戦いの前
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
現状がごちゃごちゃしているので、それぞれの立場の現状をゆるーくまとめてみました。
太陽系の民主主義を守る会:チームゼロとLSSE体制が気に食わない市民団体(?) テラポルトスのLSSE本部と各国の外交官を人質に、太陽系でやりたい放題中。
LSSE本部(=テラポルトス):民間人を人質にされたため、「守る会」の手に堕ちてしまう。直接的な危害は加えられていないものの、外部と自由に連絡が取れないなどの監禁状態にあり、「守る会」の都合のよいことでしか動けない。通常業務は行っている。本当はチームゼロを守って「守る会」を追っ払いたい。
※通信機器も通常通り使われているが、「守る会」の監視下にあるため、暗号を使ったり回りくどい言い方をしないと本心が言えない状態。
宇宙移民自治政府:本部が冥王星にあるという立地と、「守る会」が宇宙移民に関心を持っていないという理由から、比較的「守る会」の監視が緩い。しかし宇宙移民自治政府から出向しているという形のLSSE第3課の職員が実質人質となっており、下手に動けない。
現状のLSSE体制では生ぬるいので改革が必要だというという独立派の本拠地でもあるが、「守る会」による改革では逆効果になりかねないと危惧している。
ぶっちゃけユウキとカズマに手を出そうとした「守る会」は追っ払いたいが、主張にちょっとだけ共通点がある。
※各星の自治政府も同様。
国際連合:直接占拠されたわけではないものの、加盟国の地球上の国々の国家元首や外交官が実質人質となっているため、下手に動けない。
現状のLSSE体制では地球の大きな権限がなくなってしまったため、旧来の秩序を重んじるべきであるという保守派の本拠地でもあるが、「守る会」の行動が極端で過激すぎるため、危険視している。
「守る会」は追っ払いたいが、LSSE体制そのものも本当はあまり好きじゃない。
※地上の国々も同様。
太陽系防衛軍:第1軍と第2軍はテラポルトスで待機中(監禁中)。第3軍のみ「母港はプロセルピナシティである」という解釈で、何とか冥王星に。
下手に動くと『市民団体の「守る会」を武力で倒そうとした』と、LSSEそのものの解体につながりかねない。また、大軍を動かすことで戦争のきっかけになる可能性もあるため、行動を控えていた。
本当は「守る会」を実力行使で追っ払いたいが、そうすると本当に軍事クーデターになってしまうのでできない。
鉄の星ヒルタ&緑の星リンネルーア:天の川憲章を揺るがしかねない「守る会」の存在や主張を危惧している。また、派遣した艦隊が太陽系でほったらかしにされていることに対して、不満が高まっている。
反面、メカ開発の反省から、武力行使に関しては慎重。
センカたちも助けたいし、LSSE体制が確立してこその天の川憲章と天の川銀河の平和なので、「守る会」はぶっとばしたい。
チームゼロ:「守る会」からのいわれのない言いがかりにキレている。命を狙われているため、LSSE体制を守るためにも身を隠していたが、自分たちが作り上げた「未来」を守るために動き始めている。
ユリアン・ゲープハルトLSSE戦略局戦略第2課長は、地球と火星の間に広がる広大な宇宙空間を埋め尽くさんと展開する、宇宙艦隊の中の1隻で、こぶしを握り締めた。
ゆっくり目をつぶって、ここ数日の出来事を思い返す。怒涛の日々だった。そして様々な判断を強いられた。悩み続けていた。
目を開けて、あたりを見渡す。戦艦ベガ戦略室は、戦艦オリオンの戦略室とよく似ているらしい。そう寂しそうな目で呟いた、まだ若い同僚の後ろ姿を思い出した。
「あれは、First Contactsの時でしたね。」
まだ国連宇宙機構、そして太陽系防衛軍に加わって間もなかった頃だった。戦艦アルタイルに乗り込み、艦隊の戦略担当として、鉄の星ヒルタとのファーストコンタクトのために、ヒルタポリスの政府高官リストとにらめっこしていたものだった。あの頃は、連合艦隊戦略長でありながら、戦艦ベガの艦長を務め、様々な判断をするセンカをひたすらフォローするのが役割だったが、今はそのセンカの立場にいる、という感覚だった。
「ユリアン・ゲープハルト大尉、同盟艦隊の戦力についての最新の資料です。」
「ありがとう。」
部下が頼んだ資料を持ってきた。ユリアンはそれをパラパラとめくる。
