命令
「それじゃあ、夜のミーティングを始める。」
ショウタは座り込んでいる仲間たちに声をかけた。
先ほど、戦艦オリオンからA作戦とK作戦の概要の説明と、それに伴う命令を伝える通信が入ったばかりだった。
「あーあー。」
「うー。」
レーシャとパトが、まるで会話をするようにあげる声と、何かの機械がブーンとうなっている音しか聞こえなかった。
「気を引き締めていこう。センカ。」
「はい。」
センカが返事をする。
「遺体と遺品の件を、3日後にここを離れるまでになんとかしなければいけない。考えはあるか?」
「ええ。こうなることは予測していた。」
センカはタブレットをぎごちなく動かした。
「現在、比較的損傷が少ない建物に遺体と遺品を収容する作業をしているけれど、それは現段階で中止とします。どうしても収容しなければならない遺体を、余った時間で収容することは許可します。遺品のうち、移民星の暮らしや、メカの襲撃の記録として価値が高いもの……例えば、日記とか集合写真とかを中心に遺品をポイオーティア、あるいは冥王星に持っていこうと思います。また、記録映像や写真を意識して撮ってほしいです。この作業は2日後までとします。そして……最後に酸素濃度を下げてからここに戻ってきて。そうすれば遺体を比較的きれいに……保てるから。」
「わかった。」
「担当も今まで通り。アス、キノスラ、ペレ、シュリーの4星をお願いします。」
「センカ、撤収作業を考えると、スズナとタケルは外したほうがいい。」
「そうだね、そうしよう。」
「じゃあ撤収について。」
「これも私たちで考えていたんだけど……。」
スズナがタケルと目配せしあった。
「必要最低限のものだけ持って帰ります。」
「ここは、おそらく辺境再建のかなめになるはず。長期保存が可能で、今後必要な備品やデータは残していこうと思う。」
「時間がないっていうのもあるんだけどね。」
タケルとスズナが少し笑った。少し乾いた、寂しげな笑い声だった。
「わかった。」
「詳しい備品リストなんかは、明日にはコスモクラウドにあげておくわ。確認お願いね。」
「トウキ、航海担当からは?」
「情報収集中だ。メカの最新の動きが分かり次第、航路を確定する。」
「ありがとう。」
ミーティングが終わると、普段は夜食を食べ始めたり、語り合ったり、ゲームをしたり、それぞれの作業を始める。しかし、今日は誰も席を立てなかった。
「神風か……。」
センカが呟いた。妙な寒気がした。
数日後。
戦艦オリオンはてんでわんやの大騒ぎだった。
「宇宙防衛軍、並びに太陽系を守るすべてのみなさん。宇宙防衛軍、戦艦オリオン戦略長のトダです。」
トメグの声が、様々な機械や電波を通じて、宇宙に響き渡る。
「現時刻をもって、A作戦とK作戦、つまりThe operation of AegisとThe operation of Kamikazeを発動します。またそれと関連した様々な計画も同時に実施します。」
「航空隊の諸君!」
テレーゼ・フェシカ航空隊隊長は、勢ぞろいした航空隊員の前で声を張り上げた。
「いよいよ、The Final operationsだ。本来なら我々はここで袂を2つに分かつはずだった。The operation of AegisとThe operation of Kamikazeの2つにだ。しかしディルク・バイルシュミット初代航空隊隊長をはじめ、多くの戦友が宙に散った今、もはや2つに別れることはできない。同じく宙で戦う同胞たちに盾の役割を託し、我々は全員、Kamikazeとなる。」
テレーゼは、いったん間を置いた。
「この作戦は、皆も知っているように、生きて帰る保証がない。まさに死にに行くようなものだ。そこで、この作戦に加わることを拒否することができる。もし必ず生き延びたいものがいたら、今すぐ名乗り上げてくれ。生き延びるものには、生き延びるものの役割があるはずだ……。」
だが、だれも手を上げなかった。
「誰が手を上げるか!」
「命なんぞ惜しくない!そんな心意気じゃ戦闘機乗りなんぞできねえよ。」
「祖国から防衛軍に引き抜かれた時から、このことはもう覚悟していましたよ。」
「なあに。バイルシュミット隊長にビールおごってもらう約束が少し早まるかもしれないってことくらいじゃあないですか。」
「そうだそうだ!」
荒くれ者と評判の航空隊員たちは、次々と威勢のいい声を上げる。
「そうか……妙なことを聞いてすまなかったな。」
テレーゼは微笑んだ。
「それでは、各自の役割を発表する。異論があれば言ってくれ。」
航空隊は全員K作戦に携わるが、役目は大きく3つに別れた。
