ファミレスにて
ファミレスの2人席に2人はどさっと座った。
「えーと、アラビアータひとつ!」
「ミートドリアとマルゲリータピザで。」
「ドリンクバーはいかがでしょうか?」
「2人分つけてください。」
「かしこまりました。失礼します。」
不思議そうな顔をしながら店員が去っていくと、センカは笑いながら飲み物を取りに行った。
ユウキはちょっと緊張してため息をついた。隣に座っていた女子大生っぽい2人組と目が合う。軽く会釈をすると、ちょっと笑ってくれた。だが1人が不思議そうな顔でこちらを見て、何かひそひそ話したり、スマホを見たりし始めた。
(ばれたか……。)
辺境戦争終結後、戦後処理やら何やらで記者会見を受けたり、記録映像が流れたり、インタビューを受けたりで、すっかり有名人になってしまったのだ。
「はい、これでいいよね?」
「さすが。」
ユウキはちょっと笑う。ちゃんと烏龍茶だ。移民星アスは東洋系の人が多かったので、いろいろなお茶が持ち込まれていた。ユウキは自然とお茶を飲みたがるようになっていた。
「烏龍茶と言えば、スーマーのリハビリ、だいぶ進んだらしいわね。」
「すごい努力をしたって言ってたな。」
「でも復帰できるかどうか……。」
「彼はもう……宙に上がりたがらない気がする。」
ユウキは烏龍茶をすする。
辺境戦争では多くの人が死んだ。ユウキの両親もそのなかにいる。
「あれだけの仲間が死んだ。耐えられないよ。」
「ユウキは逆だけどね。」
「え?」
「だって、早く帰りたくて仕方ないんじゃない?だから来たんでしょ?」
「ああ、うん、まぁ……。」
隣の女子大生2人が、なせか「がんばれ!」という顔でこちらを見てきた。
「正直私ね、ユウキが日本で暮らすことになったことに少し驚いてる。」
ユウキと妹のミノリは、戦災孤児となった。ユウキとしては、義務教育も済んでいることだし、アス移民団を再建させるべく動きたかったのだが、結局かつて近所に住んでいた叔父一家に引き取られ、もし移民しなければ通うはずだった高校に転入することになった。
「ミノリの学校のこともあったし、アスの再建には時間がかかる。カズマとも相談して、しばらくは地球で暮らすことにしたんだ。」
「でも?」
「うん。いつかはアスを再建するつもり。今はアスや辺境で亡くなった人の遺族や、地球に避難している移民の人たちといろいろ話しているところ。」
「で、ただの女子高生の私に何をしてほしいの?」
ユウキは静かに言った。
「なんで戻らないんだ?」
センカは黙った。
「防衛軍が解体されて……というか実際にはまぁ人がいなくなったから自然解体なんだけど、国連宇宙機構ができた。」
「そうね。」
「しかも君たちはそれに深く関わった。というか作ったの君らだろ。」
「正確に言うと、トダメグミ戦略長とエリーゼ・フェシカが作ったZ作戦を実行しただけだけどね。」
「実現させたのは君の力だろ?」
ユウキは思わず笑った。ポイオーティアは環境は整えてアイデアをくれただけであった。実際に国連宇宙機構などという行政機関を立ち上げ、旧防衛軍の考えを埋め込み、世界各国の代表たちと交渉し、認めさせたのは、戦略担当として駆け回ったセンカのおかげだ。(あとは裏情報を大量に集めたリンカと、実現させるために資金や制度を整えたスズナも影の立役者。)ユウキは辺境の戦後処理を手伝うので手いっぱいだったが、チームゼロの一員としていろいろ情報は聞いていた。
「戦略部に君がいなくてどうするんだよ。あと保安航空隊なんて絶賛人手不足じゃないか。」
戦艦オリオン航空隊と特別青年地球防衛隊の壊滅によって、地球圏の宇宙空間でのパトロール機能はほぼ停止した。宇宙空間で満足に戦えるパイロットがいないからだ。(あと機体も全部スクラップになってしまった。)
現在急ピッチで新規採用と訓練が始まっているが、チームゼロの献身的な働きぶり、というか社畜っぷりと、月防衛団、火星防衛団の協力でなんとか回している状況だった。「比較的」戦後処理に追われていないものが出ずっぱりになり、トウキとタケルがフラフラになっていたのが記憶に新しい。
とまぁ散々な状況の中、自分に与えられた戦艦オリオン戦略長代理と中尉という階級、パートナーのショウタの艦長代理かつ大尉という階級、辺境戦争を生き抜いた「子供」であることを最大限に活用しながら、国連宇宙機構を作り上げたセンカには、あっぱれとしか言いようがない。(何をどう主張したのかはわからないが、消極的だった中国とアメリカとロシアのトップを呼び出し、あっさり認めさせてしまった時には、逆にショウタが頭を抱えていたほどだ。)
しかし、彼女は国連宇宙機構戦略部(および保安航空隊)へ正式な届出を出していないらしい。つまり自分が作った組織に入ることを渋っているのである。
「なぜ戻ってこないんだ。」
ユウキは強い口調で言った。
「・・・・・・・が怖い。」
「なんだって……?」
「宙が……怖いの。」
センカはそこでうつむいた。
隣の女子大生2人が神妙な顔つきになった。うっかり目が合う。とにかく「がんばれ」という顔をされた。どうすればいいのかユウキは教えてほしかった。