「太陽系防衛軍第3軍及びヒルタ宇宙軍、リンネルーア軍の同盟艦隊の戦力は、これで間違いありませんね?」
「はい、合同訓練の資料が役に立ちました。」
「そう……そうか。間違えようがないよな。ついこの間まで仲間だったんだ……。」
ユリアンは唇をかみしめた。
先日、宇宙移民自治政府から、テラポルトスのLSSE本部への事実上の宣戦布告が行われた。
「我々宇宙移民自治政府は、宇宙移民の自治権を認めたLSSE体制を否定する者に対して強く抗議し、いかなる手段をもってしても、太陽系と天の川銀河の平和と秩序を保つべく行動する。」
プロセルピナシティから発せられたこの言葉は大きい。
実は、宇宙移民自治政府から宇宙移民への自治権拡大や、地球上の国々と太陽系の移民星の力の差を改善すべく、様々な意見や要望、提案が繰り返されていた。
もちろん、「地球による太陽系連盟」の名のもとに、地球人が「地球人」として結束する必要性は共通していたから、基本的にLSSE体制そのものに不満があったわけではない。しかし、その体制の中で、いかに宇宙移民の権利を充実させるかが独立派たちの狙いだった。
例の定期便計画のように、大きな議論になることもあれば、第1食堂でセンカとユウキがちょっと議論する程度で済むものもある。しかしそれでも、LSSE本部施設内、そして太陽系のどこかで、革新派vs独立派の対立関係は続いていた。
ちなみに、保守派との対立関係もある。3者(そしてそれぞれの中心的な立場となりつつあるセンカ、ユウキ、ユリアン)は時に協力し、時に対立しながら、新しい宇宙を作っているのだった。
そこに、そのあたりの事情をよく知らない「太陽系の民主主義を守る会」が強引に入ってきたのである。彼らは独立派や保守派の立場を尊重する姿勢を見せてはいるものの、LSSE体制の中に妥協点を見出そうとしていた宇宙移民自治政府や国際連合からすれば、厄介者以外の何物でもない。
おまけに、「太陽系の民主主義を守る会」の主張するLSSE体制の改革は、宇宙移民自治政府の否定にもつながりかねないものだった。現に「守る会」は宇宙移民の権利拡大に関する政策や意見を無視し、チームゼロの捜索と本部の監視に目を奪われてしまった。
それを「宇宙移民の自治権を認めたLSSE体制を否定する 」として、事実上の宣戦布告に至ったのである。
さらに追い打ちをかけたのは、クラモトカズマ第3軍司令官が、ハシモトショウタ太陽系防衛軍最高司令官からの全権を委任されたという知らせだった。
これにより、訓練に参加予定だった太陽系防衛軍、ヒルタ宇宙軍、リンネルーア軍の指揮権がカズマの元にわたった。それと同時にもたらされた第3軍とヒルタ宇宙軍、リンネルーア軍の共闘も何の問題もない。むしろ、カズマの命令に従っていない第1軍、第2軍の方が非難されるべき存在となってしまった。
ユリアンは心の奥底で歓喜した。チームゼロは全員無事であり、何らかの行動を起こしている、というだけでも嬉しかった。ユウキとカズマは「自分たちは特別青年地球防衛班に協力したことはなく、国連地球防衛軍の正規メンバーではない。」と主張して宇宙移民自治政府に戻った。
宇宙移民自治政府と太陽系防衛軍第3軍を率いた2人の前に、冥王星の監視員もうまく動けなかった。その後の彼らの動きは、ユリアンが内心小躍りしたくなるようなものだった。同時にセンカたちの意図も見えてきた。おそらくその独立派と革新派の関係性をうまくつかっていくのだろうと。
しかし、事態は思わぬ方向に進んでいく。
ユウキとカズマは、あの文章を発表すると、あっさりと武力行使に出た。第3軍の主力を火星に向け、ヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍と臨時の軍事同盟を組んで合流すると、火星と地球の間の宇宙空間に展開した。
当然「守る会」は怒っている。彼らは「武器を持たない市民団体に銃を向ける虐殺者」のレッテルを貼って散々非難するだけすると、LSSE本部に第1軍と第2軍による同盟艦隊の討伐を命じた。
命令系統など様々な理由を指摘しても、「守る会」の暴走は止まらなかった。彼らは地球上の国々からも兵力を集め、「地球を守るように」と騒ぎ始めた。
ユリアンはバズ・ミサカ戦術第2課長と秘密裏に(第1食堂のメモで)連絡を取り、これに従うことにした。
一つは、純粋に地球を守るためだった。いくらユウキとカズマ、メイルとレイアだからと言って、まったく何も起きないとは限らない。火星より内側に大軍が結集している以上、こちらも対策を取らなければ、地球に残る多くの人々の命や貴重な自然、人類の歴史が失われてしまう。
