軍事同盟
「信じられない……。」
レイア・リンネルーア王女は、リンネルーア軍の最新式の宇宙戦艦シャハラザードの一室で机を思いっきり叩いた。
「これは、本当に宇宙移民自治政府からの……?」
「間違いありません。」
申し訳なさそうにうつむく副官に、思わずあたってしまう。
「うそ、うそだと言って!」
レイアはその場にばったり崩れ落ちるように座り込んだ。
「あんなに、戦争が嫌いで、戦争を防ごうとしていたのに!なんでっ!」
センカたちチームゼロのそばにずっといた、そしてメイルの加害者としての苦しみも見てきた、何より自分の両親を戦争で失ったレイアは、この緊急事態の中でも冷静さを保とうとしていた。
「守る会」のせいとはいえ、ヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍の主力を1か月近く太陽系に閉じ込めているという非礼さに、地球人への怒りは日に日に高まっていた。
メイルとレイアも怒ってはいたが、それ以上に母星で高まる主戦論を抑えることに躍起になっていた。星と星の間で大きな戦争が起きることの悲しさを、一番知っている2人だからこそ、必死だった。
そこへ、地球人の一大勢力で、かつて辺境戦争で大きなものを失ったはずの宇宙移民自治政府から、対テラポルトス、つまり対地球の軍事同盟の依頼が来たのだ。レイアは裏切られた気持ちでいっぱいだった。そして、もっと複雑な立場に置かれたメイルの心情をおもんぱかった。
「レイア様、なんでも、宇宙移民自治政府の担当者の方が説明に来られると。」
「わかった。話は聞こう。しかし……地球人はこんなにも考えを変える人種だったのか。」
「レイア様、落ち着いてください。我々は今や捕らわれの身同然なのです。」
宇宙移民自治政府との交渉は、戦艦シャハラザードで行われることになった。表向きは、火星における両軍の滞在について協議する、という名目だった。
戦艦ベルダーナから来た鉄の星ヒルタのメイル・ノトメイア技術士官も、かなり不安げな表情だった。レイアも歯を食いしばる。見慣れない「担当者」が2人、入ってきた。
「どうぞ、おかけください。」
レイアはきつい口調で告げる。緑の星リンネルーアからは、最高司令官のレイア・リンネルーア王女と、戦略長のシャリア・ドリザードが出席している。鉄の星ヒルタからは、派遣された艦隊の最高責任者であるヤーラ・オレット戦艦ベルダーナ艦長、そして技術士官かつノトメイア研究所所長のメイル・ノトメイアが出席している。
「まずは、このようなご無礼をお許しください。」
いきなり担当者の2人がかつらをとったり、眼鏡をはずしたりし始めた。
「え……。」
「アサヒユウキさんと、クラモトカズマさん……?」
「あ、あなたたちは……!」
「無事だったの……!?」
メイルとレイアは一緒に悲鳴のような声を上げた。命を狙われ、1か月近く行方不明になっていたチームゼロの2人が、目の前に現れたのだ。
「メイルもレイアも、いつも通りでいいよ。」
カズマがニヤッと笑う。
「待って、じゃあ、センカも無事?」
「ああ、無事だと思う。今は別行動だけど。」
カズマの言葉に2人は顔を見合わせてはらはらと涙をこぼした。
「よかった、本当によかった。」
「ところで、第3軍のツートップの方々が、なぜ?」
ドリザード戦略長が鋭い声で告げた。
「単刀直入に申し上げます。」
ユウキが告げる。
「宇宙移民自治政府として、あなた方と軍事同盟を組みたい。」
「なぜ?」
レイアが顔を上げた。
「どうして、そんなことを?」
カズマはレイアをちらっと見ると、1枚の紙を見せた。
「ハシモトショウタ最高司令官から、全権を委任されました。」
「そうか……。」
オレット艦長が呟く。
「そうとなると、私たちは従わざるを得なくなるな。この演習に参加する条件として、最終決定権を持つのはハシモトショウタ太陽系防衛軍最高司令官と決まっていた。」
「ですが、クラモト司令官。」
メイルが、震える声で尋ねた。
「いくら「守る会」に占拠されているとはいえ、テラポルトスは……地球はあなた方の故郷。それに引き金を引く、しかも私たち異星人の力を借りて。その危険性はわかっていますよね?」
「ええ。わかっています。」
「本当ですか?」
レイアも震えながら聞いてきた。
「センカも悩んだうえで決めた。俺たちは本当の戦争を望んでいるわけじゃない。しかし……すまない。」
「戦闘にならない、策があるんですね?」
「もちろんです。」
ユウキはまっすぐな目で告げた。
「……わかりました。」
レイアが呟く。震えてはいるが、しっかりした声だった。
「私たちを母星に帰さないテラポルトスの態度を私たちへの攻撃とみなし……そして地球に残されたリンネルーア人の保護のために……水の星地球のテラポルトスに……宣戦布告します。また、鉄の星ヒルタ、ヒルタ宇宙軍と太陽系の宇宙移民自治政府とも、同盟を結び、共に……戦います。」
オレット艦長は、ちらっとメイルを見つめた。メイルは少し震えていたが、強いまなざしでこちらを見ていた。
「鉄の星ヒルタ、ヒルタ宇宙軍の派遣艦隊も、リンネルーア軍と同じく、テラポルトスに宣戦布告をしよう。」
「この同盟の最高司令官は、カズマか。」
レイアがカズマの手を握る。
「信じてるから。信じてるからね。」
ヒルタ宇宙軍とリンネルーア軍は、母星との連絡と調整に入った。宣戦を布告する日時を決めて、3つの軍隊のトップは再び分かれた。
「ユウキ。」
冥王星への帰り、かつらをかぶったユウキに、カズマがそっとつぶやいた。
「俺たち、間違えたことしてないよな……。」




