2人の航空隊長
「航空隊全機帰投。整備員はこれより各機体の修理を始めてください。」
第一艦橋のオペレーターがそう言い終わると、キッドはほっと息をついた。
「あー、今日も生きた。」
それをみたトメグもやっと息をついた。スパイ時代からずっと、任務が終わると彼女はこう呟いて伸びをするのだった。
「キッド。辺境の動きが危ないかもしれない。なるべく早くB作戦を。」
「トダ戦略長。今回の戦闘データの解析を初めておきます。」
エリーゼ・フェシカがそっと耳打ちした。
「スノーヴァ情報長ならすぐ必要なデータをくれるわ。」
「ありがとうございます。では私は先に。」
「ありがとう、エリーゼ。」
トメグはキッドの方をみた。
「トメグ。」
「なによ。キド戦術長。」
「あの子たちを辺境に逃がしたら、本格的にK作戦とA作戦を動かす。なるべくA作戦にもあの子たちを入れたくはないが…。」
「わかってる。」
「テレーゼがそもそも許さないだろう。」
キム・ヨンミンは北朝鮮生まれの韓国人パイロットだ。彼は北朝鮮で貧しいながらも暖かい生活を送っていたが、近所の若い家族が南に逃げるのに家族もろとも巻き込まれ、韓国に逃げ出した。彼は故国と戦う兵士として訓練を受けていたが、パイロットの腕を見込まれて、宇宙防衛軍に配属されたのだった。
小柄だが優秀なこの朝鮮人パイロットは、先の戦闘から帰投したばかりだった。
「キムさん、今日も見事でしたよ!」
整備員が顔を輝かせていた。
「いや、隊長には叶わないよ。」
「そりゃフェシカ隊長はすごい人ですけど…。」
「いや、他の隊長だよ。あまり不具合はないが、確認はしてくれ。」
「はい!」
キムは機体から降りると、ゼロに近づいた。
「さっきはありがとう。」
「キム・ヨンミンさんですか?あの『朝鮮の小さな誇り』と呼ばれた。」
「いやいや。」
キム・ヨンミンは頭をかいた。
「ハシモトショウタくんだね。君のチームは素晴らしいよ。」
「ありがとうございます。僕らも難儀しましたよ。」
「ならばもう戦うな。」
鋭い声がした。2人が振り向くと、テレーゼ・フェシカ航空隊長がショウタを睨んでいた。
「命を落とすときは一瞬だ。あんな不安定な機体でわざわざ戦闘に飛び込むな。」
「しかし…。」
「君たちの命は私が守る。君たちは安全な場所にいるべきだ。」
「ですが隊長!」
「命令だ!」
テレーゼはそう睨み付けた。
エリーゼ・フェシカは遅い休憩をとっていた。談話室兼食堂となっている戦艦オリオンのホールは、乗組員の憩いの場のひとつだ。このホールの特徴は、なんといっても吹き抜けと大階段だろう。戦艦には似つかわしくないが、おかげで広い空間が生まれていた。その大階段の下で、エリーゼは静かにコーヒーを飲んでいた。
「エリーゼさん?」
キム・ヨンミンがその隣に立った。
「キム・ヨンミンさんね。」
「まだ仕事中ですか?」
「ええ。たぶん。」
「無理はしないでくださいよ。お姉さんなんて昼間からビール飲んでますし。」
「姉は姉で死と隣り合わせですもの。飲まないとやっていけないんだわ。気持ちはわかるけれど…。」
「僕は始め、フェシカ隊長は強い女性だと思っていました。今もです。でも…。」
「バイルシュミット隊長は姉にとって、かけがえのない存在でした。あのテレーゼ・フェシカを女性として扱ったのは、わたしの知る限り、ディルク・バイルシュミット航空隊長ただ一人でしたし。」
エリーゼは少し笑った。
「バイルシュミット隊長は、僕らが知る最高のパイロットでした。今でも悔しいです。あんなメカにやられるなんて…。」
「姉にとってもよ。」
2人はすこし黙っていた。ホールにはピアノの落ち着いた調べが漂っている。そこに乗組員たちの話し声が加わり、不思議なハーモニーを作り出していた。
2人はあの日のことを思い出していた。ディルク・バイルシュミットが宇宙に散った日を。
更新が滞ってしまって済みません。




