男の子たち
◆現在、機密となっている情報◆
《メカの中心と同じ宙域にノトメイア負債が向かった痕跡があること》
情報の流れ
ヒルタ宇宙軍主力部隊の遺したデータ
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ヒルタ首相ヒュンベルガー
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リンネルーア女王リーヒ
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リンネルーア「影の盾」ランダルー・エルドーア伯爵
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ヘムルート・エルドーア →リンネルーア王女兼リンネルーア軍最高司令官レイア・リンネルーア
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宇宙移民自治政府戦略委員長アサヒユウキ、「新」ヒルタ宇宙軍最高司令官グレーゴール・フェルム →ノトメイア研究所所長代理メイル・ノトメイア
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太陽系防衛軍最高司令官ハシモトショウタ、ウエキセンカらチームゼロのメンバー
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三星連合艦隊関係者
公式には地球とリンネルーアからの天の川憲章に基づく艦隊の派遣が決定するまでチームゼロやレイアには知らされていなかったことになっている。(ヒュンベルガー首相やリーヒ女王が、メイルと仲の良いセンカやレイアが判断に苦しむことを予想したためである。)しかし、ヘムルートの計らいによって、センカとレイアに近しい友人たちにその情報が知らされ、彼らの判断でセンカとレイアにもノトメイア夫妻の情報が伝えられることとなった。センカとレイアはメイルの親友として悩みつつ艦隊の派遣を決める。なお、一般にはほとんど知らされておらず、LSSEや軍の関係者には任務に関する一環としてヒルタ宇宙軍司令部から伝えられた。
《太陽系周辺の新たなメカの脅威》
太陽系防衛軍第3軍調査部隊
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第3軍司令官クラモトカズマ
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最高司令官兼第1軍司令官ハシモトショウタ、第3軍副司令官アサヒユウキ
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第2軍司令官バズ・ミサカ
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第2軍・第3軍関係者
太陽系外縁部に新たなメカの脅威が確認された事実は、防衛軍の上層部のみが知っている状況である。同盟星ヒルタへの派兵を求められ、外交上、そして個人的にもその依頼を受けなければならない状況であったため、あえて最上層部で情報をとどめ、ヒルタへの派遣組には知らされず、ヒルタへの派遣組でこの情報を知っているのはショウタだけである。しかしヒルタへ派遣される戦艦が戦艦アルタイルだけであったことから、チームゼロの面々も何かあったことは勘づいている。
《メカに人格が生まれつつある可能性》
情報の流れ
(レイア・リンネルーアの証言)
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メイル・ノトメイア、スタワード・ノトメイア
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グレーゴール・フェルム
敵となった自動防衛装置は学習により「人格」とも呼べるものを持ち始めたのではないかという仮説。レイアがメイルに偶然話した体験談がきっかけとなっている。もしメカに人格が生まれていた場合、メカの持つ人格はノトメイア姉弟の兄弟にあたる。高度な人格が生まれていた場合、単なる機械として処理できない可能性や、対話の可能性、そして破壊がより難しくなる可能性が考えられる。あくまで仮説の段階であるため、ノトメイア姉弟くらいしか把握していない。
