサンドイッチやサラダといった軽い昼食を食べながら、それとなく仕事の話を始めた。
「戦艦ベガの様子はどうだ?」
「そうね、旗艦アルタイルや補給機能が一番強い戦艦デネブに比べて、役割に比較的自由が残っているでしょ? 当然戦略的においしい立場であることはわかっているし、比較的士気は高いとは思うけれど。」
「そうか。」
「気になるのはデネブね。」
「僕もそう思っていた。補給をメインにしたメンバー構成や積荷にしてしまったからね。」
「補給が一番大切なのだけれど……。華々しい戦歴にあこがれて防衛軍に足を突っ込んだ子たちにはつらいと思う。」
2人の艦長はそういって、またコーヒーを飲み始めた。
戦艦デネブ第一艦橋で、スギヤマスズナ艦長は軽く伸びをしていた。
「艦隊主計長。」
「何?」
スズナはちらりと横を見て、軽くため息をついた。
チャールズ・レスターはアメリカ生まれの国連宇宙機構職員だった。本人は花形部署である戦術部か戦略部に所属希望を出していたのだが、スズナ自身が彼の適正を見て、主計部に回したのだった。彼が任官してすぐ、鉄の星へ向けてテラポルトスを飛び立ったのだった。
そのせいか、チャールズ・レスターは主計部としての仕事に不満があるらしく、ことあるごとに嫌味や不満を口にするのだった。
スズナはそういったこともすべて知ったうえで、彼をスカウトした。ある程度は覚悟していたが、何度も嫌味を言われていい気分ではない。
「頼まれていた資料です。」
渡されたタブレット端末には、先ほど頼んだばかりの消耗品のリストが映し出されていた。
「戦艦アルタイルのものはこちらのファイル、戦艦ベガのものはこちらのファイルです。我々の戦艦デネブはこちらです。そして連合艦隊全体のものをまとめたのがこちらです。」
「ありがとう。早くて助かったわ。うまくいけば、宇宙の裂け目に入るまでにすべての補給が完了できるわね。」
スズナは自分よりもずっと年上の若者を見上げて軽く頭を下げた。
「それより艦長。戦艦アルタイルに呼ばれたときいていましたが……。」
「ええ。でもやることがたくさんあるから断ったの。」
「戦艦デネブ(コッチ)の仕事なんて我々だけで何とかなりますよ。艦長は旗艦アルタイルでの仕事もあるんですから、そちらを優先させたほうがいいのでは?」
「優先させるべきはこっちよ。どちらにせよ、主計部の本拠地は戦艦デネブ(ココ)だしね。」
スズナは笑って端末を返した。
「あなたに、消耗品の補給について一任するわ。宇宙の裂け目や鉄の星は私たちにとって未知の場所。最善を尽くさないと。」
「は、はい。」
うかない顔をするレスターを見て、スズナは艦長の帽子をかぶりなおした。
「レスター准尉。あなたに言いたいことがあるの。」
「なんでしょう?」
「戦術部や戦略部が花形だといまだに思っているのであれば、すぐにその端末をわたしに渡して。あなたに仕事を任せられない。」
スズナはレスターの目をしっかりと見つめた。彼の目に明らかな動揺が見えた。
「でも、花形って言われたら普通……。」
「ええ。でも本当の花形は私たち主計部だと思っている。」
「主計長……?」
「私たちがいま進んでいるのは、未知の世界なの。添えを安全に進むために、それこそ生きていくためにできるだけの準備をするのが私たち。」
レスターの目の震えが止まった。
「あなたの才能は、補給のかなめである戦艦デネブにこそふさわしい。だからあなたをここに連れてきたの。」
スズナは続けた。
「私は主計部に誇りを持っている。私にね、主計部に誇りを持たせてくれたのは、あの人……ブンタさんなの。彼のおかげでわたしは主計に誇りを持てた。私にはその責任がある……。」
スズナの目は再び、レスターの澄んだ目を捉えた。
「私は全力で主計と向き合って、主計に誇りを持つ。だからあなたも、主計を好きになってほしいな。」
「ところで、センカ。」
「ん?」
コーヒーを飲み終わったセンカに対して、ショウタが声をかけた。
戦艦アルタイルの食堂は、昼食時ではないのにもかかわらず、結構混んでいた。おそらく非番の者や休憩中の者が休んでいるのだろう。
「戦略部として、今後の方向を決めてくれたのかい?」
センカは少しうつむいた。珍しく即答されなかった。
「すごく難しい。」
やっと絞り出した言葉がすべてを語っていた。
「そうか……。」
ショウタは艦長の帽子をかぶり直し、センカをもう一度見つめた。
「お前が戦争の痛みと平和への想いを誰よりも持っているのは知っている。お前なら歴史を作っていけると思うし、お前に任せたい。」
センカは黙って立ち上がり、艦長の帽子をかぶりなおした。しばらく無言が続いた。
「ごめん……。行かなきゃ。」
「そうだな。」
自分の艦に戻るセンカの目に光る涙の後には触れず、ショウタも黙って引き返した。




