すれちがう想い
「おい、そろそろ時間だ。」
「わかってる……このメールだけ返させてくれ。」
日本のどこにでもあるファストフード店で、アサヒユウキとクラモトカズマは、パソコンをいじっていた。
2人は、国連宇宙機構には所属しなかった。代わりに辺境移民再建協会を立ち上げて、辺境の復興に向けて取り組んでいる。
元はアス移民団の再建を目標にしていたのだが、移民星キノスラなど他のアルテミスケノン宙域の移民星、さらには辺境全体の移民団再建を目指す人々とも合流し、かなり大規模な団体になってしまった。
国連宇宙機構から、辺境担当の部署か保安航空隊への所属を依頼されたが、断ったのには、この移民団再建にあくまで民間人として力を尽くしたかったからだった。
ただし、チームゼロの面々とは連絡を取り合って協力しているし、保安航空隊のパトロールも時々手伝っている。
移民団再建への道はかなり遠い。辺境戦争の結果、宇宙移民の危険さばかりが指摘され、移民希望者は大幅に減った。また、あまりの被害の大きさに、移民先の星の復興にも時間と金がかかる。当面の目標としては、比較的被害の少ない移民星を優先して、移民の再開をすることだった。
しかし、これも難しい。というのは避難した移民たちや、亡くなった移民の遺族たちの利権も関わってくるからだ。移民の中には、避難先の冥王星や地球にこれからも住むことを決めた者もいれば、移民先に戻ることを主張しているものもいる。
さらに国連宇宙機構から、避難した移民たちや遺族へ一定の補償金が出されることになったので、それに関する相談も急増していた。特に多いのが遺族からの問い合わせだ。中には「棄民」として宇宙に移住したものもいるので、ユウキとしては腹立たしかったが……。また、全滅した移民団の持っていた利権はどうなるのかも不透明だった。
戦略部がいろいろ対策を練っているようだが、実際にはこちらのほうが動きやすいので、ユウキたちが率先して関係者と話し合って対応を決め、辺境移民の総意として国連宇宙機構に申請することが増えた。思ったより大変な役割ではあるが、辺境移民のためにもと奮闘していた。
今日も学校帰りに、関係先からのメールや、世界中から送られてくる質問に丁寧に返していた。
余談だが、2人は世界中の子供たちが、学校の課題などのために送ってくる質問に、いちいち丁寧に返信していた。少しでも辺境に興味を持ってほしいからであった。少し大変な作業だが、結構息抜きになっていた。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。」
スーツをきた女性が突然話しかけてきた。
「東栄出版の方ですか?」
「ええ、そうです。遅くなってしまってすみません。」
「いえ、僕らが早く来ていただけですから。」
「ところで、本当にここでよかったのかしら……。」
女性があたりを見渡す。隅の大きなテーブルを取れたとはいえ、ファストフード店だ。
「いつもどおりのほうがリラックスできますから……。」
カズマが笑った。カメラマンの男性があれこれ角度を調節し始めた。
「すみません遅くなって……。コーヒーで大丈夫ですか?」
「ええ、おそれいります。」
責任者らしい男性が人数分のコーヒーを持ってきた。
「それでは次の話題に……。」
ユウキは少しコーヒーを飲む。この手のインタビューは何度も受けていた。本当はあまり取材を受けたくないが、辺境移民の再建のためにも、辺境戦争を風化させないようにしたかった。民間人だからこそできることをしようと、ユウキとカズマは思っていた。
「お二人は民間人ですが、アルテミスケノンベースキャンプや戦艦オリオンに協力していましたよね。」
「ええ。」
「そうでしたね。」
「戦艦オリオンやアルテミスケノンの様子をうかがいたいのですが……。」
「構いませんよ。」
「では、アルテミスケノンの様子を教えてください。記録映像としてかなりほのぼのした映像が公開され、話題になっていましたが。」
「そうですね……楽しかったですよ。キャンプとかみたいで面白かったですね。」
「ゼロの整備からその日の夕食まで、なんでも自分たちだけでやっていたのが、面白かったですね。」
ユウキとカズマが交互に答えた。
「分担が決まっていたんですよ。協力していて、その感じがほのぼのしていたのでしょう。」
カズマが少し笑った。
「今でも思い出せますよ。センカは戦略関係の資料作りで、パソコンやら地図やらを引っ張り出して机占拠してて……コウスケがゼロの整備とかにこだわっていて、俺も手伝ってたな。」
「リンカもパソコンやタブレットをいつも持ってたな。センカといろいろ作業してた。」
「スズナはすごかったな。家事は全部スズナが管理していた。」
「となると、家事はスギヤマさんが?」
「いえ。手が空いているものがみんなで協力して……基本的に自分のことは自分でやるようにしていましたし。」
「あとはミノリやミズキが手伝っていたところがありましたね。」
「スズナは全体をみてあれこれ指示する人でした。」
「他の皆さんは?」
「トウキは周辺の索敵データとか。あと、調査した未知の航路の研究とか。タケルはいろいろ直してたな。」
「確かに。ハルカはなんかやたら健康にうるさかったな。」
「確かにとても楽しそうですね。」
「ええ、厳しい任務に耐えられたのも、あの空間があったからではないのかと思います。」
ユウキがそうしめる。
「お二人は後から加わる形になったわけですが、葛藤などは?」
「そりゃあ。最初は緊張しましたよ。」
「正直、両親や移民団のことは考えないようにしていました……。僕たちだけで守れなかった。防衛軍のせいにはしないと決めていました。」
「今はどう思われているんですか。」