1つ目は、ポイオーティア防衛班である。このK作戦は、まず戦艦オリオンがポイオーティアを離れることから始まる。しかしそこを狙われて一気に冥王星へ目をつけられたら元も子もない。そこでポイオーティアのシールドなどでうまくごまかしながらメカの関心を引けるほどの戦力を残す必要があった。といっても戦力はあまりさけないため、血みどろの戦場になることは必須だった。彼らは少ない人数で、戦艦オリオンが隠れているかのように戦う必要があったのである。
2つ目は、戦艦オリオン防衛班である。戦艦オリオンそのものがその役割を果たすまで、母艦を守るのが彼らの役目だ。
3つ目は、一番勇敢で危険な、メカの総母艦への先鋒班であった。メカが危険を感じ、彼らにとっても捨て身の作戦である地球への直接攻撃への一押しをすべく、徹底的にたたく必要があった。
テレーゼは1人1人の名前を呼び、それぞれの役割を告げていった。
「なお、私テレーゼ・フェシカが先鋒を務める。以上だ。」
テレーゼは身にまとったフライトジャケットをひるがえし、控室を出ていった。
「Aegis作戦には、各星の防衛団や自警団、民間施設等にも正式に依頼をしました。冥王星、海王星プラント、天王星プラント及び海王星・天王星自警団、木星プラント、木星域防衛団、アステロイドベルトの小惑星群の居住地及び自警団、火星のハルモニアシティ及び火星防衛団、月のアルテミスシティ及び月防衛団の皆さん、ご協力をお願いします。詳しい情報はコスモクラウドにて関係各所に公表しています。」
「いいかみんな!」
火星防衛団のダイマス団長が叫んだ。
「俺たちは今は火星で生きている。でも俺たちが生まれ育ったのは、この赤い星ではない。育ててくれたのはほかでもない地球だ。あの青い地球だ。その地球の危機をみすみす見捨てられるか!」
歓声が上がった。
「地球を守っていた防衛軍は、今最前線の辺境でK作戦を実施している。地球に残されたのは、訓練が終わったばかりの子供たちばかりだ。俺たちにすべきことは何か、わかっているだろうな?」
再び歓声が上がった。たくましく野太い声が、赤い大地に響き渡る。
「戦闘機乗りは、地球と火星を同時に守り抜くぞ!俺たちM1機乗りの力を見せつけてやれ!」
ひときわ大きな歓声が上がった。
「戦闘機に乗らないやつも、整備や住民の避難で活躍してくれ!そら、さっそく準備だ!」
ダイマスはそこまで言うと、大歓声が上がった。さっそく人混みが動き出す。その中でダイマスは宙を見上げた。
「子供たちを死なすわけにはいかない……。」
「また、訓練を無事に終えた訓練生たち。いえ、もう訓練生ではありませんね。特別青年地球防衛隊員の皆さんも、正式な防衛軍の一員として、Aegis作戦に参加してもらいます。地球の防空任務をしっかり果たしてください。」
「よっしゃー!」
「いよいよ実戦だ!」
「訓練の成果を見せつけるぞ!」
世界中から集められ、訓練を受けた若者たちが、めいめい興奮した口調で騒ぎながら、エントランスホールを駆け抜けていく。その姿を、あの受付の女性が静かに敬礼して見送った。
「まだまだ遊びのつもりなのね……。」
思わず表情が陰る。しかし彼女もまた、自分のタブレットに映る新たな任務に少しだけ興奮していた。
「全地球市民への公平かつ迅速かつ正確な情報公開、および避難の実行、か。」
これを地球に残された数少ない職員で行わなければならない。ポイオーティアからはかなり詳細な避難計画が提示されていた。トメグやエリーゼの顔が浮かぶ。しかし実行に移すにはまだやらねばならないことがたくさん引き継がれたままだった。
「戦艦オリオンはKamikaze、かつて私の祖国を守るために、自らの命を犠牲にして飛び込んでいった若者たちのように、戻らない覚悟で、敵の総母艦をたたきます。」
艦長室に、トニイは1人で座っていた。艦内の騒がしさにも関わらず、艦長室だけは不気味なほど静かだった。
「すまない、みんな……。」
トニイはそうつぶやくと、短刀を握りしめた。
「すべての罪は俺と共に……。」
トニイは、短刀をしばらく見つめていた。すべての責任を背負い込むこと、永遠に誓うと決めてはいた。それでも微かに手が震えることだけは止められなかった。
「最後に、同時に発動する新たに発案された作戦、Z作戦について、全宇宙に伝えます。Z作戦、The Operation of Zeroの名前には、2つの意味を込めました。一つはこの作戦の担い手である、零号機パイロットたち、チームゼロへの期待を込めて。そしてもう1つは、1905年、私とチームゼロの祖国の国の海軍が掲げたZ旗に由来します。皇国の興廃此の一戦に在り、各員一層奮励努力せよ。A作戦、K作戦、そしてそれをつなぐZ作戦。地球圏の未来のため、どうか今回だけ、皆さんの命をください。」
戦艦オリオン第2作戦室で、ダブから告げられたZ作戦の概要を聞いたチームゼロの8人、そして同じゼロのパイロットである2人は言葉を失った。
「だいたいの動きはKとAと変わらない。ただし君たちに新たな任務が加わっただけだ。生き延びて、宇宙を創るという任務がね。」




