しばしの別れ
「じゃあ。」
「気をつけて。」
「レーシャとパトをよろしくね。」
地球に帰還した4人に続いて、冥王星へ向かうアサヒ兄妹とクラモト兄妹、そしてレーシャとパトを、センカは静かに見送った。
ユウキとカズマは、物資と妹たちを乗せた輸送船を守りながら冥王星に移動し、以後はK作戦発動によって危険が増した冥王星を守るために、冥王星宙域の防衛任務に当たる予定だった。もともと冥王星宙域に人員を割くことは絶望的であり、一時は冥王星の住民や、冥王星に避難した移民星の人々を地球に避難させることまで考えられた。ユウキとカズマは、「自警団の一員として辺境を守りたい」と主張することで、無謀な冥王星疎開計画が失敗することを防いだ。2人のほか、冥王星の自警団とも協力して、防衛に当たることになっていた。
「テレーゼ、最後の輸送船よ。」
「ああ、エリーゼも荷物は全部送ったろ?」
輸送船に荷物を積み込みながら、2人は話していた。が、いきなり、エリーゼは輸送船にテレーゼを押し込んだ。
「おい、エリーゼ!」
「姉さん、K作戦からおりて。」
「なぜだ!?」
「お願いよ!テレーゼ姉さん。」
「エリーゼ、どうしたんだ!?」
「お願いだから!」
「おい、いいかげんに…!」
「テレーゼ・バイルシュミットを殺すわけにはいかないわ!」
「エリーゼ……。なぜそれを……?」
テレーゼ・フェシカとディルク・バイルシュミットは、実は婚約していた。この戦争が終わったら、正式に結婚する予定だったのだ。しかし誰にも告げないまま、夫は死んだ。
「妹だもの。双子の……。」
「しかしディルクは死んだ。もう死んだんだ。だからこそ……。」
「いやよ!」
「エリーゼ、作戦をたてたお前なら、私の覚悟はわかるだろう。」
「テレーゼ、あなたがいくら死んでも構わない。たとえ大好きなお姉ちゃんでも、あなたが死にたいならいくらでも死なせてあげる。でも、姪っ子を道連れにはさせない!」
「エリーゼ……。」
「何よりもディルクに申し訳ないわ!」
「エリーゼ、なぜ……。」
テレーゼは抵抗するのをやめた。
「お願い。テレーゼ姉さん、あなたは母親なの。自分の子供を大切にして。ディルクのためにも。」
姉妹の間に、無言の時が流れた。テレーゼはじっと動かなかった。
「エリーゼ。」
テレーゼが静かに立ち上がりながらつづけた。
「確かに私とディルク・バイルシュミットは婚約していたし、肉体関係もあった。そしてわたしは少し体調を崩していた。しかしそれだけだ。妊娠はしていなかった。」
「テレーゼ……。」
「いろいろ心配させたね。」
テレーゼは微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。だが私は母親になれなかった。だからここに残る。」
エリーゼは唇をかみしめた。
「信じていいのね?」
「もちろん。」
「わかった……。よく確かめもしないで、ごめんなさい。」
「もうすぐ作戦の発動だ。エリーゼ、少し休んだほうがいい。」
「休めないわよ!今が一番大切な時間なの!」
2人は少し笑った。
「じゃあ、戻るわね。」
「りょーかい。」
エリーゼが格納庫からいなくなってしまうと、テレーゼはため息をついた。
「ごめんなさい。」
「何が?」
幼い声に思わずあたりを見渡した。宇宙服を着た女の子が立っていた。
「あなたは……?」
「クラモトミズキ。」
「ああ、アスの女の子ね。」
「なんで誤ってたの?」
「いろいろあるのよ、お嬢ちゃん。」
テレーゼは笑って見せた。
「ふーん。」
ミズキは少し顔を曲げていたが、やがてこう言い放った。
「おばちゃん、無理しないでね!」
「ちょ、ちょ……おばちゃんって……。こら、待ちなさい!」
笑い声が響き渡った。
最後の輸送船には、乗組員たちの私物や、戦艦オリオンの機密文書などが多く積まれた。その輸送船が、だんだんと戦艦オリオンから離れていくのを、トニイとダブは静かに見送っていた。
「ダブ。」
「ん?」
「冥王星に輸送船が到着し次第、K作戦、A作戦を発動させる。」
「わかってる。」
2人はいつまでも輸送船を見つめていた。




