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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】カルネアデスの舟板
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再会の狼煙

藍色の宇宙を抜けた。トウキは操舵槓を握る手を緩めた。


藍色の宇宙に関する研究も進み、地球人が宇宙の裂け目を通ってはるか遠い宇宙を旅することは、もはや当たり前のこととなりつつある。最初にこの宙域を通り抜けたときは、メイルたち鉄の星ヒルタの技術があったにも関わらず、トウキは落ち着く暇もなかった。チームゼロの航海士ナビゲーターとして、宇宙を移動する航海に関する役割を一身に背負ったトウキにとって、あのM作戦の最大の役割は、この藍色の宇宙を無事通り抜けることだった。嵐に巻き込まれ、未知の宙域に吹き飛ばされたものの、結果メイルの弟であるスタワードを救出することができたし、犠牲者を出すことなく鉄の星ヒルタにたどり着いた。

あれ以降、最初は国連宇宙機構やLSSEの関係者たちが、軍艦を使ってこの宙域を何度も移動した。やがて民間の貨物船にも順次解放されていき、もうすぐLSSE主導ではない観光船や輸送船もここを行きかうようになる。

それでも、トウキはいまだにあの嵐を思い出す。だからこそ、何度行き来してもこの藍色の宇宙では身を引き締めることを忘れなかった。


あらかじめ連絡をしておいたため、ヒルタの防衛部隊の戦闘機が、誘導するように前を飛んでいる。が、その飛び方を見て、艦橋でタブレット端末片手に艦長のショウタと打ち合わせ中だったセンカが、あっと叫んだ。艦橋にいるチームゼロがその瞬間すべてを悟った。


「あの飛び方はメイルだな。」


ショウタが目を細めた。彼女はノトメイア研究所の所長として多忙な日々を送っているし、本来の仕事も技術士官だ。デスクワークの研究がメイル・ノトメイアの本分ではある。しかしメイルは単騎で太陽系に飛び込んでくるほどの乗り手でもあったし、実は士官学校でそれなりの訓練を受けたエースパイロット級の操縦技術を持つ。たった10人しかいない零号機ゼロのパイロットで、多くの猛者であった戦艦オリオンの航空隊が倒れる中、彼らの手引きがあったとはいえ生き残った伝説のエースパイロットであるセンカとか、幼いころから「最高の戦士」となるべく英才教育を受け、独断で単騎「メカ」に突っ込んでいき続けても生き延びた復讐の化け物ともいえる技量を持つ、王位継承者かつ最高司令官のレイアとか、笑うしかないレベルの技量を持つファーストコンタクトの3人の中ではやや劣るが、対メカ戦闘なら十分な戦力だ。

ここ最近、ショウタは個人プライベートでメイルとやりとりはほとんどしておらず、センカ経由で近況を知ったり、仕事の関係で研究報告を聞いたりしていた程度の関わりだったが、メイルもメカとパイロットとして戦うために努力をしていたことは容易に想像できた。


その時、レーダー探査機がアラート音を立てた。レーダー手の席にはあいにく誰もいない。ヒルタ宙域でレーダーを使う必要はなく、レーダー手の担当の者は別の仕事を手伝いに行っていたのだ。たまたま近くにいたスズナがレーダーに飛びついた。

「レーダーに感あり!直上!追突するコースです!」

「総員、位置につけ!……事故か何かか? 本艦への直撃は避けたい、トウキ頼む。」

ショウタが帽子をかぶり直し、トウキのそばについた。

「スズナ、レーダーのデータこっちによこして。ショウタ、避けるよ。振り回していい?」

トウキが操舵槓のそばのコンソールを素早く動かしながら、巨大な戦艦アルタイルをどう動かすか素早く検討をつける。

「あんまり広い宙域じゃないんだから、他の船の迷惑になるようなことしないでよ。」

センカがそう言いながらレーダーをのぞき込んだ。

「スズナ、まさか、この突撃してくる戦闘機の機種と識別番号は?」

「うん、予想通り。緑の星リンネルーア軍所属、戦闘機スプレプト、乗り手はレイア・リンネルーア最高司令官。」

「ほう、リンネルーア軍はもう到着していたのか。」

ショウタはアラート音など鳴っていないかのように落ち着き払って言った。

「トウキ、ぶつけてやって。」

「は? いまなんとおっしゃられましたか? 戦略長さま。」

わざとうやうやしく、トウキがセンカに尋ねる。

「あの自分の操縦技術に酔いしれたバカに、同盟国とはいえ突っ込んでくるのはいくら王女様でも宣戦布告ととらえて攻撃しますよ、って教えてやるのよ。」

「トウキ、どうせレイアだ。向こうが避けるだろう。船体は揺らすな。ただ万が一に備えてオートではなくマニュアルにしといてくれ。」

「りょーかい。航海長権限で、オート航行モードからマニュアルへ移行。」

『ニイムラトウキ第1軍航海長の声紋コードを確認しました。マニュアルに移行します。3,2,1.』

合成音声に続いて、戦艦アルタイルがわずかに揺れた気がした。しかし元の静かな航海に戻る。トウキの握る操舵槓に迷いは一つもない。

「ウエキセンカ、艦長ハシモトショウタより命令。」

ショウタは背後のレーダーの方を見てにやりと笑った。

「ゼロでの出撃を命じる。」

「目標は?」

センカはそう言って笑った。

「友人との再会だ。」







思えばゼロに乗るのは久しぶりだ、とセンカは思った。しばらく地上での勤務が続いていたのだ。


無論、日本とテラポルトス、テラポルトスと宇宙の移動手段として普段からなるべくゼロを使い、感覚を鈍らせないようにしていたし、時折教官を引き受けたり、訓練をしたりしていたが、それでも毎日飛び回っていた高校生時代に比べたら、最近はほとんどゼロに乗っていない。今回の出征が決まってから、チームゼロは忙しい中なんとか時間を作り、実戦にかなり近い形での訓練を数多くこなしてきたが、それでも不安が残っていた。藍色の宇宙航行時も、各々暇を見つけては、操縦シュミレーターに籠った。