もう一つは、センカの意図を感じたからだった。チームゼロの人間がそうやすやすと戦争を選択するはずがない。戦争を起こすと見せかけて何かをするつもりだろう。ならばそれに従うべきだ。もっとも、戦争をどうやって回避するのかは見当もつかなかったが。
どちらにせよ、暴走した「守る会」を前に、LSSE本部は従わざるを得なかったのだった。
現在、第1軍と第2軍による連合艦隊が展開していたが、ユリアンは未だ気分が晴れなかった。
「今でも、仲間ですよ。」
部下が資料をまとめながらそっとつぶやいた。
「そうでしょう?課長。」
部下がそっと笑う。部下たちが普段身に着けている太陽系防衛軍での役職や階級を表す軍籍章に、最近は目も向けていなかったのだが、こういう非常時になると、彼らもまた軍人なのだと痛感させられた。
ユリアン自身も軍籍保持者ではあるが、今回はテラポルトスの本部を任されていた。作戦の指揮はバズ・ミサカ第2軍司令官がとっていたが、彼自身も乗り気ではない。
「『敵』という言葉を使うなとさりげなく命令なさったのは、あなたじゃないですか。」
部下が、あたりに「守る会」の関係者がいないことを確認して呟いた。「守る会」の監視員たちは軍事関係には触れたくもないという顔で、戦艦に乗り込むことを拒否した。わずかな監視員たちしかいないため、比較的のびのび行動できてはいる。もっとも人質状態の者が大勢いるので、制限はされていた。
「だが、仲間と戦うことになるとはな。」
「悲しいけど、そんなことしょっちゅうですよ。僕ら人類は、今まで同じ人類同士で殺しあっていたし、何なら第1次世界大戦の時の各国の国王なんて、いとこ同士だったじゃないですか。そんなものなんですよ、戦争って。」
部下が悲しそうに笑った。ユリアンは急に不安になった。
「ところで、お前ら大丈夫か。軍籍保持者とはいえ、実際には戦闘も経験したことがない。まさか戦場に引っ張り出されるとは思ってなかっただろう。」
「ええ、おかげで僕の両親や親戚は大騒ぎですよ。ああじゃない、こうじゃないって。なんでも今、反「守る会」の人もたくさんいるみたいで、テラポルトスを何とか奪還しようって動きもすごいみたいですよ。両親もすっかりそれに踊らされているみたい。「守る会」に関連する企業の業績が軒並み下がったりなんかしてるみたいですし。もっとも、政府は冷静に対応していて、「守る会」に援軍をよこしていますけどね。」
「すまないな。俺が別の決断をすることもできたんだけど。」
「いや、課長のせいでは……。課長は、ウエキ課長たちのこと、信じて乗ったんですよね。なら僕も信じます。」
「すまないな、本当に。」
「大丈夫です。軍籍を選択した時から、覚悟はしてましたし。それに、実は曾祖父が大戦の生き残りなんですけど、よく戦争の話をしてくれて、今回の件でも、1人だけ面白いことを言っていて……クリスマス休戦?とかなんとか手紙で書いてきて。敵だって人間なんだから、ちゃんと尊敬して殺しあえよ、最近の戦争はそれがないって。戦争は嫌いなはずなのに、いざというときはこう言える。これくらい重い言葉を言える人間、いや兵士になりたいなと。あ、すみません。話しすぎましたね。」
「クリスマス休戦……。」
ユリアンは息をのんだ。自分もかつて祖父から聞いたことがある。戦火のヨーロッパでの奇跡のことを聴いたことがあった。
「それだ……。」
「課長?」
「クリスマス休戦……直接的な衝突を避ける……休戦協定……。」
ユリアンは立ち上がる。
「だが、どうすれば?……守る会……国連……スーマー・ヤオ……ジャーナリスト……地上の国々……援軍……チームゼロ……休戦……。」
ユリアンはぶつぶつと言葉を紡ぐ。
「そういえば、なぜ各国の政府は、やすやすと軍隊をテラポルトスに送ったんだ?おかげで僕らは地球を彼らに任せてここまで……。」
「課長?」
「もしかして……そういうことか、センカ?」
ユリアンは窓の外に見える地球を見つめた。
「お前は、地球の国々と宇宙の人々を、味方に着けたのか?」
「課長、何か……。」
部下が少し不安げな顔で尋ねてきた。
「おそらく、開戦はもうすぐだ。だが、僕らはクリスマスを祝わなければ。」
ユリアンはにやっと笑う。
「僕はテラポルトスで、君はここでクリスマスを祝おう。」
部下も笑った。心底嬉しそうな笑顔だった。
「はいっ!」