「他のみんなは……?」
ユウキはそっと聞く。
「全員保留にしてる。」
「そうか……。」
戦後1か月後の慰霊祭で8人が見せた表情から、なんとなく予想はついていた。
注文していた料理が来た。俺たちは何となく、スズナの料理やテラポルトスの第一食堂の新作の話で盛り上がった。
「お前さ、宙に上がるのが怖いとか言っておきながら、毎週テラポルトスに行ってるだろ?」
「やることあるから、ね。通常業務だよ。」
「それ、通常業務って言えないだろ?」
ユウキは少し笑った。
「まぁそうだけど、通常業務でしょ?」
「まぁ……。」
ユウキは指をなめた。
「お前さ、権力握るのが怖いんだろ?」
「え?」
「まぁもう握ってるけど……跡ついで太陽系をひっぱて行くのが怖いんだろ。」
センカは黙っていた。
「うん……。」
国連総会であれだけ立ち回ったくせにと感心してしまう。
「私たちは……ただの高校生なんだよ!」
「わかってるよ!」
「じゃあなんで私たちが……私たちがやっていいの?」
センカは叫んだ。隣のお姉さん2人は、涙目で「がんばれ」って顔をしてきた。頭が真っ白になってきた。
「そりゃ、お前が……命の恩人だから。みんなの命の恩人だから、じゃないのか?」
「え……。」
「あー、えーと。防衛軍に協力した自警団のゼロパイロットとか、アルテミスケノンベースキャンプでチームゼロに加わったとか、冥王星守ったとかそういうのなしで、えーと。」
ユウキは自分の経歴を説明するのにしどろもどろになった。我ながらどんな人生だ。
「辺境戦争で親と家をなくした1人の高校生から言わせてもらうと……。」
なんて経歴だと自分で思わず感心してしまった。
「センカが目の前に……えーと正確にいうとセンカのゼロが目の前に現れた時、すげえうれしかった。そりゃあ撃たれそうとか、メカのコア撃ちぬけていないなとか、そこ立たれたらメカ撃てないじゃんとか思ったけど……。」
「ごめんユウキ、後半余計じゃない?」
「うんまぁそうだけど。」
センカの顔が少し明るくなったことに、ユウキはほっとしたが、自分の話の腰を折られたことにちょっとイライラしていた。となりの女子大生はもうあきれたという顔で2人を見ていた。
「でもうれしかったよ。防衛軍に……もう地球とか冥王星とか、太陽系全体から見放されたと思っていた。そこに君たちが来てくれた。ちっぽけな辺境の星にね。」
ユウキは続ける。
「それから、僕らが安全な……正確にいうと僕が安全にした冥王星でぬくぬく……じゃなくて飛び回っていたときには、君は戦艦オリオンを守って死闘を繰り広げていたし、コウスケたちは訓練生率いて地球を守っていた。死を覚悟してね。」
ユウキはニヤッと笑った。
「生き残ったから公開されてないけど、遺書書いたしね。」
センカは無言でじろりと睨む。
「ユウキの遺書を全宇宙に見せてあげたかった。」
「そのセリフそっくり返すよ。なんでアルテミスケノンに食料が大量にあったんだよ。」
ユウキは頭をかいた。
「とにかく、死を覚悟でただの高校生が自分たちを守ってくれた。戦後の君たちの動きもすごかった。世の中を宇宙時代にしていかなくちゃいけないのに、古い大人たちばかりだ。辺境に移民すると本当によくわかるよ……。そこに君たちが来たんだ。正直藁にも縋る想いというか……君たちに任せたいんだよ。」
ユウキはそういって、首にかけていた指輪を見せた。
「父さんのだ……。いろんな人に出会った。辺境戦争で傷ついた人だ。君のことを悪く言う奴なんて誰もいなかった。戦争の痛みを知っている人がリーダーになってほしいんだ。」
ユウキはセンカの肩をたたく。
「レーシャやパトリックはどうなる?スペースノイド……宇宙生まれの子供たちがどんどん増えていく。なのに世の中は地球中心だ。そんな世の中、変えなきゃいけないだろ?」
レーシャ・コーサチュとパトリック・シャーリーは、それぞれ両親の母国に引き取られることになった。しかし2人の「宇宙生まれ」というものがどれだけ大切にされるかを、センカは心の底から信用することができなかった。そこでセンカは、2人はチームゼロの1員であるという強引な理由で、15歳になるときに、チームゼロの元に招待する、という約束をした。それまでは普通に育てて欲しいとも。
「もし、私たちが古い考えの大人になってしまったら、ユウキはどうする?」
「君に反対し続ける。」
「それでも言うことを聞かなかったら?」
「殺す。」
ユウキはそういいながらポケットに触れた。
「君もよく知っている通り、僕の射撃の腕なら十分君を殺せる。」
「わかったわ……。」
センカは烏龍茶を飲み乾した。
「宇宙を変えてやる……よりよい方向に。」
ふと、先輩の顔を思い出した。センカはニヤリと笑う。
「世界を面白くするために。」
女子大生2人は、偶然きいたあの会話を、はたして「感動的」「ロマンチック」と言っていいのかどうかを散々話しながら帰った。2人がこの会話の意味を知るのは、ずっと後になってからである。
普通の女子高生してるセンカが結構新鮮だったりします。




