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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【高校生編】太陽系辺境防衛戦争
15/235

初代航空隊長の命日

ー2か月前




「こちら航空隊長のバイルシュミットです。航空隊、発進します!」


「こちら第一艦橋。了解しました。データ通りにシールドを抜けて、敵戦闘機の殲滅をお願いします。」


ディルク・バイルシュミットは戦艦オリオン航空隊隊長かつ絶対的エースだった。彼はドイツ生まれの軍人だった。彼の家は代々軍人として名をはせていた。そのためディルクも軍人になったのだった。戦争は嫌いだったが、軍人の誇りは忘れない立派なパイロットだった。


今日も、現れた敵戦闘機から戦艦オリオンと、小惑星ポイオーティアを守るのが彼の仕事だった。思えば最近、敵が多い。威力偵察のつもりだろうか。ディルクは首を振った。そんなこと戦闘機乗りには関係がない。


「バイルシュミット隊長。こちらフェシカです。応答願います。」


「どうした?テレーゼ。」


「いえ、私は戦略班のエリーゼ・フェシカです。」


「いや、すまん。あいつに声が似てるな。」


「双子ですから。」


「用件は何だい? 手短に言ってくれ、あと180秒でシールドを抜ける。」


「姉の体調が悪いようなのです。最近食欲がない様子だったので。で、今朝問い詰めてみたらなぜか泣き出して。」


「そうだったのか…。確かに元気がなくて、今日も戦場に引っ張り出すのが忍びなかったんだが。」


「そうでしたか…。一応隊長にはお知らせしておきます、ということで。」


「わかった。気にかけておく。」


「ありがとうございます。すみません、こんな時に個人的に連絡をしてしまい。」


「大丈夫だ。ありがとう。オーバー。」




ディルクは通信機を操作した。操作といっても、基本的には音声入力である。もちろんマニュアル操作もできた。


「フェシカ機に個別で回線をつないでくれ。」


「了解しました。通信始めます。3,2,1,通信開始。」


機械の電子音がピーッと鳴った。


「テレーゼ・フェシカ。こちらディルク・バイルシュミットだ。」


「ディ…隊長。何か?」


「お前大丈夫か?」


「別に…なんでもないですよ。」


「そうか…。無理はしないでくれ。」


「大丈夫よ…。今にあなたをエースの座から引き下ろすわ!」


テレーゼはやや悲鳴がかった声を上げた。


「はいはい、わかったよ。まったく、イイ女のくせになぁ。」


「ちょっと!」


「もう切るぞ、シールドを抜ける。」


「わかった。Danke schön、気にかけてくれて。楽になったわ。オーバー。」


ディルクは、一瞬前に身を乗り出した。出かかった返事をぐっと飲み込む。無線の時に、「オーバー」と言われたら会話はおしまいだ。そっと息を吐きながら、ディルク・バイルシュミットは誰も聞いていない通信機につぶやいた。


「Danke, liebe Menschen。今日も、無事でいてくれ。」






宇宙での戦闘機たちの戦いは熾烈なものだった。宇宙には上も下も右も左もない。ただまっさらな空間に放り投げられる。自由に飛び回れるが、死ぬときは一瞬だ。自分がどこで何をしていて、どこに敵がいたのかもわからないまま、仲間たちは爆風に消えていった。恐ろしい世界だと人は言う。だがディルク・バイルシュミットはその自由を愛してすらいた。


