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宙へ

サメロトリアテロ型宇宙戦艦、戦艦アルタイル、戦艦ベガ、戦艦デネブの3隻は、秋の恵みに湧く地球を出発した。


目的地は鉄の星である。





「ウエキ艦長、戦艦アルタイル艦長より、招集命令がかかっております。」

「ああ、受け取った。連合艦隊戦略長としての仕事をしにいかねばならないな。」

センカが少し硬い口調で言って、笑った。部下が少し困ったように笑って、持ち場に戻っていく。

慢性的な人手不足だった。センカたちチームゼロが要職を兼任せざるを得ないほど、経験を積んだものが不足していた。


センカは格納庫に向かった。戦艦同士の行き来は割と活発に行われており、移動用のシャトルが常に用意されていた。もっとも、センカは自分1人の時はゼロで移動していたが。


ゼロに乗り込みながら、ふと自分の胸元に目がいった。階級や所属を示す飾りやマークがあふれていた。

国籍章。センカは地球を表す青い丸の意匠を施した小さなバッジと日本の国旗をかたどったバッジが並んでついていた。

所属章。国連宇宙機構の大きなバッジと戦略部のバッジ。戦略部長のバッジだ。余談だが、戦略部の紋章は、交差するオリーブとペンであった。この意匠の原型は国連宇宙防衛軍の戦艦オリオンで生まれ、国連宇宙機構に受け継がれた。後の地球・太陽系連盟(LSSE)の戦略局にも受け継がれている。

他にも、戦術部はオリーブと剣、技術部はオリーブと組み合わさった歯車、情報部はオリーブと巻物、医務部はオリーブとアスクレピオスの杖、航海部はオリーブとコンパスの針、主計部はオリーブと穂、建設部はオリーブと金槌、というように意匠が定められていた。

さらに、戦艦ベガを表すハープを持つ織姫の紋章と太陽系防衛軍の戦術部の意匠、交差した剣とペンの紋章。

国連宇宙防衛軍は、国連宇宙機構という行政機関に組み込まれたが、組織としての「軍隊」は保つ必要があった。結果、国連宇宙機構の職員が防衛軍兵士を兼任していたのだ。

つまりセンカは、たった16歳ながら、国連宇宙機構戦略部 戦略部長であり、太陽系防衛軍戦略部 戦略部部長の大尉であったのである。(辺境戦争終了時は中尉だったが、その後昇進した。)ショウタに至っては、その防衛軍をつかさどる戦術部の部長であるため、最高司令官も兼ねていた。

当然兼任のし過ぎで、状況や職場によって上下関係が逆転する可能性もあった。それでも成り立っていたのは、あくまでトップにいたのがチームゼロであったからだ。彼らはしがらみや名声に左右される大人ではなかったからだ。

しかし、この事態が決して良いものではないことは、誰よりもチームゼロの面々が知っていた。ユウキとカズマが民間にこだわった理由も、そんな現状に反抗してのことであった。




「戦艦アルタイル、戦艦アルタイル。こちら戦艦ベガ艦長ウエキです。着艦許可願います。」

「こちら戦艦アルタイル、着艦ハッチを開きます。」

センカは難なくゼロを止め、戦艦アルタイルの第一作戦室に向かう。そこは太陽系連合艦隊戦略部の根城だった。

「戦略長。」

「すまないね。なかなかこっちに来れなくて。」

「いえ、戦艦ベガは一番重要な駒になりえますからね。」

「そうね。」

センカは髪をかき上げながら、大きなテーブルに座る。戦略部のテーブルはいつもこうだ。意見交換がしやすいよう、全体が把握できるよう、大きなテーブルに自由に座る。センカがタブレットや書類を見ながら指示を出すと、さっそく意見が飛び交う。

「メイルは士官学校の生徒よ。しかもかなり上級のね。彼女の情報は信用していいと思う。」

「しかし、メイル・ノトメイアも言っていた通り、配置が変わっている可能性もあります。」

「メカにいつ攻撃されてもおかしくありません。」

「それはハシモトショウタ君率いる、戦術部の仕事よ。押し付けます。」

センカがきっぱり言う。半分冗談であるが、半分正論だった。

「メイルから教わった鉄の星のルールになるべく従い、敵でないことを伝えるのが私たちの仕事。宇宙の裂け目に入った時点で、鉄の星の領域に入ったと言っても過言ではないわ。その前に、それまでのことは確定させなきゃ。」

センカはため息をつく。メカに襲われた恐怖は、地球人の奥深くに刻まれた。やられる前にやり返さなければ、という空気がどこかにあった。

「ファーストコンタクトは重要よ。気をつけなきゃ。」



ユリアン・ゲープハルト少尉は、鉄の星、惑星ヒルタの政府高官リストとにらめっこしているセンカに、そっとコーヒーを差し出した。

「お茶のほうがよいかとも思いましたが……。」

「ありがとう。」

センカはそれを受け取った。一気に飲み干す。

ユリアン・ゲープハルトは25歳のドイツ人の青年であった。彼自身は軍人になるつもりはなかったが、ドイツの大学で政治や歴史、行政などを研究し、その優秀さを認められて国連宇宙機構の戦略部に入った。歳が近く、専門知識を持ち合わせたユリアンの存在は大きい。

「一応、民主主義の星といえるのでしょうが……。」

「そうね……。」

鉄の星では選挙が行われているようだが、どうやら一党独裁状態でもあるらしい。宇宙の裂け目の発見で外宇宙への関心が高まり、「探索」という言葉を借りた軍拡が続いているようだ。

「おそらく彼らも異星人である私たちに興味を持つはず。」

センカはコーヒーカップをなでながらつづけた。

「さらにメイル・ノトメイア、国防の重要人物であるノトメイア博士の娘を保護し送り届ける技術を持っている……まぁ半分くらい鉄の星の技術だけど……。それから辺境戦争で被害を受けたことへの抗議。交渉すべきことはいくらでもある。材料もね。」

「話を聞くと、高度な工業化の引き換えに、自然や文化の多様性が失われてしまったとのことですから、観光などでの交流もできそうですね。」

「いかに対等な友人となるか。そこが勝負どころね。」

ユリアンは手元のタブレットを操作しながら、あれこれ確認を始めた。

「まずは交流のための基本的な取り決めが欠かせません。お互いの安全保障から始まり……慣れない環境でどう支援しあうか、それから貿易面の取り決めも……。」

その姿に、センカはエリーゼ・フェシカの姿を重ねた。







第一艦橋に立ち寄ったセンカは、操舵槓を握るトウキの元へ向かう。

「宇宙の裂け目まであとどれくらい?」

「あと2日だ。」

トウキがそっとつぶやく。

「そうしたら一気にひとっとびだ。」

「そう、戦略コッチも頑張らなきゃね。」

「ところでセンカ、ショウタと約束があったんじゃないのか?」

「ええ、そうだった。」

センカはそういって後ろを振り向いた。

「戦艦アルタイル艦長さん、お招きありがとう。」

「戦艦ベガ艦長さん、応じてくれてうれしいよ。」

ショウタがにやりと笑った。

「というわけで、僕は昼休みだ。」





チームゼロは兼任しすぎですが、そもそも国連宇宙機構の仕事の範囲自体があいまいなので、これくらいアバウトなほうがいいのかもしれません。といっても仕事多すぎですよね。

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