錯綜する結末
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
メイル・ノトメイアとウエキセンカはランドマークタワーの中を走り抜けていた。人手の少ない細い通路まで逃げてきていた。
ランドマークタワーで敵に包囲されたことを知ったセンカとメイルは、トイレに行くふりをしてわざと友人たちと離れた。敵は銃も持っている。早くも追いつめられていた。
「ウエキ、ウエキ……センカ、聞こえるか!? 今そっちへ向かっている。」
通信がひっきりなしに入ってくるが、もう余裕のある返事をすることもできなかった。思わず腕を抑える。先ほどかすった銃弾のせいで、赤い染みが広がりつつあった。
「メイル……逃げて。」
「センカ?」
「あんたに血を流させるわけには……。」
センカはそういって、メイルの深く青い目を見つめた。
「あんたには……。」
疲れが出たのだろうか、センカは自分の意識が少し朦朧としていることに気付いた。特殊な服なはずなのに、血がここまでにじんでいる。それだけの出血のようだ。
「でも……。」
「地球最強のスパイの弟子をなめないでちょうだい。」
センカが少し笑ったのを見て、メイルは覚悟を決めた。
「じゃあ……。」
メイルは一気に走り抜けた。その姿を銃弾が追いかける。
その隙に、センカは敵の懐に飛び込んだ。髪に着けていたあのヘアピンを敵に突きつける。しばらくもみ合うと、センカは敵の銃を蹴り飛ばした。そのまま敵を組み伏せる。
「はぁ、はぁ。」
センカは荒い息をしていた。そのまま敵のみぞおちを殴る。相手が気を失うのを見て、センカも倒れそうになった。それでもゆっくり立ち上がる。その時、誰かに抱き留められた。
「センカ!」
ショウタとコウスケのペアがセンカをその場に寝かせる。
「今止血する……造血剤あるか?」
「ハルカが持っている……俺も予備が少しだけ……。」
2人がそう言いながらセンカの腕をとる。
「待って……。」
センカが呻く。
「メイルが……あっちに……。」
「大丈夫だよ、センカ。」
「ユウキとカズマが保護するはずだ。」
メイルは走り抜けていた。必死に走る。しかし敵のほうが明らかに足が速い。さきほどの敵は巻いたが、新しい刺客が迫っていた。
頭の中で、士官学校の教官の声が響いてきた。何を言っていたかまでは思い出せない。
メイルの出身地である鉄の星、惑星ヒルタは、軍事色の強い星だった。
というのは、4つの衛星との距離が比較的近く、衛星への移住が比較的早くから行われていたからであった。どの衛星も、広い土地や大気、資源に恵まれていた。しかし、もちろんこれは惑星ヒルタの人々の高い技術力や好奇心がなければできなかったことである。
しかし、やがて衛星同士、そして惑星ヒルタが様々な理由で争うようになった。元は同じ民族ではあったのに、血を流しあうようになったのである。長い闘いの結果、母星である惑星ヒルタが4つの衛星をまとめる形でこの大きな「内乱」は終わった。
しかしこの名残は今でも残っている。徹底的に工業化し、防衛力を高めた都市、異様に高い防衛への熱。そして、子供たちが士官学校などの軍学校に通うことを義務付けられているような風潮。
もちろん現在のヒルタに、徴兵制度はない。しかし軍学校での訓練を受けないものは、忠誠心や義務感が足りないとか、体や心が弱いとか、とにかく悪い印象を持たれがちだった。卒業後は軍籍番号を渡される。この軍籍番号があるものは「予備役」として扱われ、いざというときは軍人として参戦する。また、失業などの理由で職を失ったりした場合、軍隊にすぐに入隊することもできた。
幸い、高校や専門学校、大学に通いながら学べるダブルスクール制度や、短期集中のコース、通信教育のコースなど、様々な学び方が用意されていた。学んだ内容によって卒業後の軍籍番号の価値が変わる仕組みだ。
メイル自身も、名門のヒルタ科学高等専門学校の生徒として、両親の研究を補佐するための知識や技術を身に着けながら、ダブルスクール制度で士官学校に通っていた。もうすぐ卒業であり、卒業後は准尉か少尉の階級をもらうことになっていた。ヒルタは任官するつもりはなかった。しかし両親の研究の内容が軍事的に利用されていることから、技術士官として任官する可能性もあった。