ゼロは特別な機体だ。戦闘機と呼ばれ、センカたちも戦闘機と呼んでいるが、最近の専門家たちの意見では、これは飛行機の進化したものではなく、SFの世界の人型の戦闘ロボットみたいなものらしい。形こそまだ戦闘機だが、操縦の仕方や動きの多様性は、戦闘機とはもはや呼べないほどの斬新なものらしい。確かにゼロは左右に操舵槓をもち、それぞれが左右のエンジンに対応している。それらの微妙な加減で自在な動きをかなえたのだ。まるで手や足のようと言えばそうかもしれない。


艦内や地上勤務用の戦闘服の上から、宇宙空間に対応したパイロット用のスーツを着る。いつもよりごわごわした姿格好になったが、従来の宇宙服に比べたら、びっくりするほどスマートだ。足元のブーツを固定してしまうと、センカは首のあたりから一気に髪を持ち上げて、手首のヘアゴムでざっくりとひとつにまとめた。

「よしっ」

自然と独り言が漏れる。センカはもう、慣れた手つきで手元のバックルを次々と操作し、宇宙服を密閉させていく。ごわごわしていたパイロット用スーツもいつもと変わらないスマートな姿かたちになった。最後にヘルメットをつけて固定してしまうと、手首の計器類を確認する。宇宙服の気圧は完璧だ。


センカは女子パイロット控室を出ると、床を思いっきり蹴り上げた。備品の管理のため、あえて重力を発生させないよう、重力がコントロールされ無重力となっている格納庫を、ふわふわと移動した。(さすがに、無重力状態ではない惑星寄港時などにうっかり重力制御が壊れ、天井から戦闘機が落ちてきた、なんてことが起きないよう、きっちりした固定装置もちゃんとある。)

センカのゼロは、もう出撃を待つばかりだった。整備員が素早くコックピットを開く。

「後で整備の感想を聞かせてくださいよ!イバーノフさんに直々に教わった上に、今日も腕によりをかけましたから!」

「いつもありがとう、コリヤダさん!」

センカは一瞬整備員と目を合わせたが、もう次の瞬間にはコックピットで操縦席に座っていた。


右手の操舵槓を静かに動かす。親指のボタン、ここを押せばレーザーの銃弾が撃たれる。人差し指のボタン、ここを押せばミサイル。中指と薬指と小指のあたりをぎゅっと握る。これがエンジン。ここを握り続けるとエンジンが動き、機体は操舵槓の位置に合わせて動き出すいわゆるアクセルだ。親指を滑らせて、カチャカチャとスイッチをいじる。ロック、オート、オートマニュアル、マニュアル、と切り替えていく。最後に足元を踏みしめる。解除コード「コハル」は滅多に使わないようにしているが、いざというときはこの足元も操舵槓になる。

機械に操縦のすべてを任せ、決められた航路を自動で進んでくれる自動操縦オートや、ある程度機会による制御を受け、操縦が楽になるようにした自動制御付手動操縦オートマニュアルであれば操縦は比較的楽なのだが、手動操縦マニュアルになると、1ミリほどの操舵槓の動きや、エンジンの強さ、周囲の重力、体の位置、そういったものでゼロの動きは大きく変わる。まさに、コックピットのすべて、パイロットの体すべてが操舵槓になるのだ。

もっとも、その自由度が、メカの戦闘機に対抗できた予測できない動きを可能にしたものなのだが、裏を返せば、搭乗者が気を抜いたら最後、予測しえない方向に飛んでいき、命を落とすことになりかねない。タカハシコハルの事故も、開発が中止されたことも、やたらと安全装置ばかりつけられたことも、誰も搭乗者パイロットになりえず、最終的に未経験の子どもたちが「ほかに機体がないから」乗る羽目になったことも、この自由度の高さが原因にある。

「エンジン始動、レーダーの感度良好、接続系統に異常なし、酸素等生命維持に必要な補給も問題なし、通信の感度も問題なし、メインカメラおよびサブカメラ、バックアップカメラ、すべて正常。エンジン内のエネルギーの上昇確認、…第1艦橋、こちらウエキ、いつでも発進できます。」

『こちら第一艦橋、艦長ハシモトだ。任務はあくまで友人との再会と戦艦アルタイルの防衛、1機のみなので深追いはしないように。では発進させてくれ。』

「わかったわ。いつも通り、命は預けたからね。ゼロ、発進します。」


更新が大変遅くなりました。申し訳ありません。

いつも読んでくださる方、本当にありがとうございます。


私事ですが、現在卒論を書いていて、春からは高校の歴史の先生になることになりました。

この物語は書き続けたくて仕方ないのですが、いつかけるのかどうか…。

とはいえ、First Generationsのレーシャとパトリックの物語まで、そしてセンカが例の演説をするまで、ゆっくり書き続けていくつもりなので、ぜひまた読みに来てください。

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