戦艦オリオン、発進
ついに太陽系辺境防衛戦争、最大にして最後の作戦、
The Operation of Aegis
The Operation of Kamikaze
The Operation of Zero
が発動された。
「戦艦オリオン航空隊先鋒班、航空隊長テレーゼ・フェシカ、発艦する。」
「了解。」
オペレーターの声が響き渡る中、エリーゼはため息をついた。戦略班の仕事の大部分は終わった。あとは作戦を記録し、戦況に合わせて作戦を変えていくだけだが、大きく変わることはない。選択肢もいくつか用意してあった。
「エリーゼ、少し休んだほうがいいだろう。」
第一艦橋から各部署へ指示を飛ばしまくっていたブンタが、エリーゼに声をかけた。
「ええ、エリーゼ。休んで頂戴。」
上司であるトメグがそっと肩をたたいてきた。
「では、失礼します。」
エリーゼは自分の部屋に向かった。
自室は私物の大部分を冥王星に送ってしまったため、閑散としていた。姉の荷物も、必要最小限にまとめられている。少しベッドの上でぼんやりしていたが、ふとゴミ箱に目が行った。
今朝はなかったはずの、くしゃくしゃに丸められた書類の山。その不自然さに胸騒ぎがして、思わずゴミ箱に手を突っ込んだ。
陽性反応が出た妊娠検査薬が出てきた。
「うそでしょ……。」
エリーゼは言葉を失った。
「テレーゼ姉さん……?」
「隊長!」
「どうした?」
「右手にデブリが!」
「そうね、よけるわよ。」
テレーゼは最速で宇宙を飛びぬけていた。
「ごめんね……。」
思わずつぶやいた。
「隊長?」
「ああ、ごめんなんでもない。」
テレーゼは慌てて無線を確認する。そっと操舵槓から片手を離した。手をおなかにあてる。
(最悪な母親だ。ごめんなさい。)
思わず涙が出た。
(お父さんの所に、一緒に行かせて……。)
「戦艦オリオン、発進。」
トニイは艦長席で低く呟いた。
ポイオーティアから今まで動かなかった戦艦が、ついに動き始めた。
「最大船速でメカ総母艦に向かう。」
ブンタが頷く。彼に操縦桿が託されていた。
ピピーッと音が鳴り、通信が入った。
「こちら、戦艦オリオン航空隊、ポイオーティア防衛班のキムです。こちらはお任せください。われらが母艦の武運をお祈りしております。」
トニイが通信機をつかむ。
「こちら戦艦オリオン、艦長のタカハシだ。航空隊の無事の帰還を祈っている。」
「ありがとう……ございます。」
キム・ヨンミンは唇をかみしめて、嗚咽をこらえた。このK作戦において、母艦に帰還することなどほぼ不可能であると、だれもが知っていたからだ。
地球圏では、最後の確認が行われていた。
「では、各自離陸体制に。」
コウスケがそうやって最後の会議を終わらせようとした。
「君たちの無事を心の底から祈っている。必ず地球に帰ってこい。」
若者たちは一斉に格納庫に向かう。
「ツツイ司令官。」
「ん?スーマー部隊長。いいよ敬語じゃなくて。」
「いろいろ、ありがとうな。俺たちの力を認めてくれて。」
「いや、君たちが協力してくれたんだよ。」
コウスケは寂しそうに笑った。
「チームゼロなんて英雄にされちまったけど、僕らだけじゃ地球は守れない。」
「ええ、ご協力感謝します。」
「こちら日本政府。シェルターの開放を完了させました。」
「こちらテラポルトス、ありがとうございます。避難用の航空機は?」
「現在離陸の手配をしています。準備ができ次第、オセアニアや東南アジアに向かわせます。」
「ご協力感謝いたします。」
「それから、自衛隊の配置も進めています。地上からの対応が間に合うかどうかはわかりませんが……。」
「可能性は無限ですから。いい意味でも悪い意味でも。そのまま自衛隊の配置を続けてください。」
「わかりました。」
「こちら、大韓民国。」
「はい、テラポルトスです。」
普段は受付を担当しているあの女性は、今や各国政府からの連絡の窓口となっていた。
地球規模での避難計画だ。義務ではないが、身の危険を感じた多くの市民が、安全な場所への避難を求めていた。政府などに打診し、ある程度の標高のある地下施設などの開放を進めていた。避難場所の情報や、戦況を正しくかつ素早く伝えることも大切である。対応できる人数は少なかったが、職員たちは身を引き締めた。
「疲れたー。」
「カズマ!」
母親の怒鳴り声に、カズマは苦笑する。せめてもの気休めにと、家の庭に防空壕もどきのものを掘っていた。
「こんなんで役に立つのかね。」
「いや、センカちゃんが言ってるんだ。役に立つにきまってるだろう。」
近所のおじさんたちが笑う。今日も地球は平和だ。思わず空を見上げる。
「姉ちゃん……。」
センカたちは格納庫で、ゼロに乗って待機していた。
「オリオン、オリオン。こちら先鋒のフェシカ。メカ総母艦を目視で確認、データを送る。」
「こちら第一環境、キドだ。フェシカ隊長、始められるか?」
「いつでもどうぞ。」
「では、始めてくれ。」
エリーゼ・フェシカはわずかな睡眠から戻ってきた。第一作戦室でコンピューターの画面を見つめる。
「航空隊による第1次攻撃開始。」
「3機落としてやった。くそっ、まだまだか!」
「隊長!敵の航空部隊がポイオーティアに向かっています!」
「計画通りだ。そっちはキムに任せよう。」
「了解!」
「戦艦オリオンに武勲を譲らない気持ちで、全員あたれ!」
「おおおっ!」
通信が荒れる。テレーゼたちは飛びまわりながら、戦闘機を落としていった。
「敵はポイオーティアに航空部隊を差し向ける。」
エリーゼは画面をなぞりながらつぶやいた。
「キムさん、レーダーに感あり。」
「ああ、わかってる。」
「ヨンミン、いよいよだ。」
「ああ、いよいよだ。」
キム・ヨンミンとジョージ・コープはにやりと笑った。
「俺たちはポイオーティアのシールドの中にいることになっている母艦オリオンを、全力で守るのが任務だ。行くぞっ!」
激しい空中戦が、ポイオーティアで始まった。
「しかし、戦艦オリオンはすでにポイオーティアを離れ、敵総母艦へ向かっている……。」
エリーゼは不敵な笑みを浮かべた。
「計画通りね。」