グレーゴール・フェルムは、寮の自室のベッドに倒れ込んだ。ベッドはギギィという耳障りな音を立てて、グレーゴールのすべてを受け止めた。
グレーゴール・フェルムは、ヒルタ宇宙軍の士官学校を終えた後、ヒルタ宇宙軍の若い士官に提供される寮に入った。小さなバスルームとキッチンとトイレ。それにわずかな個人部屋。立地は職場に近くて申し分がないが、ヒルタポリスの繁華街からはやや離れていて、若い者にはよく文句を言われていた。食堂や売店、規模は小さいがジムや病院なども近くにある。家具家電も最低限のものが支給されることになっていた。ヒルタ宇宙軍の士官にとって、暮らしやすいものの、決して愉快とは言えない住居だった。
そもそもグレーゴールは、ヒルタ本星の護衛艦隊の司令官をいきなり任せてもらえるとは思っていなかった。しかし実態を見れば若手に経験を積ませるお遊びみたいなもので、艦隊と言う名の老朽艦や小型艦、何らかの理由でリハビリ中の戦艦ばかりだった。任務も訓練を兼ねて惑星ヒルタの周りを航行するくらいだった。もちろん任せられたからには精一杯やろうと思っていたが、危機感はまるでなかった。艦隊の司令官と言えど、ふたを開けてみたら数隻の船の運用を代理で頼まれた、くらいのものでしかなかった。上からも、経験を積ませるために、グレーゴールら若い士官は様々な役職を交代で回る予定だといわれていたので、いつ司令官から他の役職に移されるかと、友人たちとたわいもない話をしていたものだった。少なくともしばらくは、この独身寮でつつましい生活をするのだろう。
それが、たった一夜にして、ヒルタ宇宙軍最高司令官となってしまった。
それがいきなりであったことは、グレーゴールが倒れているこの部屋が、未だ若い士官用の独身寮の中でも一番待遇の良くない設備なのがよく表している。本来であれば、ヒルタ宇宙軍最高司令官になるような人物は、そもそも寮なんぞに住まない。既に家族と共に巨大な邸宅を構えていてもおかしくなかった。たとえ寮でも数部屋はある高級寮があてがわれるはずだ。警備も必要になってくるし、最高司令官ともなるとやらねばいけないことがたくさんあるからである。しかし、あまりに突然のことだったため、引っ越しは延期するよう、ずいぶん年上の部下に頭を下げられた。もちろんグレーゴールは丁重に了承した。
しばらく司令部に泊まり込むほどの激務だったが、ようやくひと段落ついたのと、出港が近いためグレーゴール自身も遠洋航海の準備をしなければならなかったので、1日だけ家に帰ることができた。掃除洗濯をひととおり片づけて、荷物を準備したら、ゆっくりしようとあれこれ考えを巡らせたものの、帰宅した瞬間ベッドに倒れ込んでしまった。
「起きなきゃ……。」
グレーゴールは何度も眠気に負けながらゆっくり起き上がり、のろのろと洗濯マシーンをセットし、床に散らばったカバンを拾い上げ、中身を整理しようとしたその時だった。呼び鈴が鳴った。
「はい、どちら様……?」
宅配便か何かだろうか、と思ってグレーゴールが扉を開けると、そこには見慣れないコート姿の男が3人立っていた。帽子に隠れて顔が見えない。手には袋をどっさり抱えている。
「えーと、グレーゴール・フェルムさんのお宅ですか?」
やや違和感を感じるたどたどしい質問に、グレーゴールは一瞬身構えた。すると見知らぬ男たちは少し笑って、お互いを突っつき合い始めた。
「おいトウキ、お前さっきからヒルタ語の発音へたくそすぎないか。」
「タケルに言われたくはありません。」
「人様の家の前で日本語で騒ぐな。俺たちがそろいもそろってこんなところにいるとばれたら……。」
「外交問題、でしょ? 班長。」
「センカがブチ切れるぞ……紹介が遅くなって申し訳ない、ハシモトショウタだ。」
困った顔をして見せていた男がそう言って手を差し出す。
「ニイムラトウキです!」
先ほどのたどたどしいヒルタ語の男が手を差し出した。グレーゴールは、今度のヒルタ語にはなぜか違和感を感じなかった。
「ニシオカタケル。よろしくな。」