「悔しいですね。しかし防衛軍にのみ責任を押し付けるのは違うと思います。恨みはどこまでも広がります。怨もうと思えば地球全体を怨めますから。」
「僕たちは、防衛軍を……戦友を怨むつもりはありません。だからといって地球全体を怨むわけにもいかない。責任とかじゃなくて、前に進むことが大切だと思いたいんです。」
「思いたい……?」
「ええ。そんなの綺麗ごとですから。」
ユウキは力なく笑った。
「僕たちには、いろいろな想いがあるんです。」
「話題を変えましょう。」
女性インタビュアーが焦って切り出す。
「今後、お二人自身は?」
「将来ですか?」
「いやぁ進路なんて難しいなぁ。」
わざと高校生らしく騒いでみる。
「俺は……俺は絶対に移民星アスを再興させたい。けれどそのためにはもっとたくさんの知識が必要なんです。だから幅広く学んでいこうと思います。」
ユウキが答えた。
「具体的に、今特に興味を持っている学問は?」
「そうですね……歴史も学ばなければと思っています。」
「歴史とは意外ですね。」
「ある人が、常に『歴史に責任を負えるか』を基準に考えているのが印象的で。僕もそんな生き方ができたらいいなと思うようになったんです。」
「それはウエキセンカさんでは?」
「そうですね。」
ユウキは思わず笑った。
「カズマさんは?」
「僕も移民星アス再建を目指すことには変わりません。でも僕がいま興味を持っているのは、移民星を守るための戦闘機ですね。ゼロはいい機体ですが、問題もたくさんあります。もっと安全な機体で、辺境の自警団がより力をつけるようになればいいなと思っています。」
「となると、将来は技術職?」
「さぁ、どうでしょう?」
カズマは照れ笑いを浮かべた。
インタビューが終わると、責任者の男性が家まで送ると言ってきかなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「僕ら高校生ですよ?」
「いや、送らせてくれ。」
カメラマンとインタビュアーは駅前で分かれ、3人は住宅街へ向かって歩き始めた。
「実は、なぜ君たち高校生に、地球の未来が託されたのか、いままで不思議だったんだ……。」
「はぁ。」
「でも、やっとわかったよ。」
「はぁ。」
「君たちに託したくなるんだよ、なぜかね。」
3人は夜の東京を歩いて行った。
「以上が、今回提案するM作戦です。」
ショウタはテラポルトス地下奥深く、だれもいない真っ暗な部屋に立っていた。
「もう一つの提案は何かね?」
微かな機械音と共に聞こえる声。ショウタは息をのむ。
「我々の正式な部長就任です。」
「ほほう……。」
「確か、君たち自身がそれを拒否したのではないかね。」
「高校生がトップに立つわけにはいかないと。随分力説してくれたではないか。」
機械音と共に響き渡る声に、ショウタは唇をかみしめる。
「だから今、国連宇宙機構の各部には実務面のトップになる部長が存在しない。多少の不便が生じてでも、と言ったのは君たちだ。」
「もっとも、部長代理としてほぼ力を握っているがな。」
「M作戦を極秘裏に進めるためには、だれからも干渉されない強権が必要になります。わたしは高校生ですが、すでに戦艦オリオン艦長代理および戦術長代理、アルテミスケノンベースキャンプ司令官および戦術担当などを歴任させていただきました。防衛軍の階級も大尉で終戦を迎えています。」
ショウタは静かに続ける。
「他の者も幹部職を歴任しており、経験と功績も十分だと思われます。またZ作戦により、前任者からの信任も得ていると考えてよいでしょう。部長に正式に就任することに大きな障害があるとは思えないのですが。」
ブーンという機械音が響く。わずかだが永遠に感じる時間が過ぎていく。
ショウタたちチームゼロは、行政面では強大な力をすでに持っていた。基本的な最終決定は国連総会と現在はなっているが、実務レベルでの決定はほぼ任されていた。ただしチームゼロへの反発を避けるために、部長の席は空席であることにしていた。
ただし大きな決定事項は国連の承認が必要だ。今はセンカやリンカは根回しをすることでだいたい通しているが。
しかし、実際に人類の未来に関わるような大きな決定は、メンバー非公開の組織、人類宇宙委員会にゆだねられていた。移民の開始、保安隊から防衛軍への格上げ、チームゼロの出征、Z作戦に基づく新秩序の承認など、彼らの影響力は計り知れない。
この会談が破断すれば、鉄の星にメイルを送り届け、友好関係を結ぶことを最終目標としたM作戦は廃棄。下手をすればチームゼロの更迭。Z作戦としてトニイたちが残した未来を作れなくなってしまう。
異星人の存在はそれくらい大きな賭けであった。それに伴う部長就任もだ。
「よかろう。M作戦とチームゼロの部長就任を認める。近日中に辞令を出そう。M作戦もこのまま準備を続けてくれ。」
「ありがとうございます。」
ショウタは改めて姿勢をただし、敬礼をした。
「しかし、君は……。」
「なんでしょう。」
「君たちの部長就任は、今まで控えめにふるまってきた君たちの態度と真逆の行為だ。反発を浴びることもあるし、もはや引き返せない。それを覚悟しているのか?」
「はい。」
ショウタは暗闇をまっすぐに見つめる。
「全員、地球の……いえ宇宙の歴史に責任を追う覚悟を決めています。」
「君たちのように前ばかり見る者は、横に気が付かない。仲間からの銃弾に倒れることがないように、用心するんだな。」
暗闇の電子音が消え、部屋が明るくなる。そこには当たり前だが誰もいない。
ショウタはもう一度敬礼をすると、軍人らしく回れ右をして部屋を出た。
辺境戦争終結後のサブストーリーを公開しました!興味のある方は読んでいただけるとよいかなと思います。戦争終結から1か月後。慰霊祭の日の不思議なお話です。




