↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】カルネアデスの舟板
PR
155/236

But we've wander'd mony a weary fit, sin' auld lang syne.

グレーゴールは、吹き抜けとなった食堂の2階の部分から戦艦アルタイルの食堂を見渡して、息をのんだところだった。


食堂には太陽系防衛軍のメンバーが集まり、飲めや食えやの騒ぎを楽しんでいる。テーブルには地球の各国の料理や酒が並び、階級に関係なく楽しい笑い声が響き渡っている。壁には垂れ幕がかかっており、「天の川銀河の平和と安全を願って」と大きく書かれている。戦艦であるため、食堂も豪華客船のような広さとはいかない。しかし少しでも解放感を感じられるように他に比べて天井が高くなっており、その分、他の福利厚生施設をつなぐ廊下がむき出しになっていった。


ヒルタ宇宙軍最高司令官グレーゴール・フェルムは、明日ヒルタを出港する。残存するヒルタ宇宙軍の艦隊と、太陽系防衛軍とリンネルーア軍からの仲間も共に出港することになっていた。グレーゴールは静かに自らの戦艦ベルダーナで過ごす予定だったが、すっかり仲良くなったショウタたちに声をかけられ、戦艦アルタイルでの「出港祝い」に参加することになってしまった。


メイルとレイアもちゃっかり紛れ込んでいる。


メイルと弟のスタワードは、つい先日両親のことを知らされたばかりだ。知らせるようヒュンベルガー首相に許可を求めたのはグレーゴール自身だ。ヒュンベルガー首相は何故グレーゴールがそのことを知っているのか一瞬怪しんだが、何も言わずに頷いてくれた。

狡猾な狸爺として有名なヒュンベルガー首相ではあるが、彼はノトメイア家の子どもたちのことをよく見ていて、親代わりを引き受けたかのように、時々食事に誘ったり、声をかけたりしている。(もっともメイルたちはそれを「仕事」とか「取引」と思っているが。)地球の要となっているチームゼロの子どもたちをなめるような真似をしたこともない。何よりも、無名のグレーゴール・フェルムという若者を最高司令官に取り立てる無茶を押し付ける一方で、何度も面会し、そのたびに障害や不安を取り払ってくれた。この数日間でヒュンベルガー首相への印象がずいぶん変わったように感じる。

そんなヒュンベルガー首相のことだ。彼自身が多忙な中、2人を呼び出して直接説明してくれたらしい。きっとうまく伝えてくれたのだろう。メイルとスタワードは特段思い悩むこともなく戦艦ベルダーナに乗り込んだように見える。


食堂のど真ん中では、4人の男女が踊っている。4人とも白い肌に金髪や赤毛。おそらく地球人のなかでも白人と呼ばれる種族の人々だ。4人の足さばきは見事だが、手は腰に当てたまま微動だにさせない。華麗な足さばきでくるくるとフォーメーションが変わっていく。

そのそばには数人の男女が楽器を抱えて何かを奏でている。よく見ると誰かがスピーカーを使って端末で音楽を流しており、それに合わせて思い思いに楽器の音を合わせているようだ。音楽はどこか古く、どこか懐かしく、だがグレーゴールにとっては新鮮だった。

それを囲む乗組員たちも、見よう見まねで飛んだり跳ねたりして音楽に合わせて体を動かしたり、音楽に合わせて手やテーブルを叩いている。その中にセンカがいた。メイルもいる。レイアはどこにいったのだろうか。

突然、4人のうちの1人が前に飛び出した。3人の手拍子に合わせて超絶技巧を見せつけるように1人で踊り狂う。周囲の人々は大きな声をあげた。拍手が一段と大きく上がる。今度は女が飛び出した。先ほどとは違うリズムのステップを踏んで、また一段と喝さいを浴びる。

「こんな文化があるんだ……。」

グレーゴールはつぶやかずにいられなかった。鉄の星ヒルタでは「野蛮」とされて消えてしまった賑わいがそこにある。


突然音楽が変わった。今度はどこかゆったりした印象の音楽だ。しかしリズムは細かい。人々は体を揺らしながらビールを飲む。再び音楽が変わる。そのメロディーにあわせて、先ほどの4人がだんだんと踊りに加わっていった。それに続けて、人々もはちゃめちゃなステップで加わっていく。