「あと何機落とせば・・・。」


ディルクは一瞬で爆炎の中から、敵の滑らかな機体を見破った。


「あと5機か。しかし見たことのない動きだな。」


ディルクは機体を傾けて、敵のほうへ向かう。


「全航空隊員、全航空隊員に告ぐ。こちら第一艦橋。残りの敵5機はすべて未確認の新型である。繰り返す。残りの5機はすべて未確認の新型と思われる。」


「第一艦橋、こちらバイルシュミット。航空隊了解した。引き続き援護を頼む。」


バイルシュミットは敵を追いかけて右往左往しながら、もう一度通信回線を開いた。


「航空隊、航空隊。こちら隊長のバイルシュミットだ。敵は新型の可能性あり。1人での戦闘は危険だ。3人組であたるように。独断行動を禁ずる。」


バイルシュミットもいったん敵から離れて、態勢を立て直した。通信機ががちゃがちゃ音を立てる。


「おい、そこの1号機。独断行動禁止だぞ。離れろ。」


「1人で手柄を独り占めかい?」


「あれはフェシカ機じゃないか?かなり危ない。敵が早すぎる!逃げ切れないぞあれは!」


「テレーゼさんなら大丈夫ですよ。何せあのバイルシュミット隊長の次ですから。」


「まぁそうだな。俺たちも援護に向かおう。キム機、コープ機、フェシカ機の援護に向かいます。」


「あれは早いぞ、ヨンミン。気を付けていこう。」


だが、何かの爆炎に邪魔されて、キム・ヨンミンとジョージ・コープはバランスを崩して飛ばされた。


「ヨンミン!ジョージ!」


バイルシュミットはそちらの援護に行こうとして、ふともう一方の方向を見ると、テレーゼの1号機が今にも敵の手にかかりそうだった。さらにもう1機の敵が迫っている。テレーゼなら大丈夫だろう、と思ったが、ふとエリーゼの声を思い出した。




「姉の体調が・・・。」




確かに昨日の夜、夕食の後、気分が悪そうだった。今朝会った時、あまりにはかなげな姿に思わずはっとしたことも思い出した。




「テレーゼ!」


ディルク・バイルシュミットは、テレーゼ・フェシカの機体と敵機の間に突っ込んだ。1機撃ち落とす。


「もう1機だ。テレーゼ!」


「ディルク!」


テレーゼが敵をもう1機撃ち落とした。


「ありがとうディルク!」


「無事か、テレーゼ? 態勢を早く立て直せ!」


通信機に向かって、ディルク・バイルシュミットは叫んだ。テレーゼは態勢を立て直すべく、あれこれボタンを押したりレバーを引いたりしていた。あれならすぐ立て直すだろう、とディルクはほっとした。すると、かすかにアラート音が聞こえてきた。


「ディルク!後ろ!早く!敵が!ディルク!」


ミサイルに追尾されたときのアラート音だった。だがディルク・バイルシュミットは手を動かせなかった。


「だめだ…。よけたら君が撃たれてしまうじゃないか、テレーゼ…。」




アラート音が消えた。ディルク・バイルシュミットは爆炎の中、無音の世界に放り投げられた。














その後、テレーゼ・フェシカによって残り3機の敵は倒された。キム・ヨンミンとジョージ・コープの2人が、バイルシュミット隊長の機体の残骸とフライトレコードを回収してやっとこさ戻ってきたときには、もう航空隊員のほとんどが控室で思い思いに座っていた。立っているもの、飲み物を持っているものも少なくない。しかし皆一様に死んだ目をしていた。


「キム、コープ両名、帰投しました。フライトレコードと隊長の1号機のナンバー部分を回収できました。すでに情報班と技術班にまわしてあります。」


すこし空気が揺れた。すると、窓際で1人立ち尽くしていたテレーゼ・フェシカが、声を張り上げた。


「ディルク・バイルシュミット戦艦オリオン初代航空隊長と、今までに散ったすべての戦友に……。Salute!」


スパイ時代の影響からか、普段はきれいな英語(のちの、太陽系公用語の母体)を話すテレーゼ・フェシカが、公式な場で思わず母国語を使ったのは、後にも先にもこの時だけだったと言われている。あのテレーゼ・フェシカが人前で涙を見せたのも、これが最初で最後であったそうだ。




航空隊員は、誰一人として、敬礼をやめようとしなかった

今回は本編の2か月前、前航空隊長のバイルシュミット隊長が戦死したときの回想話です。この時、チームゼロの面々はまだ地球で学校に通いながら、地球防衛の任についています。

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