知らない夜空
見張り台と呼ばれている場所がある。
アルテミスケノンの見張りは、レーダーが完璧にやってくれている。しかしいざというときのために、固定された対空レーザーライフルがそなえられた、ドーム型の窓のようになっている部分があった。
砲手の席に座り、空に瞬く星を眺めていると、いままでのことが、何かの映画のように思えた。しかしどんなに眺めても、幼いころ好きで毎日眺めていたあの星空とは違う星空が広がっていた。
「俺は……もう戻れないのだろうか……。」
ハシモトショウタは、あの8人の中では一番年上だった。年上と言っても同じ学年ではあったが、だれからも一目置かれるリーダー格であった。自然とチームゼロのリーダーとなっていった。
さらに、どの分野にも長けていたにもかかわらず、その立場と能力で、彼は戦術要員となった。将来は戦術班として、戦いのエキスパートになることが求められた。
軍隊というよりも行政組織や警察に近かった保安隊や防衛軍の中で、一番戦争にかかわる部署が、彼の選ばされた、いや選んだ道だった。
覚悟はしていたが、自分の周りで多くの死を見つめたことに、耐えられなくなってきていた。
「いい加減にしないとな……。」
先ほどから何度も時計を見ていた。夜のミーティング、就寝準備、新しく仲間になった2人の子供のこともいろいろ決めなければいけない。リーダーとしての役目だ。しかしみんなの前に行けなかった。一人になりたかった。
トオルがしばらく前に近くまで来て、夜のミーティングがなくなり、就寝準備が早まったことを伝えてくれた。時折みんなの声や物音がしたが、それでも戻れなかった。
「ごめん、いい?」
不意に聞こえた声に、かすかに動揺しながら、振り向く。
「ああ、センカか。」
「ごめんごめん。レーシャが起きちゃったから。」
センカは見慣れた戦闘服でも宇宙服でもなく、しかし見慣れたTシャツにジャージのズボンといういでたちだった。戦闘時などは髪をまとめていたが、普段はおろしている。しかし今夜は長い髪を無造作にまとめただけだった。
「レーシャ・コーサチュか。」
「さっき急に起きちゃって。」
センカはレーシャをそっとショウタに渡した。
「泣きもしないし笑いもしない。ただ私の顔をじっと見るだけなんだ。だからせっかくだし、星でも見ようかなーって。」
「なんだか、すっかりお母さんみたいだな。」
ショウタはレーシャを少しあやして、センカに戻した。
「今日はすまなかった。ミーティングのこととか。」
「パートナーがどんな状態かは、わかっているつもりだったから。代わりにちょっと動いただけ。」
「でも、すまなかった……。その、お前も死をあれだけみたはずなのに……。」
「そりゃあ……。」
今まで微笑んでいたセンカが、急に涙を流し始めた。
「でも……。」
言葉にならない声が漏れてくる。
「いいよ。今は泣いても。」
「ごめん……。本当にごめん……。」
「いいから。」
少し経つと、センカは静かにつぶやいた。
「ありがとう。やっと泣けた。」
「そんなにため込むなよ。」
「その言葉、そっくりお返しするわ。」
センカは涙をそっとふいた。
「守るものができちゃったの。ミノリとミズキもだし、レーシャもパトも。彼らの前ではせめて……強くて安心な、やさしい人でいたいの。」
「そうなのか……。」
ショウタは夜空を見上げる。
「お前、強いんだな……。」
「そう?」
センカが少し笑う。
「ショウタはもっと強いよ。」
しばらくお互い黙って、星空を見ていた。
「あ、レーシャが寝た。」
「え、あ、本当だ。」
ショウタは思わずレーシャの顔をのぞき込む。
「じゃあ、戻る。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみ。」
センカを見送ると、ショウタもその場で目を閉じた。




