きけ、わだつみのこえ
「うわああああああああああ!」
「おりゃあああああ!」
ユウキとカズマはレーザーを撃ちこむ。何度目かの爆発が起きた。
「はぁっ、はぁっ。」
「全部……やったのか……?」
2人はあたりを見渡す。見渡す限りのスペースデブリがあたりを埋め尽くしていた。
「レーダーに感なし。敵影なし。」
「はぁっ、ははっ、やったのか……。」
「らしいな……。」
2人は倒れこんだ。安全装置を外したゼロは、宇宙へまっさかさまに落ちていった。
「あそこだっ!」
トウキが叫んだ。
4人の目的は、ワープウェイの破壊だった。
メカ総母艦の攻撃に取り残しがあった場合、小型戦闘機1機でも彼らは地球を狙う。メカはワープウェイに気付いており、ハッキングの際に、ワープウェイを利用した攻撃作戦も含まれていたのだった。
そのため、今回の作戦で、戦場近くのワープウェイの出入り口を壊す必要があった。
「あまり気は乗らないが……。」
ショウタはつぶやく。
「攻撃開始!」
ワープウェイはあっという間に壊されていく。次々とミサイルを撃ち込む。
「これで、当分使えないだろう。」
「わたしたちもね……。」
センカは少し笑って見せた。
「俺たちは、冥王星に行くことになっているが……。」
「いや。」
ショウタは静かに命令を下した。
「K作戦を見届ける。」
3機は黙って、リーダーに従った。
「火薬をありったけ用意しろ!」
「エネルギー充填!ぎりぎりまでやれっ!」
ダブは叫んだ。
「最後だぜ!思いっきりやるぞ!
「思いっきりやるぜ?」
ブンタがにやりと笑った。
「目標、総母艦!どーんとやるぜ!」
「主砲攻撃はじめ、正面だけを狙って!」
キッドが叫ぶ。
「正面突破よ!」
「第一艦橋。フェシカだ。防空は私たちに任せてくれ。」
「ありがとうテレーゼ!」
トメグはそういって別の通信機を手に取った。
「エリーゼ、記録は?」
「こちら第一作戦室フェシカです。作戦データおよび実戦の記録をまとめました……少しだけ未来の出来事も書いてありますが。」
「ええ、ありがとう。」
「全データ、テラポルトスへの送信始めます。」
「ありがとう。スノーヴァ情報長、通信環境は?」
「なんとかさせる!大丈夫だ。いける!」
「ありがとう!」
トメグは叫ぶ。
「通信機を取ってくれ、一番いいやつだ。」
トニイはダブに言った。
「はいよ。」
ダブが投げてよこす。
「ユウキ!ユウキ!」
カズマの声で目が覚めた。
「俺たち、スペースデブリのなかで気を失っちまったみたいだ。」
「機体は?」
「まぁもともとぼろぼろだしな。」
「カズマ、これからどうするか?」
「K作戦のほうはどうなっているのか……。先ほどから通信環境が良くない。冥王星の通信機を使ったほうがいいかもしれない。」
「ああ、そうだな。」
2機が向きを変え始めた時だった。通信が入ってきた。
「全宇宙に。国連宇宙防衛軍 戦艦オリオン艦長のタカハシハヤトです。残念ながら、これが我々からの最後の通信です。」
全宇宙に広がっていく通信。ユウキは息をのんだ。
「僕たち防衛軍にもはや悔いはありません。我々は十分生き抜かせてもらったと思っています。後のことは、若者たちに託しました。全宇宙の皆さん、太陽系の未来を託します。今までありがとうございました。お先に失礼させていただきます。」
「やめてくれっ……!」
ユウキは叫んだ。
遠くかなたで、何か大きなものが爆発したような、気がした。宇宙が一瞬明るく光った。
「ああ。」
コウスケは嗚咽を漏らした。
「我らが母艦の、船出を……お祝いいたします。」
かすかに泣き声が聞こえてきた。リンカかスズナだろうか。
「コウスケ、来るぞ!」
タケルの声が聞こえてきた。
「総員、レーザー発射用意!」
コウスケは目の前にせまりつつある塊を睨む。
「第1射、撃てっ!」
レーザーが飛び交う。それは不気味なくらい、きれいな格子を描いていた。だが一番太いレーザーは中枢を狙ってた。
「微調整開始!」
コウスケが叫ぶ。あちこちの機体が動く。
「火星、月の皆さん!」
「はなてっ!」
火星と月からのみ、こんどはレーザーが降りかかる。
「金属にひびが入った!」
スズナの声が響く。
「もう1度いきます!」
コウスケはあたりを見渡す。
「第2射、撃てっ!」
再びレーザーが飛び交う。まだ金属の塊は揺らがない。
「第3射、準備。」
コウスケは自分も微調整しながら叫んだ。
「ゼロ、安全装置を解除しろ。月、火星の皆さんもお願いします。特別青年地球防衛隊、撃ったらすぐ離脱しろ。訓練通りだ。部隊長、よろしく頼む。」
コウスケは「コハル」と静かにつぶやいた。機体が一瞬揺れた。
「第3射用意!」
「カウントお願いします!」
タケルが叫んだ。
「5、4、3、2、1 !」
リンカの声が響き渡る。
「撃てっ!」
コウスケは叫んだ。
一斉にレーザーが飛び交う。ついに金属の塊はバラバラになった。スペースデブリと化したメカの巨大ミサイルは、ばらばらと降りかかってきた。
「よけろっ!早く離脱しろ!」
ロバート・ダヌイは叫びながら、大きな塊を撃ち落し、粉々にする。地球に降り注ぐ塊は少しでも細かくしなければならない。部隊長たちが任されたのはその要となる配置であり、だからこそより危険だった。
「うわあああああああ!」
「操縦できない!」
「きゃああああああ!」
悲鳴が次々と聞こえてきた。訓練を終えたばかりの若者ばかりだ。デブリにパニックを起こし、追突したりレーザーを撃ちまくっている。