頼りがいのありそうなしっかりした手が差し出された。3つの差し出された手をもう一度見渡すと、グレーゴールは、ひきつった顔で手を差し出した。
「ヒルタ宇宙軍の、グレーゴール・フェルムです。あの、皆さんなぜここに?」
「手伝いに来た。」
タケルがそう言ってにやっと笑った。
「掃除洗濯食事。今日片づける予定なんだろ?」
3人の地球人は、親戚の家か何かのように、躊躇することなく素早く部屋に上がり込むと、それぞれの手土産を広げながらあれこれいきさつを話し始めた。グレーゴールはひとまず適当なコップに、たまたま先日上司が「家で余ってしまった」と言って、押し付けるようにくれた茶を注いだ。その上司は、確かヒルタ宇宙軍の主力艦隊と共に消えたはずだ。
「なるほど。つまり、あなた方が艦内の管理で忙しいというのは仮病で、本当は僕のところに来るのが目的だったと?」
グレーゴールはクッションを抱きかかえたまま言った。
「ああ。本当なら、すぐにヒュンベルガー首相との会談を入れたり、記者会見をしたりしてもよかったんだが、大人数でヒルタポリスの中心街に押し掛けるのもよくないかなぁと思って。まっ、そういうのはセンカの役目だし、ひとまずあいつだけヒュンベルガー首相や政府の高官と打ち合わせ。」
ショウタがもっともらしく言うのに続けて、トウキが頷きながら言う。
「船の管理は、うちの副長がなんとかするってさ。あいついろいろと仕事溜まってたから、ちょうどいい時間ができたーって言ってたよ。ほら、技術面で、ヒルタやリンネルーアと同期させないといけないシステムがいくつかあるから。」
ショウタも頷きながら話し始めた。
「スズナとハルカも行きたがってたんだが、人数多すぎても迷惑だろうし、俺たち3人だけで来た。」
タケルが口をはさんだ。
「いきなり、男の部屋に上がり込むのもよくないしな。」
「なぁ、この際だからはっきり言わせてくれ……タケルとトウキはいつからそういう関係をチームゼロに持ち込んだんだよ。」
ショウタのあきれた声に、トウキが反応した。
「おーっと、彼女が途切れない最高司令官様に言われたくないぜー。」
「トウキのが早かった。」
タケルの静かな言葉に、トウキがわめきだす。
「おーいおい、タケル、何を言い出すんだよ。」
「本当だろ?」
「……まぁ、そうだけどさ。」
トウキはふてくされながら、続けてつぶやいた。
「でも、タケルとスズナはもう一緒に住んでるレベルだろあれ。」
「あ、まぁ……まぁ、俺の家には、合計で10人くらい住んでるぞ。トウキ君、君も週に何回泊っているのかな?」
タケルが苦し紛れながら、にやっと笑ってみせた。
「うるせーな!」
トウキが大きな声で笑い始めた。が、瞬時に真剣な顔に戻ってショウタを見つめる。
「ところで、最高司令官。俺はてっきり、お前はセンカのことが好きだと思ってたんだが。」
「ばーかタケル。センカにはユウキがいるじゃないか。アサヒユウキ君。お互い銃で撃ちあった因縁のカップル。」
トウキはわざとらしくため息をつきながら、グレーゴールの注いだ茶に手を伸ばした。
「しかし戦闘時のパートナーは、ショウタだろ? ショウタはショウタで彼女がいることは知ってたが、俺はお似合いだと思ってる。」
タケルはあくまで淡々と答えた。
「あいつのどこに惚れればいいんだよ。あの戦闘マニア、こっちの気持ちなんて気にしないで、すぐに飛び出していきやがる。」
ショウタがため息をつきながら言った。しかし、そのため息が失望のため息ではないことに、グレーゴールは気づいた。幸せそうなため息だ。
「戦闘中じゃなくてもそうだ。そうじゃないと分かっていても、冗談だけど、俺は時々、太陽系の民主主義を守る会に突き出しておいた方がよかったかもしれないなこの女、て思ってる。」
「俺も。かの懐かしき定期便計画事件って感じ。あの時はセンカとユウキ本気で殺そうと思った。」
「と言いながら、裏で航海第1課と航海第3課で交渉を進めていたニイムラトウキLSSE航海局航海第1課長であった。」
タケルがにやっと笑った。トウキもわざと怒ったような顔をしてみせたが、耐えきれずに笑ってしまった。
「ずいぶん、仲良しなんですね。」
グレーゴールはうらやましそうに3人を眺めながら言った。妬みや嫉妬ではなく、心の底から「いいな」と思った。