「アイリッシュダンスだ。」

突然隣から声をかけられた。横を見ると、ハシモトショウタがビールを片手に乗組員たちを眺めている。

「アイルランドって国。知ってる?」

「聞いたことはあるが、名前だけだ。」

グレーゴールはそう答えるしかなかった。地球のことは調べたが、200を超える国の名前など覚えきれない。

「イギリスは? 国連の常任理事国の。」

「ええ。確かかつて7つの海を支配した国。いまはヨーロッパの老大国と。」

士官学校で開かれた講演会だか勉強会だかで学んだ記憶を、グレーゴールは思い出す。

「まっ、そんなもんだよな。紳士と紅茶の国。影響力はいまだに大きいが、もうかつての大国の面影はない。宇宙開発もEU単位だしな。そしてマイクロフト・アスキスLSSE情報局情報第2課長を育てたスパイの国でもある。」

「そうなんだ。」

「そのイギリスの隣にあるのがアイルランド。そのアイルランドの民族舞踊だ。」

「陽気な音楽ですね。」

「そう、あのどこか懐かしい音楽と、足のステップだけで踊るのがアイリッシュダンスの特徴。なんでかわかる?」

「さぁ。手にビールに持つため?」

「はははっ、それもいいね。でも違う。」

「地球のことはわかりません。あまりに多様過ぎて。」

音楽がより一層賑やかに早くなった。乗組員たちの熱狂もヒートアップする。

「アイルランドは、イギリス……そもそもイギリスは連合王国なんだ。ブリテン島のイングランドやスコットランドから侵略を受け、アイルランドはイギリスの支配下におかれた過去がある。現在もいろいろな事情があって、アイルランドの北部はイギリスの連合王国に組み込まれている。」

「そうなんだ。」

「その支配下に置かれていた時に、アイルランドのゲール語や文化は禁止された。それでも踊ろうとした人々がこっそり踊るために、上半身の振り付けはなくなっていったんだ。窓の外から見ても、踊っていると気づかれないってさ。」

「物知りですね。」

「こうでもしないと、俺も理解しきれないからさ。」

ショウタは少し笑った。

「センカがこういうの詳しくて教えてくれたんだ。」

「地球の人はみんなこのアイリッシュダンスが踊れるの?」

「いいや、本気であのステップを踊れるのはきちんと訓練を受けた人だけさ。でもイギリスに苦しめられたアイルランドからは、世界中にたくさんの移民が逃げ出して、アイルランドの文化を広めた。だからアイリッシュダンスは比較的有名な方だ。でもあの賑やかさは見よう見まねだよ。」

「同じ地球人の文化だろ。」

「まあね。」


音楽がやんだ。しばらく拍手が続く。すると女が1人、静かに歌いだした。ざわめきが一瞬起きる。すると別の女が歌に加わる。また別の女が向こう側から歌に加わった。今度は群衆の中にいた男が加わる。何かに気付いたように、誰かが手を叩き始めた。歌はゆっくりと、しかしだんだん早まっていく。

一人の女が立ち上がった。まとめ上げていた美しい金髪の髪をほどいたかと思うと、歌に合わせてゆっくりと体を揺らしながら、群衆の真ん中、ステージのようになっている部分に向かって進んでいく。周囲の歌声がより一層盛り上がる。ビールを飲んでいた乗組員たちは、1人また1人と、歌の意図に気付いて、手拍子に加わっていった。

「ロシアの民謡だ。あーやってだんだん早くなっていくんだ。」

ショウタはそう言って息をのんだ。

「あの踊っている人は情報班の人で、出身はロシアなんだが、幼いころにアメリカに引っ越したはず。」

「それがどうかしたのか?」

「いや、母国語はロシア語だが、ロシアのことはあまり知らないと、寂しそうにしていたんだ。」

「じゃあ、なんで踊れるんだ?」

「わからない。しいて言うのなら、先祖の血が躍らせてるんじゃないかな。」

歌声はいつのまにか倍以上の速さになり、手拍子が激しくなる。女は髪を振り乱しながらくるくると回り始めた。歌声と掛け声がよりいっそう大きくなる。

「ああ、僕には踊れないだろうな。」

歌と手拍子がやみ、女は回るのをやめて手を上にあげた。割れんばかりの笑顔と拍手。グレーゴールも拍手に加わった。また何かの音楽が始まる。誰かが踊りだす。今度はどこの国の音楽だろうか。