「はやく離脱しろ!見境なくレーザーを撃つな!」
ロバートは叫び続けていた。
「ほらっ!よっ!お前たちも……。」
マーク・ワシントンはひょいひょいとデブリを撃って飛び回っていた。だが返事がない。
「おいお前たち……。」
マークは唇をかみしめた。離脱に失敗したのだろう。
「おい、出て来いよ!それとも俺にかなわな過ぎて出てこれないのか?」
通信機に向かってわざと軽口をたたく。
「おっ、でかいのが来た。」
マークは大きなスペースデブリに狙いを定めた。が、そこで言葉を失った。
「おい……。」
そこには、デブリから逃げそこなった仲間たちの機体がへばりついていた。
「うわああああああああ!」
叫び声がこだました。
「救助に迎え!お前たちは火星を守れ!」
ダイマスは叫びながら、自身もM1号機に乗り込んだ。
「1人でも多く助けろ!」
「はぁっ、はぁっ。」
ジョン・ブラウエルはあたりを見渡した。
「誰か、生きている奴は……?」
レーザーを撃ちこんだ反動でどこかに飛ばされたもの、デブリと共に消えたもの、レーザーに撃たれたもの。見つかる機体はどれもバラバラだった。ジョンは自虐的に笑う。誰も守れなかった。
「おい、お前、コーニー?」
ようやく生存者を見つけた。同じオセアニア部隊のオーストラリア班の班長だ。
「よかった!」
「ブラウエル……。」
ジョンは息をのんだ。何かの破片が太ももに突き刺さっている。
「コーニー!今助ける!」
「ブラウエル……。Up jumped the swagman and sprang into the billabong. "You'll never take me alive!" said he
And his ghost may be heard as you pass by that billabong: "Who'll come a-waltzing Matilda, with me?"」
「コーニー……。」
通信機ごしに必死に歌うコーニーを見て、ジョンの中で何かが崩れた。
「いやだ、一緒に帰るぞ!お前んとこの歌みたいに、羊食べてやろうぜ!なぁ?」
だが、コーニーはすでに息絶えていた。
「誰か、誰か生きていないのか?」
ジョンは飛び回る。だが、耳に妙にコーニーの歌声が響いた。
「Who`ll come a waltzing Matilda with me?」
その歌声が、あちこちから聞こえてくるようだった。
「うわああああああああああああああ!」
ジョンは叫ぶと、荒っぽく機体を動かした。
いくつものデブリを粉々にした。任務は果たした。レープレヒト・バルツァーは息を吸い込んだ。
「こちらもだいぶやられている。生存者は……?」
レープレヒトはあたりを見回した。
「あれは!」
まだ大きなデブリが残っていた。
「あっちはアフリカ部隊の担当か……?」
一瞬ダヌイの顔がよぎる。
「あの大きさじゃ地球に被害が出かねない。」
レープレヒトは必死に追いかける。レーザーを撃ちこむ。なんとかデブリを粉々にした。
「ふぅ。」
だがレープレヒトはデブリが赤く染まっていることに気が付いた。見渡すと、自分の機体も赤く染まっていた。
「高度を下げすぎた……!」
このままでは地球の重力に引っ張られてしまう。大気圏に再突入することは可能だが、この体勢では危険だ。機体も傷ついている。だが体勢を立て直す前に、アラーム音が聞こえた。
「酸素が……!」
慌てて酸素マスクをつける。が、もはや体勢は直せない。マスクも勢いで取れていった。薄れていく意識の中で、故郷の山々らしきものが一瞬だけ見えた。
「うっ!」
レーザーを撃ちこんで、デブリを粉々にした。だが次の瞬間、別の小さなデブリがぶつかってきた。機体が揺らぐ。
「デブリが飛んでくる!?」
ウー・チュンミンはデブリが来たほうを睨んだ。がその時、鋭い破片がコックピットの強化ガラスを打ち抜いた。その勢いで、チュンミンは宇宙空間へ吹き飛ばされた。戦闘服を着ているから、しばらくは大丈夫なはずだ。デブリから身を守るため、機体に戻ろうとする。だがその時、自分が随分地球に近づいていることに気が付いた。
「ああ。」
まっさかさまに青い海へ落ちていく。戦闘服を着てはいるが、耐えられないだろう。自分の機体が赤く染まっているのを見ながら、チュンミンは地球を見た。
「地球は青い……。」
そっとつぶやく。故郷である台湾が見えた。
「ああ。ああ。」
不意に涙がこぼれた。
「再見……。」
ショウタたちは、急いで戦場に引き返していた。センカはこぼれてくる涙を抑えられなかった。放送が聞こえ、まばゆい光がいまだにあたりを包んでいる。
「そこを抜けたら……!」
トウキが叫ぶ。
そこには、たくさんのデブリが飛び交っていた。何かが轟々と爆発し続けている。敵の総母艦も、戦艦オリオンも、影も形も残さずに燃えていた。
「うそ、うそ!」
ハルカがそう叫ぶと飛び出していった。
「生存者を探してきます!」
「だめだ!」
トウキが叫んだ。ハルカの機体が止まる。泣き声が通信機越しに聞こえてくる。
「ショウタ……。」
「みんな、地球へ帰ろう……。」
その日の夜空は美しかったと、後々語り継がれている。彼方で光り輝く燃えつつける大きな花火と、たくさんの流れ星が地球のあちこちで見られたのだという。それがなぜこんなにも美しいのか、人々は知っていた。
宇宙という大きな海に燃える、命の光だからだ。




