選ばれしものの真実
日本。
中学校で友達と話していたウエキカズヤは、血相を変えて飛び込んできた担任に連れ去られ、職員室のテレビの前に押し込まれた。
教師たちがひしめき合う。カズヤと姉のセンカはいくらか年が離れていたものの、教師たちの中には姉のセンカを教えたことがあるものが何人もいた。
テレビには、スーマー・ヤオが映っている。
「スーマーはね、本当に優秀な人よ。この宇宙に欠かせない人。」
姉のセンカが、先日久々に実家に戻った時に、記事を読みながらつぶやいていたのを嫌でも思い出した。
「まずは、チームゼロがなぜ誕生したのか、なぜ日本人の少年少女が宇宙のリーダーとなってしまったのか、みなさんに説明しなければなりません。」
画面の中のヤオは、静かに続ける。淡々と続けるその顔には、一切の感情も読み取れなかった。
「皆さんもご存じのように、国連宇宙保安隊は、各国の軍人や諜報員など、すでにある程度訓練を積んだ優秀な人材を世界各国から集めて設立しました。チームジパングと呼ばれた、タカハシハヤトをはじめとする日本人たちも、元はアメリカが同盟国日本に『貸し出す』という形でCIAで訓練を受け、公にはどの国にも属さない新たな形の、自由な諜報員として活動していたものたちです。航空隊には、各国の空軍のエースたちが集められました。」
ヤオは本当に淡々と、読み上げるように続けた。無論、ここまでは誰もが知っている事実であった。
「しかし、後に続く新たな人材はいませんでした。そこで、各国から優秀な若者を集めて訓練を行い、新たな保安隊員を育て上げる計画が立ち上がりました。こうして集められたのが、後に「特別青年地球防衛隊」と呼ばれた少年少女たちです。僕もそのうちの1人です。」
ヤオはここで初めて、自嘲気味な笑みを浮かべた。ほんのわずかな笑みではあったが。
「選考基準は各国に任せられた、と公式には発表されています。しかし、その選考基準がまともに公表された国は、地球上には存在しません。僕自身も、ずっと不思議でたまりませんでした。そこで、今回、その選考基準が何であったのかを調べました。」
ヤオは静かにある資料を取り出した。
「これは、人類宇宙委員会が作成した選考基準の要綱です。これらの資料は、アーカイブとして残されている、国連宇宙防衛軍のホームページに、公開できるもののみ公開してあります。」
ヤオはもう1つ別の資料を手に取った。
「こちらは、それを踏まえて各国がどのように訓練生を選考したかまとめられた資料です。内容をご紹介しましょう。」
ヤオは一息間を置いた。
「ウエキ、お前はこのこと、お姉さんのことどれくらい知っていたんだ?」
担任が、ふとした独り言のような、ぼそぼそした声で尋ねてきた。
「僕は……何も知らされていません。もしかしたら両親には何か説明があったのかもしれないけれど……。」
カズヤは言葉を選ぶ。どう選べば自分の言いたいことを言えるのか全くわからなかった。
「僕はまだ小学生でした。気が付いたら、姉は宇宙にいた。そうとしか言えません。」
「そうだったのか……お前が宇宙嫌いなの、それが原因なのかもな。」
担任は少しだけ笑った。
「お前の成績は、正直お姉さんよりも優秀だ。もっとも、この程度の優秀な奴は日本中に大勢、それこそこの学校にもいる。」
カズヤは黙ったまま、こぶしを握り締めた。
「俺は、お前がお姉さんに、センカに憧れて、宇宙へ行くなんて言い出すと思っていた。ほら、もうすぐ職員養成学校や士官学校もできるし、お前はその条件を十分満たしているしな。お前も知っているように、「宇宙へ行く」と言い出して三者面談が荒れたクラスメイトが大勢いる。だがお前は、地元の公立高校にごく普通に進学したいと言った。少し不思議だったんだ。」
「そうもなりますよ。僕は、お姉ちゃんが、命を狙われたり、危険な目にあったり、たくさん無理をしているのを、一番近くで見てきたんです。ああはなりたくないし、僕が家族に迷惑をかけるわけにはいきませんし。」
「よくできた弟だな、お前は。」
担任が今度はニヤッと笑った。
「お姉さんのことが、本当に大切なんだなぁ。」
「ええ。そうなのかも。」
その時、テレビの画面から、またヤオの声が聞こえてきた。
「人類宇宙員会からの条件はたった1つだけでした。それは、『選考期限が訪れた時に、15歳の少年少女』。選考期限は各国で異なりました。学校のシステムを調整するためです。」
ヤオは再び息を吸い込んだ。
「各国では、その条件のみで候補者を選び、抽選で無作為に訓練生を選んだそうです。つまり、僕をはじめ、特別青年地球防衛隊の隊員、そしてチームゼロのメンバーは、能力ではなく、全くの偶然によって選ばれたのです。」
ヤオは、ふと目のあたりに熱さを感じた。運命の奔放さに、ただただ戸惑うばかりの自分たちに、情けなさを感じた。
「言い換えれば、いま世界中にいる、僕らと同じ年の人々は、誰もがこの立場になる可能性があったのです。」
ヤオは再び間を置いた。ヤオの胸の中に、一瞬ウー・チュンミンの顔が浮かんだ。もし選ばれていなかったら、チュンミンは故郷の台湾で、今も普通の女の子として生きていたのかもしれない。次々と戦友の顔が浮かんでは消えた。彼らは死なずに済んだのではないか、そんな想いが浮かんでは消えた。
「その後は皆さんもご存じでしょう。日本政府は、あくまで訓練生たちに「普通の教育」も受けさせる方針を貫こうとしました。そのため、訓練にまとまった時間がさけないことを見越して、他国より訓練を早く始めた。そのため、日本人訓練生だけが先に訓練を終えた。そのさなか、太陽系防衛戦争が始まってしまい、人員不足から彼らが地球防衛を任され、さらには戦艦オリオンへと配置された。僕らも、地球防衛の任につきました。そこで何が起きたか、それを知らない地球人はいないでしょう。」
スーマー・ヤオは、そこで再び間をあけた。ここまではまだ序章だ。
「続いて、なぜそのような偶然によって選ばれた少年少女に、未来が託されたのかを説明しましょう。」