「地球の多様性には、勝てないな。」

グレーゴールはつぶやいた。

「その多様性と混沌のなかで、人々がもがいてきたのが、この地球の人類の歴史さ。宇宙時代になっても、それは変わらない。って、センカはいつも言っている。」

ショウタはそう言ってビールを一口飲んだ。

「グレーゴールも飲むか?」

「遠慮しておく。地球人が喜んでアルコールを口にする感覚がよくわからない。」

「俺も子供の頃はそう思っていたよ。」

ショウタは少し笑ってもう一口飲んだ。

「悪くはないぜ。」

「慣れないものは飲まない方がいいよ。」

ふと、聞き覚えのある女性の声がした。振り向くと、リンネルーア軍の士官の服をやや着崩した、わずかに薄い緑を帯びた白い髪を輝かせた女性が立っている。

「レイア・リンネルーア様?」

「だからレイアでいいよ、フェルム最高司令官。」

ここ数日、ショウタと同じくらい顔を合わせた、リンネルーア軍の最高責任者だ。そして次のリンネルーア女王。公式の場では最大限の礼儀を払うべき相手では会ったが、レイア本人は気さくな女友達と変わらない。

「僕こそ、グレーゴールで。」

「ありがと、グレーゴール。で、ショウタ、なんでこんな遊びの場で、わざわざ非公式プライベートで、3つの軍の最高司令官を集めたの?」

レイアはわざとらしく顔をしかめてた。

「わたしも踊りたかったわ。」

「こういう場じゃないと、密談ができなくて。主にチームゼロのせいで。」

レイアがふふっと笑った。

「チームゼロのいいところは、その結束力だけど、結束が強すぎて、たまに不便なこともあるのよね。」

「簡単に言うと、グレーゴール、君にすべての機密情報を託すために集まった。」

「どういうこと、ショウタ?」

「だって、今度の三星連合艦隊の総指揮官はあなたんですもの、グレーゴール・フェルム。」

「そう、俺でもレイアでもない、グレーゴールだ。そんな君は、全てを把握しておく必要がある。すべてだ。もちろん、僕やレイアも把握しておくべきだから、ここに集まってはいる。」

音楽がまた変わった。また賑やかな音だ。グレーゴールはため息をついた。

「もう、たくさん話をしたじゃないですか。」

「実はまだ話していないことがあるんだ。地球から。」

ショウタの声が一段と低くなった。

「レイア、君には話すべきかどうかずいぶん悩んだが、話す。リンネルーア人でこのことを知っているのは、ヘムルート・エルドーアだけだ。リーヒ女王にはまだ伝えていない。」

「リーヒ叔母さんにも?」

「うん、そういう情報だから。」

グレーゴールとレイアは顔を見合わせた。

「いいわ。聞く。」

「ショウタ、何なんだ?」

ショウタは息を吸い込む。最後まで迷ったが、それでも言葉にした。

「新たなメカが発見された。数はかなり多い。」

グレーゴールは息をのむ。レイアの目が見開かれ、美しい緑の瞳に悲しみが陰った。

「場所は、太陽系外縁部。」

レイアは何かを叫びかけて、慌てて口を手でふさいだ。

「まさか……。」

「大丈夫だレイア。正確に言うと、太陽系外縁部よりさらに外側の宙域。人類はほとんど足を踏み入れていない地帯だ。被害を受けたのは調査用の人口通信衛星が数個。まだ誰も死んでいない。」

「でも……!」

「そう、いつ辺境戦争が再発するかわからなくなってしまったんだ。今まさに、メカが辺境の移民星に襲撃しているかもしれない。」

「そんな。」

レイアの目から涙がこぼれた。

「……待ってくれ。じゃあなんで地球人は、お前はここに来た?」

グレーゴールはつぶやくように尋ねた。陽気な音楽が妙に耳に入ってくる。

「ショウタ、お前はなんで、ここにいる……? お前らは辺境戦争の英雄だろ? 地球人の、太陽系の危機に、いなくてどうする?」

ショウタは何も言わなかった。妙に目を合わせない。グレーゴールははっとして、ショウタの肩をつかんだ。

「まさかお前、それを知っていて、それを知っていてここに来たのか?」

「……ああ、そうだ。」

「お前、最高司令官だろ? メカと互角に戦えるパイロットはそういない。ノトメイア研究所の力をもってしてもだ。どんな大人も、実戦経験のない赤子みたいなものだ。なのにお前、故郷を裏切ったのか? なんのために!」

「グレーゴールっ……!」

ショウタに掴みかかったグレーゴールを、レイアがなんとか止める。残り少ないビールがコップからこぼれた。

「2人とも聞いてくれ。このことを知っているのは、俺と、クラモトカズマ、そしてアサヒユウキの3人だけだ。……いいな?」

「ちょっと待って、センカはそれを知らないの?」

「そうだよ、レイア。あいつには知らせていない。だからあいつは、第1軍のすべてを、サメロトリアテロ型宇宙戦艦3隻と新造されたトリブスステラ型宇宙戦艦3隻を、派遣することを、LSSE戦術局戦略第1課の正式な要請として求めてきた。第2課もそれに従った。天の川銀河での太陽系防衛軍の影響力を確立させるためだ。」

