階級章の重み
「センカ!」
「どうしたの、リンカ?」
「いや、起きてるかなって思って。」
「まったく、見張り中に暇だからって呼ばないでよ。せっかくの休憩なのに。」
チームゼロは時々小惑星などで休憩をとっていた。今回も3時間ほどの休息だった。それぞれコックピットで寝たり食事をとったりしていた。長い旅である。全員コックピットに食料や水を持ち込んでいたし、コックピットの下や後ろの格納スペースには食料や着替えがきちんとしまってある。それ以外にはベースキャンプで使うものは、後ろで牽引しているコンテナに積み込んでた。
「まぁ、暇でしょ?」
「そうだけど……。」
緑茶のパックを飲みながら、センカは伸びをした。隣に機体をとめていたリンカも真似をして伸びをした。
「さっきから飲みながら、階級章いじってるけど、あんたそんなに階級にこだわってた軍人さんだったけ?」
リンカが、時に人が意地悪そうという笑顔を、センカのほうに見せながら言った。
「そうだね……。昔はちょっとあこがれてた。なんだかかっこよかったし。」
「あ、そうなんだ。意外だった。」
「でもいざ自分がもらうとなると、どうでもよくなっちゃって。ほら、訓練終わって、准尉に任命された時とか。すごくどうでもよかったの覚えてるよ。」
「みんなそうだったもんね。」
「准尉自体、うちらのために特別に作ってくれた階級みたいなもんだったし。まぁすぐに少尉になってしまったけど。」
「ほんと。シイナ少尉って言われた時、あぁ給料が上がったのか……って思ったくらいしか感動がなかった。なんで少尉になったんだっけ?」
「戦艦オリオンに人をまわすことになって、先輩方がみんな辺境に行ってしまって、わたしたちだけで地球を守ることになったからじゃなかったっけ。」
「たしかそれくらいだったわね。」
リンカはため息をついた。
センカも大きなため息をついた。
「なんか、こんな子供にこんな階級渡して、何をさせたいんだろうって不安になって。」
「どうゆうこと?」
「だってさ。」
センカは身を乗り出した。
「うちらまだ子供で何もできないよ、実際。でもこんなたいそうな階級もらって、お給料もらって、それに見合うことできてる?できてないでしょ?」
リンカはコックピットに身を沈めた。
「少尉か……。」
戦艦オリオンでは、エリーゼ・フェシカが報告書をまとめて、艦長室の扉をたたいていた。
「戦術班のエリーゼ・フェシカです。例の報告書を持ってきました。」
「入りたまえ。」
若い、しっかりした声が聞こえた。
「しつれいします。」
重い扉を開けると、艦長たちチームジパングのメンバーが勢ぞろいしていた。
「お忙しいときに失礼します。」
「いや、いそがしくないよ。僕らが個人的に集まっているだけだ。」
「かつてドイツのスパイとして、あなた方と張り合わなければならなかった頃は、ずいぶんチームジパングが遠い存在でした。今でも勢ぞろいしているのを見るとぞくっとします。」
「勢ぞろいじゃないけれどね。」
キッドがぼそりとつぶやいた。
「キッド、暗い話はやめてくれ。エリーゼ、用件は?」
「はい……。A作戦とK作戦について、いくつか変更点があります。」
「それはトメグから聞いたよ。チームゼロの面々を全員A作戦に参加させたかったが……。」
「それは我々も同感です。ほかに方法がないか、ぎりぎりまで探ってみます。」
「頼むよ。」
「それからこちらはまだコスモクラウドにあげていないことなのですが……。」
「なんの話だい?」
「終戦後の話です。」
「そうか……。そこまで考えていてくれたとはな。」
「あなた方には負けますよ。」
「エリーゼ、聞くよ。話してくれ。」
「おそらく我々の多くは、戦後に……おそらく新たに再編成される防衛軍にかかわることができません。」
「そうだな……。」
「そこで、要になるのが、チームゼロの8人です。彼らは戦艦オリオンの様子も、地球防衛の任務も知っている。つまりほぼ唯一の戦闘経験者となります。まだ15歳の子供ですが、国連も人類宇宙委員会も、地球に残留している防衛軍関係の実力者も、彼らを無視することはできないでしょう。しかし、その年齢がネックになりえます。」
「彼らは若すぎるからな……。」
「そこで、あらかじめ我々のこの考えを残すべきだと思います。具体的には、チームゼロの階級を1つあるいは2つ上げておき、作戦発動直前に、その中から艦長代理を任命するのです。あくまで形式ですが、形式でもこだわるのが、あの人たちですから。」
「なるほど。お偉いさん対策か。」
「階級なんて、あの子たちには関係ないことだと思いますが、昇進させるべきかと。」
「あの子たちに関係ないように、僕らにもあまり関係ない。スパイに階級なんて立派なものなかったしな。そうか……中尉さんか。俺たち、いまどこらへんだっけ?」
トニイは笑った。
「トニイは大佐。俺たちは中佐だ。副長のタブは同じ中佐だが若干上だと思ってくれればいい。組織の上がそんなじゃ困る。」
ブンタがトニイを制止した。トニイは顔をすっともとに戻した。
「しかし、エリーゼ。君の案は採用しようと思う。ベースキャンプが設営されたら、連絡しよう。準備を進めておいてほしい。」
「わかりました。」
「他には?」
「ありません。」
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ。」
「ありがとうございます。失礼します。」
エリーゼ・フェシカは自室に向かって歩き出した。今日はこれで仕事はおしまいだった。
「エリーゼさん、あがり?」
「ええ。」
「おつかれさま!」
「おつかれさま。」
よく見かける技術班の青年とすれ違った。笑って手を振るが、すぐに疲れた顔に戻ってしまう。
しばらく歩くと、姉と相部屋の個室についた。パスワードを入れて自室に入る。入って左が姉テレーゼのスペースだ。2段ベッドのような作りになっており、下が荷物置き場と机と椅子、上が寝床だった。寝床へ上がる梯子にタオルが引っかかって、船のかすかな振動にゆらゆら震えていた。ベッドの向こうに2人掛けのベンチが壁に埋め込まれるように設置されている。ベンチには、おとといくらいに2人で少し飲んだビールの空き瓶がまだ置いてあった。こんな狭いスペースが艦内には無数にあり、乗組員の私室となっていた。
テレーゼのベッドのカーテンは閉まっている。おそらく姉は先に眠ったのだろう。
「テレーゼ。起きてる?」
カーテンの奥から返事はない。
「空き瓶くらい、片づけてよ。テレーゼ姉さん。」
エリーゼはそう言いながら空き瓶をまとめた。
「明日格納庫行く前に、ごみ箱よって捨てといてね。」
「……ディルク……そこから……。」
「テレーゼ・バイルシュミット。約束よ。ちゃんと起きて……。今はおやすみなさい……。」
エリーゼは自分もベットに倒れこんだ。それくらい疲れ切っていた。




