別れるという作戦
「で、お二人はどう動いたんでしたっけ?」
ユリアンの言葉に、チーズをつまんでいた2人はちょっとだけぎょっとした。
「えーと、どこからどこまで話してほしいんだっけ?」
センカがとぼけたような声を出す。
「おいおい……、移民星アスに逃げ込んだことは聞きました。」
「そこからね……、とにかく、移民星アスで情報を集めた。」
センカは手を広げて、ゆっくり指を折っていく。
「私たちの最終目的は、テラポルトスの権限を取り戻し、通常状態に戻すこと。そのためにやるべきことは、私たちにかけられた容疑を晴らし、安全の保障を得ること。けれど、なぜ私たちをここまでの地位に着けたのかは、正直分からなかった。」
センカは自嘲気味な笑みを浮かべた。
「それを知っているのは、人類宇宙委員会だけ。そしてそれを探って全人類に公開できるだけの、知識と想いと洞察力と権限を持った信頼できる仲間はヤオだけだった。とはいえ、そこまでは、本部でも気付いて動いてくれるだろうと、信じるしかなかったわ。」
「ありがとうございます。」
ユリアンがわざとらしく頭を下げた。
「でも、やるべきことはまだたくさんあった。」
センカはそこで困ったように笑った。
「まずは食料。やっぱり限りがあるから、どこかから持ってくるしか……アルテミスケノンベースキャンプには、幸い食料から何からそろっていたから、うまいことアルテミスケノンベースキャンプを奪還したの。」
「ったく、奪還したのーなんて笑顔で言ってましたけど、大変なんですからね!人数も武器も少ないんですから。」
ユウキが困ったような顔をして見せるので、ユリアンも思わず突っ込んだ。
「いや、君たちが壊してくれた自動防衛のための衛星やら何やらの修理の費用、結構かかっていますからね。」
ユリアンが札束を積み上げる手振りをして見せた。
「その点は申し訳ありません。」
センカがわざとらしく頭を下げる。
「まぁ、とりあえずアルテミスケノンをとって、そこから僕が、この僕が、わざわざ宇宙移民自治政府と連絡を取ったんだ。アルテミスケノンのシステムを使えば、何とか偽装とかもできたしね。そこで、太陽系防衛軍第3軍に協力を依頼して、救出してもらったんだ。」
「ゼロは当面プロセルピナシティで預かってもらうことにして、私たちを貨物に紛れさせて密かに月のアルテミスシティ送ってもらったの。」
「待ってくれ。そこでユウキとセンカは別れたんだよな? どうして別行動を?」
ユリアンがチーズをつまみながら聞いた。
「いや、他にもやることあったでしょ? 特に厄介だったのが、ヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍よ。鉄の星ヒルタと緑の星リンネルーアの主力部隊が、火星なんかにいる。もしこの時、両軍がいなかったら、こんなことしなくてもよかったんだけど、本当にふとしたはずみで、武力衝突が起きるかもしれない。私たちの帰還も大切だけど、ヒルタとリンネルーアに手を出さないことと、手を出させないことも重要だった。」
「だから、僕らは別行動をとったんだ。」
ユウキが続ける。
「プロセルピナシティは、監視が薄かったのもあったから、下手に制圧しないで、監視員をうまく逆に監視してやった。表向きは宇宙移民自治政府は自由じゃない。でも裏では自由、って感じ。そのうえで、僕と、合同訓練のために作られた太陽系・ヒルタ・リンネルーア合同軍の指揮権を、ショウタから委任されたカズマが、火星のヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍を抑え込むことにしたんだ。」
「合同訓練中の全指揮権は、ハシモトショウタ第1軍最高司令官に任されていたでしょ?ショウタは太陽系防衛軍最高司令官も兼ねているしね。」
センカがそこで、日本酒を一口だけ飲んだ。
「ショウタに頼んで、ショウタの持つ合同軍の指揮権をカズマに移す命令を出してもらったんだ。それを持って、火星のヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍の最高司令官たちと、メイルとレイアと交渉をした。」
「まだ2人からしっかり聞き出せてはいないんだけど、おそらく、ヒルタもリンネルーアも母星と連絡を取っているわ。まぁ「守る会」の情報はもう伝わっていたし、それでどちらの星もパニックになってたと思うし。この件に関しては、特に戦略局戦略第1課としても、深くは追及しないつもり。」
センカが口を挟む。ユウキが再び話し始めた。
「メイルとレイアは、いくら策があると言っても、僕らと同盟を組んで、地球に攻撃を仕掛けることを本気で嫌がっていた。2人とも、宇宙戦争の悲劇を知っているから、仕方ない。でも、指揮権はこっちにあった。2人も認めてくれたよ。」
ユウキがそこで日本酒を一口飲んだ。ユリアンがその隙を狙うように尋ねてくる。
「では、そのころセンカたちは?」
「月自治政府の月移民団の協力で、テラポルトスのレーダーでも無視されるような旧型宇宙ポットで地球に戻ったの。そこから私とショウタは北アフリカ諸国、中東諸国、ヨーロッパ諸国の順番で回りながら、それぞれの政府や有力者に協力を要請したの。他のみんなもそれぞれの場所を廻って交渉し続けた。」
「で、テラポルトスに戻って来たんだよな。」
「ええ、そうよ。最終的に各国から集められた軍隊に紛れて、テラポルトスの本部施設に忍び込んで、タケルが教えてくれた、使われていない施設……それこそ、国連宇宙防衛軍時代に使われて、今は破棄されていたような施設にもぐりこんで、時を待っていたの。「守る会」の視線と大いなる正義が、忌むべき宇宙空間での戦闘に向かい、その戦闘を私たちの愛する部下が止め、国連宇宙防衛軍が私たちを守ってくれる、つまり、私たちが優位に立てる瞬間をね。」
センカはそこで、もう一度日本酒を口にした。




