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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】カルネアデスの舟板
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次の『影の盾』

ヘムルート・エルドーアはテラポルトスのLSSE本部施設に付属して建てられた宿舎や訓練所、福利厚生のための娯楽施設、地球人同士はもちろん、ヒルタ人やリンネルーア人との相互理解のための施設などが並ぶテラ島の区域の中にある、リンネルーア人のための滞在施設の、自分にあてがわれた宿泊室でタブレット端末を食い入るように見つめていた。



ヘムルート・エルドーアは、エルドーア伯爵家の次期当主たる人物である。本来なら地球に観光ビザで遊びに来てる場合ではない。


リンネルーア王家の長い歴史は、王家のみで作られたものではない。その長い歴史の中枢を担う王宮に集った数多くの廷臣たちの積み重ねてきた歴史でもある。そしてもはや伝説と化しているリンネルーアというセカイと王家のはじまりの歴史にも、伝説と化した優秀で忠実でゆかいな廷臣たちが登場する。そして彼らの担った役割は、古からの約束として彼らの子孫たちまで引き継がれているという伝説も残された。


例えば、サルフォルク伯爵家。現当主のヴィーア・サルフォルク伯爵は、リンネルーア第1の学者であり、古文書の管理から、リンネルーアの研究や教育を一手に引き受け、最前線で王宮に使えている。LSSE技術局やヒルタ宇宙軍技術部、ノトメイア研究所などとやり取りを中心になって進めているのも、このサルフォルク家の者たちだ。サルフォルク家の先祖は王家のそばに常に控え、その知恵袋として知恵を貸し、古の伝説と教訓を今に語り継いできた『語り継ぐ賢者』であり続けた。さて、次期当主のシルファー・サルフォルクは、ヘムルート・エルドーアやレイア・リンネルーア王女とちょうど同世代であった。歴代のサルフォルク家の者のように際立って才能があるわけでもなく、『凡人』などと社交界では噂されているが、丹念に1つ1つのことを調べ上げてつなげていく才能は、今後のリンネルーアに欠かせない立派な才能であるとヘムルートは密かに彼を信頼している。


それから、ボロウ伯爵家。ボロウ伯爵家の遠い先祖は、建国伝説の中で常に王家のそばに寄り添い、常に王家と共にまぶしい光を浴びながら、王家を支え続けたという。そんな彼らの役割は、誰よりも王家のそばで王家に忠誠を誓い、王家のために尽くす姿を惜しげもなくさらす『表の宰相』である。現在の前当主は高齢と(といってもそこまで高齢でもないし、いたって健康である)自分の才能の足りなさ(これを聞いた若きランダルー・エルドーアはため息をついている)を理由に引退し、現当主は、リーヒ女王の幼馴染として公私ともに代理の女王を支えてきた、ホーリー・ボロウ伯爵だ。


もちろん、すでに家系が途絶えてしまった家もたくさんあるし、長く続く廷臣たちの家系の中でも、そのような役割は忘れ去られてしまっている家もたくさんある。エルドーア伯爵家もその1つである、と表向きはなっている。


しかし、エルドーア伯爵家は『表の宰相』ボロウ伯爵家とまさに対になる重要な役割を太古の昔からになっている。それこそが『影の盾』だ。


星を治めるということは決して優しいものではない。理想やきれいごととは程遠い、黒い現実がはびこっている。それらへの対応を密かに行い、密かに片づけ、王家や王宮に一切の汚点も残さずに、リンネルーアへの脅威を排除していく先鋒であり殿でもある廷臣の一族。それが『影の盾』たるエルドーア伯爵家の役割だ。具体的に言うと、エルドーア伯爵家独自の人脈を組織し、リンネルーア内はもちろん、ファーストコンタクト以降は異星も含めた宇宙全体の裏の世界に目を光らせ、脅威となりうるものを静かに消していく。それがエルドーア伯爵家の当主たちの役割だ。


ヘムルート・エルドーアは、端正な顔立ちと、優秀な頭脳を持つとリンネルーアの社交界でも評判だったものの、なぜかほとんど人前に出ることがなかった。父であるランダルー・エルドーアは「息子は体があまり丈夫ではない」と言い、息子はエルドーア伯爵家の屋敷で療養しながら当主として必要なことを学んでいる、ということになっていた。実際は、エルドーア伯爵家の屋敷内で、頭脳も肉体も徹底的に鍛え上げられていたのだが。


そんなヘムルートには、友人が少ない。ヘムルートがあえて表に出なかっただけでなく、『影の盾』とか悪い噂が立ったことにより、正義を大切にするリンネルーアの人々が近づきたがらなくなったこともあった。悪の伯爵家と恐れられていたのだ。悪評が付かないようにいずれ主君として使えるレイアともほとんど顔を合わせないようにしていた。レイアの即位の時期がほぼ決まり、引継ぎとして先日謁見をしたのが、お互い初めて顔を合わせたようなものだったのだろう。そして、そんな彼の一族の事情を知っているサルフォルク家のシルファーは、数少ない友人であり協力者でもある。


そんなヘムルートが地球に『観光』しに来たのは、テラポルトスのことを直接見るだけではなく、次期当主としてチームゼロをはじめとする地球人とのコネを作ることだった。




赤と紫の夕暮れの日差しが不意に差し込み、ヘムルートの持つ端末の画面に映し出されていたニュース画面がゆらめいた。LSSEはまだ声明を出していないが、ヒルタポリス発の速報がすでに宇宙を騒がせている。ニュース画面が見えなくなった黒い画面に、ヘムルートの端正で無表情な顔と、地球人よりやや緑色の髪を映し出した。ヘムルートはふっとため息をついて立ち上がると、窓のところに立った。


「ずいぶん、赤い太陽だなぁ。」


思わずつぶやく。故郷のリンネルーアの太陽は、もっと柔らかな黄色い光を届けてくれる。ここまでまがまがしいほどの赤に染まることはない。しばらく真っ赤な太陽に見惚れてから、ヘムルートはカーテンを思いっきり引いた。そして、部屋のに備え付けられていたテレビをつける。テラポルトスでは世界各国の番組が映るが、どのテレビ局も「ヒルタ宇宙軍主力艦隊、大規模なメカの調査中に壊滅」を繰り返し伝えていた。故郷のリンネルーアも同じようなものだろう。先ほどシルファーが送ってきたメッセージは、ただヘムルートの身を案じながら、リンネルーアに走った動揺を正確に伝えていた。


ふいにタブレット端末が静かに鳴った。ヘムルートは使用されている回線と発信者をちらりと確認すると、画面を静かにタッチした。父からの通信で、意味のない数字の羅列だった。それでもヘムルートはその数字の中に意味を見出していく。そのメッセージを削除しながら、ヘムルートはぼんやり虚空を見つめた。


「……ヘムルート・エルドーアのなすべきことは、未来の女王陛下のために陰で動き、未来の女王陛下を闇から守ること。……そう、すべては、われらが女王のために。そうでしたよね、父上。」


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