レイアは息をのんだ。

「天の川銀河にアピールしようとしたのね、若さと希望の太陽系防衛軍の存在を。」

「ああ。あいつは戦争が大嫌いだ。戦いを避けるための抑止力としての軍隊を求めていた。防衛軍ここにありを見せつけることで、言っちゃ悪いがヒルタ一強の状況を打破しようとしたんだ。ヒルタが機械化軍を創設しようとしていることは随分前から予想していたし、このままヒルタに事実上支配されている状況に持ち込まれかねないことまで警戒していたよ。」

「そんな! ヒルタは他の星を侵略しようなんて思っていない!機械化軍は人の命を犠牲にせずに身を守るための……!」

「グレーゴール、実はリンネルーアも、地球と同じことを考えていたわ。鉄の星ヒルタはね、友人であると同時に、自衛のためというスローガンのもとにメカを生み出してしまった星でもあるの。」

「もちろん、今の共通の敵は「メカ」だ。ヒルタ宇宙軍の主力部隊を襲った悲劇には、僕らも涙を流した。でも、僕らは涙を流しながら、これをヒルタ一強を切り崩すチャンスにしないといけなかったんだ。」

グレーゴールは黙り込んだ。軍拡の話を聞かなかったわけでない。しかしそういったきな臭いことを進めるのは大人の仕事であって、自分のものではなかった。今まではそうだったのだ。しかし、今すべての責任がグレーゴールのものだった。

「すまない。きつい言葉を使ってしまったな。」

「いや、いいんだ。間違いではない。」

「ショウタ、話を戻して。第3課は……? ユウキは知っていたんでしょう?」

「ああ、知っていた。だが『メカが近づいています』なんて全世界に言えるわけないだろ? 表向きはセンカたちに賛同した。つまり戦略局の出した結論は『第1軍全てのヒルタ派遣』だった。」

陽気な音楽はまだ続いている。ショウタが話をつづけた。

「おれも戦術第1課としてはセンカたちに賛同した。ただ戦術第2課、つまり地球防衛の第2軍は派遣に反対しつつ、最高司令官に判断をゆだねた。これもいつものことだ。戦術第3課、つまりクラモトカズマも同じようにした。ただ、例の情報を添えてな。」

「それで、ショウタとカズマ、ユウキはどういう話をしたの?」

レイアが聞く。

「明言したわけではないが、僕らチームゼロの間では、いまだにM作戦が続いている。いつかメイルのご両親を救出するという願いがある。センカが派遣を決めた個人的な理由はメイルだ。ノトメイア夫妻の情報を知って、絶対に自分が向かうと誓ったんだろう。もっともセンカも馬鹿じゃない。あいつのことだから、もう勘づいているかもしれない。自分の暗殺計画に気付いてしまうような女だからな、あいつは。だから派遣する艦船の最終決定は防衛軍最高司令部、つまり僕に任された。」

ショウタは目を細めた。

「悩んださ。カズマたちと何度も話した。そして戦艦アルタイルとチームゼロのみを派遣することに決めた。俺たちが抜けることは、太陽系にとって大きな損失だ。でも信頼できる部下と新造艦を含めた宇宙戦艦の大部分は置いていく。」

「確かに、ヒルタもリンネルーアも『1隻だけ?』とは思った。でもチームゼロの8名が派遣されると聞いて納得した。今度の任務は、下手したら一瞬で全滅する。だからリンネルーア王宮も最後まで私の派遣に反対だった。人材の派遣には相当慎重になるべきなのに、妙なバランスのとり方だとは思ったけれど、そういうことだったのね。」

「……それで、地球の防衛体制は?」

グレーゴールは、静かに尋ねた。

「ミサカ司令官と、カズマに任せてある。第3軍が索敵を行い、監視体制を強化している。いざというときに備えて第2軍もすぐに動けるようになっている。もしメカが現れた場合、すぐに住民を安全な場所に避難させなければならない。辺境の小惑星にはたくさんの移民がいるんだ。彼らが個々で持っている防衛力は少ない。だから早急に安全な場所にまとめないといけない。そういったことはユウキが整えてくれている。それにいざというときは、残った2名のゼロパイロットが、今度こそ辺境移民たちを守る。僕らは……僕らはすぐに戻れないかもしれないが、メカの中心コアが止まれば、逃げ出したメカはすべて活動を停止させると聞く。だから僕らはヒルタでできることをやるさ。少なくとも、今はそのつもり。」

「じゃあ、俺は総司令官として何をすればいいんだ?」

「そういうことを知ってほしかった。僕らには実は時間がないことを。」

グレーゴールは、静かに頷いた。

「頼む。グレーゴール。」


「となると、リンネルーア王宮の戦略も大幅に変えなきゃいけないなぁ。」

レイアがぼんやりとつぶやいた。

「どういうこと、レイア?」

グレーゴールの言葉に、レイアが少し困ったような顔をして答えた。

「リンネルーア軍はあまり強いわけじゃないけれど、それでも何かあれば仲間の星を助ける。それが未来のリンネルーアを守ることになるから。だから、本来なら今すぐにでも何か理由をつけて地球を支援して恩を売りたいところだけれど、今から下手にこの情報をリンネルーアに知らせるわけにもいかないし。」

「ああ、その点なら、ヘムルート・エルドーアが何とかすると言っている。」

「ヘムルートが?」

「彼、君らの『影の盾』なんだろ?」

「それはヘムルートの父親よ。彼はまだ……。」

「どうかな。少なくとも、ユウキとヘムルートは一緒に行動している。まっ、宇宙移民自治政府プロセルピナとリンネルーア王宮のドンが密約を交わしたってところかな。もし恩を売っておく必要が出たら、すぐにヘムルートが動く。その必要がなければ表に出ないだけ。そういう状況だそうだ。」

「さすが、ね。リーヒ女王には伝えない方がいいかしら?」

「ああ、その方がいい。下手に知らせてしまうと、後々外交問題に発展しそうだし。リンネルーアもやたら派遣はしたくないだろ?」

「ええ、できるだけ兵力は国内で温存しておきたいところ。でも友人をうまく助けないと、後々批判されてしまう。難しいわよね。御忠告ありがとう。」

グレーゴールはため息をついた。乗組員たちは踊るのをやめて歌い始めている。

「どうした、グレーゴール?」

「いや、とんでもない世界に足を踏み入れてしまったなぁと思ってさ。」

レイアがくすくす笑った。

「そのとんでもない世界は、あなたと同じ凡人の子供が作っちゃったのよ。諦めて加わっちゃうことね。意外と楽しいわ。」

歌声がより一層大きくなった。肩を組んで乗組員たちが何か歌っている。そのメロディを聞いて、ショウタがくすっと笑って歌い始めた。

「いつしかとしも、すぎのとを、あけてぞけさは、わかれゆく」

レイアがまたくすくす笑った。

「太陽系の歌ね。私も歌えるわ。でもその歌詞は何?」

「日本語版さ。卒業式なんかで歌う別れの歌だった。まさか国歌にするとは思ってもなかったよ。」

「別れの歌は嫌だな。」

グレーゴールはつぶやいた。

「再会を願う歌がいい。」

「確かに明日から戦いに行くのになぁ。」

ショウタはそう笑うと、グレーゴールと肩を組んで、他の乗組員たちにあわせて歌い始めた。

「And there's a hand my trusty fiere ! And gies a hand o' thine ! And we'll tak a right gude-willie waught,for auld lang syne.」

そこまで歌うと、ショウタがにやりと笑った。

「再会した友と酒を飲む歌だ。サビはさすがに聞いたことあるだろ?」

「地球人はなぜアルコールを喜んで口にするんだ?」

「そういう文化なのよ。」

3人の最高司令官は肩を組むと、静かに歌を口ずさんだ。


For auld lang syne, my dear,

for auld lang syne,

we'll tak a cup o' kindness yet,

for auld lang syne.


(友よ、古き昔のために、

 親愛のこの一杯を飲み干そうではないか。)


「さて、ハシモト太陽系防衛軍最高司令官、未成年のくせに今日もお酒を飲んじゃったあなたのパートナー、どうにかしておいてね。」

「これはこれは、レイア・リンネルーア殿下。あのいくら飲んでも平気な防衛軍ウチの戦略長の心配までしていただき、恐れ多いです。」

「やはり、慣れないものを飲むのはやめた方がいいですね、レイア様。」

「ええ、グレーゴール・フェルム ヒルタ宇宙軍最高司令官。では、わたくしはこれで。」

3人はわざと丁寧な口調で馬鹿正直に挨拶を交わすと、ハイタッチをして別れた。食堂では、何かを忘れようとするかのように2次会を始めようとするセンカを、スズナが睨み付けていた。ヒルタの夜はまだまだ長い。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。