「まあな。これでも訓練を始めたのは中学1年生……8年くらいは一緒にいるからな。」
ショウタがそう言った。トウキも続ける。
「もうそんなにか。」
「ああ、辺境戦争からもう……5年は立とうとしている。ファーストコンタクトからは4年だ。」
タケルが指を折り曲げながら言った。
「じゃあ、天の川憲章の暗殺未遂事件からは3年ですか。」
グレーゴールも指を折り曲げながらつぶやくように言った。
「あの時は、ヒルタに本当にご迷惑をおかけしました。」
ショウタがわざとらしく頭を下げる。
「いいっていいって。と言っても、僕はまだ士官学校の学生でしたから。でもあの会場にはいたんです。後学のために学校全体で見学に行ったんです。」
「あ、そっか、グレーゴールはメイルたちとは違って、全日制の士官学校だったんだっけ?」
タケルが聞く。
「ええ。それくらいしか才能がなくて。」
「でも、その年のヒルタ人の中では一番の成績で士官学校を卒業、実地研修を経て、すぐにヒルタ本星の防衛艦隊の司令官に。そして、いまは、ヒルタ宇宙軍最高司令官様ってわけだ。」
「おい、タケル……。じゃあ、あの場にいたということは、あんまり見たくない風景を見てしまったわけだ。」
ショウタの言葉にグレーゴールが頷く。
「ええ、僕らの席からは、ユウキさんがよく見えましたから。彼が立ち上がって銃を構えたところは見ていません……。僕も友人たちも、競技場の中央の舞台の上で、誇らしげに調印している『ファーストコンタクトの3人』を見るのに夢中でした。『天の川に住む人々は、いかなることがあろうとも、常に互いを信じあい、共に歩んでいくこと。』と聞いて、胸がいっぱいで。その時銃声3発が聞こえて、レイア王女と、メイル・ノトメイアが突然うずくまり、ウエキセンカが片腕を抑えて銃声の方を向いて立ち尽くした。あなた方のこともよく覚えています……みなさん瞬時に席から立ってすぐに動ける体勢になり、素早く会場を見渡して端々をにらんでいた。あの姿を見て、『チームジパング』という伝説のスパイの姿が容易に目に浮かびました。同じ軍人として、思わず感嘆を覚えてしまったので、よく覚えています。」
「すると、ユウキが逮捕された瞬間も?」
ショウタの言葉に、グレーゴールはまた頷いた。
「ええ。センカさんが警備兵の前に立ちふさがって銃弾に倒れた瞬間、今まで何の迷いもなく銃を構えていたユウキさんが固まってしまった。呆然としているユウキさんを周囲の人々や警備隊が一瞬で飲み込んでいきました。あれは一瞬でしたが、永遠にも感じました。そばに、ユウキさんの知り合いだろうという若者……今思うと、クラモトカズマさんと、妹さん方ですよね。妹さん方がが誰かの名前を呼ぼうとして、その口を必死に抑えて目立たないように涙を流している若者がいて、それも妙に覚えています。」
「今となっちゃ、笑い話みたいな愉快な思い出なんだけど、それでもあの時の絶望は忘れられないな。」
「トウキはさ、あの後、センカの余命が1週間て聞いて、帰国の航路を計画することになって、誰にも言わずに気丈にふるまっていたけれど、涙で航路図何枚かダメにしてるんだぜ。」
「そういうタケルもな。」
「あー、もう、こんな話してたら準備が進まないよ!」
タケルが立ち上がりながらふてくされた。
「さっ、グレーゴールは荷物を準備して。ショウタは荷物の準備を手伝うんだ。俺は食器を洗う。トウキはそこの洗濯物をたたんでくれ。あー、でもグレーゴールくんのプライベートもあるから、1時間くらい手伝ったらお暇するよ。いいね?」
他の2人ものろのろと立ち上がった。
「ありがとうございます。」
グレーゴールは立ち上がりながら頭を下げた。
「そういやさ、グレーゴール。敬語はやめてくれ。翻訳機のせいなのか、言語の仕組みの違いのせいなのかは分からないんだけど、ヒルタ人の使う敬語はどうも嬉しくないんだ。」
ショウタはそういうと、すっとウインクをして見せた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
無事に高校の地理と歴史の先生として働き始めました。わかってはいたのであんまりダメージはないですが、大変です。でも楽しいです。頑張っています。更新ときどきできたらいいな。