士官学校ではもちろん、身の守り方も徹底的に教え込まれる。しかし何も思い出せない。それでもメイルの体は自然と動いた。
「わたしも……軍人の端くれなのよ!」
自嘲めいたヒルタの言葉が飛び出た。メイルは走るのをやめ、そのまま体重を後ろにかけた。勢いよく追いかけていた敵に思いっきりぶつかる。その時、防弾チョッキの隙間から、あのヘアピン型の武器を差し込んだ。
敵がひるんだすきに、思いっきり蹴飛ばして組み伏せる。敵はナイフを振り回した。青い何かが飛ぶ。
サイレンサーで抑えられた鈍い銃声と共にナイフが吹っ飛び、敵がもがき苦しんだ。メイルは音のした方向を見る。アサヒユウキとクラモトカズマが走ってきた。
「メイル……?」
ユウキが駆け寄ってきて、言葉を失った。青い血が腕からにじみ出ている。
「メイル……けがをしたのか?」
カズマの言葉に、黙ってうなづいた。2人がメカに何をされたかはもう何度も聞いていた。メイルがメカを生み出した惑星ヒルタ、鉄の星出身であること、そしてメカの開発者の娘であることを気軽に打ち明けられることはできないことも十分理解していた。隠し通そうとしていた。
ユウキは素早く包帯を取り出し、メイルの腕をつかんで、包帯を巻き始めた。
「あまり見られないほうがいい。とりあえず止血しておいた。服にはついていないようだから、とりあえずテラポルトスまでは持つだろう。」
「あ、ありがとう……。」
メイルは唇をかみしめた。通信機で何やらやりとりしていたカズマは、メイルの治療が終わると手を差し出す。
「さぁ、もう集合時間だ。センカと合流したほうがいい。」
メイルとセンカは、無事高校の集合時間に間に合った。少しギリギリだったので、桜木町の駅前で担任の教師が小言を言い始めたが、センカの腕の包帯に気付くと、急に静かになった。
2人は、テラポルトスから急に呼び出されたので、そのまま空港からゼロで飛ぶ、ということにして、友人たちから離れた。そのまま「迎え」のバンに乗り込む。
「メイル、楽しかった?」
唐突にセンカが聞いた。
「ええ、とても。」
メイルもいたずらっぽく返す。笑い声がバンの中に響いた。
「作戦は無事に終了したようだな。」
「はい。メイルの拉致、あるいは暗殺を企てていたものたちは全員捕えました。現在事情聴取を行っています。」
「ご苦労、ウエキ戦略部長。」
「ありがとうございます。」
センカは暗闇の部屋で頭を下げた。戦術部長であり、チームゼロのリーダー、そしてこのテラポルトスや地球圏のリーダーとなりつつあるハシモトショウタと、今回の作戦を立てたウエキセンカ戦略部長の2人が人類宇宙委員会に呼び出され、今回の出来事について報告している。暗闇は不気味だったが、センカは精いっぱい胸を張った。
「ところでハシモト戦術部長、君は他にも目的があるね?」
「はい……。」
ショウタは唇をかみしめる。
「鉄の星、惑星ヒルタとメイル・ノトメイアに関するすべての情報の開示、およびM作戦発動の正式な承認。そして戦艦アルタイル、戦艦ベガ、戦艦デネブの出航の許可を。」
「異星の存在は、地球にとって、太陽系にとって、何をもたらすかわからない。君たちは、遠い未来に責任を追えるのかね?」
暗闇で響く声にむかって、ショウタは叫んだ。
「僕たちは前に向かって歩いていきたいのです。」
しばらく沈黙が続いた。
「よかろう。ただし性急な変化を、ヒトは好まない。それはよく覚えておくように。」
2人は敬礼して、くるりと回れ右をした。そのまま部屋を出る。誰もいなくなった部屋で、また声が響いた。
「さて、反テラポルトス運動への支援はどうなっているのかね?」
今日は終戦記念日ですね。今年はきちんと黙とうしようと思っていたのですが、気が付いたら夢の中でした……。
歴史を学んでいると、人類の歴史は戦争の歴史であるということが否応なく突きつけられます。そしてその戦争の切ない背景や原因、その戦争がもたらした進歩、その戦争で傷つき生きることをやめさせられた人々。戦争には本当に様々な面があると思っています。この物語が「戦争」と「平和」という、正反対なようで紙一重のものを考えるきっかけになってくれれば、そして「平和」がいつまでも続く未来が来るきっかけになってくれればと思います。




