スパイたち
センカはバスの中で、もう一度今日の計画をおさらいしながら、服装を確認する。
今日は制服ではなく、私服でよいとされていた。規則は厳しかったが、おしゃれをしようと高校生たちは気合が入っている。
センカもおしゃれなトップスやパーカーに、スキニージーンズの『ような』私服姿ではあったが、下は防弾や防火のためにあらゆる工夫をした戦闘服顔負けの戦闘用の服装であった。
長い髪は、部長就任の頃にわりとバッサリ切っていたのだが、伸ばしかけの髪にヘアピンをつけていた。耳には対メイル用の翻訳機と見せかけた通信機をつけている。
「メイル……。」
「わかってるわ。」
メイルはそういって自分の髪飾りを触った。
「これでも、若者の兵役や軍事訓練が奨励されてたとこ出身のよ。」
「あなた戦闘機のパイロットとしては一流だけど、近接戦闘はそこまででもないでしょう?」
周りに聞かれないようひそひそと話す。
「ヒルタ宇宙軍士官学校在籍中の学生に何言ってるのかしら。」
「あれ、メイルそうだっけ?」
「あれ、言ってなかったかしら。」
「だって学校行かずにここにいるじゃない。」
センカは少し笑った。
「えーと、それは……。」
「技術部門メインで研究ばかりしてて訓練してないって言ってなかった?」
「確かに技術部門メインになってたし、将来的に任官する可能性はほとんどなかったんだけど、訓練はちゃんと受けてたんだからね!」
小声のヒルタ語で悪態をつきながら、メイルは笑う。
「ごめん、メイル。翻訳機のせいで筒抜けだから。」
「センカ!」
「こちらウエキ、ポイントC通過。異常なし。」
「こちらハシモト、ポイントC無事通過了解。全員、ポイントD体制に移行。」
「こちらアサヒ。チェックポイント4にて、スナイパーらしき人物発見。発砲許可を求める。」
「こちらハシモト、サイレンサーを使用するなら許可する。殺すな。」
「了解。足を狙います。」
「こちらウエキ、足に防弾パットつけてる可能性もあるわ。まだ動くようなら、肩あたりも狙って。」
「了解。終わり次第オオノに任せます。」
「オオノ、了解しました。」
「ねぇセンカ。もしかして今日って取り込み中?」
英語で通信を続けるセンカに、友人が不安そうに聞いた。
「うん、仕事が進められない馬鹿が多くて、すごいたまってるのよね。」
「こちらリンカ。変な嘘をつくのはやめてほしいわ。」
「こちらツツイ、シイナだ。補給ポイント6に到着。」
「了解。コウスケ、この後ユウキと合流するよな。」
「了解。一瞬で予備の弾を渡す。渡し方はキッドが教えてくれたやつで。」
「あー。通信機で遊んでるみたい。これ仕事終わらないわね……。」
その時、センカの携帯電話が鳴った。センカは素早くあたりを見回した。「ごめんごめん」と言いながら、さりげなくメイルと自分を、隠れるのにちょうどいい場所に持っていく。
「この電話番号……はい、ウエキです。」
「人類宇宙委員会だ。」
「秘匿回線を使ってまで、何のご用でしょう?」
「さすが戦略部長。君たちの実行中の作戦だが、犯人を捕まえてどうするつもりなのかね? 君たちの報告からうかがい知ることができなかったのでね……。」
「捕まえてからゆっくりお話ししようかと。」
「ほう……。くれぐれも、君たちだけで進めるな。」
通信が切れる。センカは黙って携帯をしまった。
「こちらウエキ。人類宇宙委員会から牽制だ。」
「こちらショウタ。そりゃあ残念だ。犯人はもっと丁重に扱わなければだな。」
遠足の小グループは赤レンガ倉庫に向かった。イベント中らしく、屋台でにぎわっている。みんなで写真を撮ったり、屋台で食べたりと楽しみつつ、怪しい奴らを片っ端からたたいていく。華々しい戦績が通信で伝わる。
メイルは途中、リンカらしい人物が、隣の人物の食べ物に何か錠剤を入れているのを見たが、特に何も言わなかった。その数分後、犯人グループをトイレでとらえたという報告が入ってきた。メイルは思わず舌を巻いた。
そこから海沿いを歩いていく。一度センカにどつかれて、メイルはバランスを崩し、友人のマユの上に転んだ。
「ごめん!」
「うん、いいよいいよ。」
鞄を拾ったり立ち上がったりでみんながマユとメイルを見ている間に、センカが銃をさりげなく取り出し、遠くからこちらを狙っていた男の手を撃った。男が手に持っていた刃物を落とす。数秒後、後ろのほうでその男は無言でショウタに捕まり、センカはさりげなく銃をしまってメイルに手を差し出した。メイルは少し睨んで手をつかんだ。
「ポイントJで不審な男発見。」
「トウキ、何が怪しいんだ。」
「ダブみたいなやつがいる。」
「それは十分怪しいな。」
「ああ。あんなゴルフバッグ、みなとみらいで使わないよね。服装も似合わないし。」
「こちらカズマ。チェックポイントJにいる。狙撃可能だ。」
「あのゴルフバックが怪しい。撃ってくれ。」
「了解。」
おおさんばしは開けている分狙われやすい。だが、特に何も起きずに景色を堪能したり、お土産を買ったりすることができた。再び街の中を歩く。時折無線が騒いだが、時々センカが妙に素早く動く程度で済んだ。
「こちらハルカ、全部で4人捕まえたわ。」
「了解。ハルカはそのままトラックの警備に当たれ」
「こちらハルカ、了解。」
最後はランドマークタワーだった。




