地球への帰還
アルテミスケノン・ベースキャンプ。そこに1隻の宇宙船が止まっていた。
「ひさしぶりだな。」
「うわー、この傷まだ残ってる!」
チームゼロの面々はテンションが少し高い。その様子を、輸送船の乗組員がぼんやり見つめていた。
チームゼロの10名は、まずアルテミスケノンに向かった。そして、アルテミスケノンベースキャンプ建造の責任者であるタケル中心に、タケルだからこそわかるベースキャンプの弱点をうまくつきながら、無人の基地となっていたアルテミスケノンを奪還した。そして、コウスケとリンカが作り上げたプログラムをコンピューターに走らせ、チームゼロの行動が一切テラポルトスに送られないようにしたのである。
アルテミスケノンは、そもそもチームゼロが作ったベースキャンプであったし、K作戦から外れたチームゼロのメンバーが救助された場所でもある。チームゼロがここに現れる可能性は十分高かった。そのため、「守る会」もアルテミスケノンに注目していた。タケルは彼らに感づかれないように気を付けながら、本当に必要最低限の破壊だけで奪還したのだ。
そのうえで念のために、10人はしばらく移民星アスに残ることにした。タケル、スズナ、ハルカ、トウキの4名はゼロで出撃し、目標の人工通信衛星の破壊や、アルテミスケノンから必要な物資を調達する作業を行ったが、センカ、ショウタ、コウスケ、リンカ、ユウキ、カズマの6名は、アルテミスケノンへの帰還が叶わなかった。ついテンションが高くなってしまうのには、そんな理由もあった。
アルテミスケノンを奪還したうえでユウキが宇宙移民自治政府に密かに連絡を取り、プロセルピナシティの民間の輸送会社に姿を借りた第3軍の兵士を迎えに来させたのである。落ち合う場所は、アルテミスケノンだった。
「ゼロの積み込み、無事済みました、司令官。」
「うん。」
カズマはあたりを見渡した。仲間たちが思い思いの場所に立っている。
「じゃあ、みんな。」
「ああ。」
カズマの言葉にショウタが頷く。
「しばらく、離れ離れだな。まぁ慣れてるけど。」
「そうだね。」
ハルカがそういって笑った。
「2人とも、気を付けてね。一応宇宙移民自治政府も監視されているんだから。」
「そうですよ、司令官。監視員こそ2人ほどしかいませんが、自由に動けるとは言えません。下手に動くと本部で死人が出かねませんから。」
兵士がそっとつぶやいた。
「わかってる。」
ユウキが頷く。
「みんなも気を付けろよ。」
「ええ、なんとかやってみるわ。」
「しかし、本当にいいのか? 下手すると、最悪の事態……星間戦争になりかねないぞ。」
「ヒュンベルガー首相とリーヒ女王は賢明な方よ。それにメイルとレイアも。もちろんテラポルトスのみんなも。」
センカは寂しそうに笑った。
「誰も戦争なんか望んでいない。大丈夫よ。絶対に戦闘は起こさせない。だれの命も落とさせない。」
「俺は最高司令官として、こいつの言うことを信じるつもりだ。もっとも、お前の策がうまくいくかはわからないけれど。」
「私も、疑心難儀なところはある。実際、1914年の休戦も続かなかった。」
「でも、そのちっぽけな希望に託すしかないんだろ?」
ショウタはそういうと、一枚の紙きれを差し出した。
「今から、ハシモトショウタ太陽系防衛軍最高司令官及び第1軍司令官は、太陽系防衛軍の全権を、クラモトカズマ第3軍司令官に託す。期限は無期限とする。」
「予定通り、クリスマスには返還できることを祈っているよ。」
カズマは紙切れを受け取った。
「じゃあ、な。」
アサヒユウキとクラモトカズマは、しばらくたってからプロセルピナシティに密かに戻り、宇宙移民自治政府を動かすことになる。
輸送船は、いったんプロセルピナに入った後、月行きの貨物の中に8人を乗せた。同時に、8人のゼロは巧妙に隠されて、地球に送られることになった。
月で8名を受け入れたのは、月自治政府だった。
「本当にありがとうございます。」
コウスケは月の科学者と握手をする。背後でチームゼロの面々が荷物を積み込むのを手伝っていた。
「とんでもありません。「太陽系の民主主義を守る会」だなんて言っていますけど、彼らは実際はただの過激な保守派です。我々宇宙移民のことなんてこれっぽっちも考えていません。現に、テラポルトスにばかり監視員を置いて、他の星は意外とゆるかったりするんですよ。」
「しかし……。」
「ええ、それでも危険ですけれどね。それよりも、こんな古い機体でよかったんですか?旧世代の着陸機ですよ?」
「ええ、これなら、海の上にこっそり着陸できますからね。」
コウスケが笑う。
「まさか、テラポルトスに降りるわけにはいきませんから。もっともうちの戦略第1課長は、堂々と降りたかったようですけど。」
「確かに、この機体なら、スペースデブリに紛れて着陸、というか落ちることができますね。」
こうして、チームゼロの面々は、かつてのパートナーごとに2人組に分かれて、地球に降り立ったのだった。
「おい、センカ……。」
「ん……?」
着陸ポット(というよりも墜落ポット)が海に漂っていた。
「着陸、成功?」
「ばか、着水だ。」
「そう、現在地は?」
「大西洋のど真ん中。なーんてな。実際はアフリカの近くだ。ゴムボートでも1日くらいでいけるだろう。」
「了解。すまんすまん。」
ショウタが海に漂う着陸ポットからゴムボートを引っ張り出す。
「さっすが最新式、すぐ膨らむな。」
「はい、食料と着替え、通信機器とコンピューター。」
センカがごそごそと荷物を取り出す。
「積み込んでくれ。」
「ああ。ところで、他のみんなは?」
「先ほど確認した、無事着陸はしたようだ。」
ショウタが答えた。
「ありがと。スズナとタケルはハワイだっけ?」
「ハワイはテラポルトスに近い。いろいろ準備するにもうってつけだと思うし、ハワイの米軍とも交渉できる。」
「ハルカとトウキは、インド沖合のはず。インド政府、そこからアジア各国を廻ってもらう。うまくいけばヤオと接触できるかもしれない。」
センカはそう言って荷物をゴムボートに移す。
「ヤオは今どうしているんだ?」
「どうやらニューヨークに向かったらしい。」
「ニューヨーク?」
「国連の資料の閲覧許可が出たらしい。」
「なぜそれを?」
ショウタが手を止めた。
「テラポルトスの部下の動きくらいチェックしてる。どうやら昔資料を見たいと申し出たジャーナリストに、しれっと許可を出した。」
「おい、それって?」
「ユリアンさんは、人類宇宙委員会に掛け合ったってこと。」
「でも……委員会は最近ほとんど動かなかった。僕たちに対してもだ。」
「ユリアン・ゲープハルトと人類宇宙委員会の間のやりとは、今は考えないようにしよう。」
「ああ。まぁ、同じ課長だしな。当たり前か。でも、あの老人たちが俺たちを手放しで支援してくれるとは思えない。」
「それは同感。でも、ヤオならうまく動いてくれるんじゃないかしら。」
「ヤオが? あいつ結構俺たちに厳しいじゃん。」
「でも、ヤオも国連宇宙防衛軍の軍人さん、戦友だった。今の宇宙の状況はちゃんと理解している人。私たちの命を守ってくれるかどうかはさておき、宇宙の未来に対して悪いことはしないと思うよ。」
「そうだな。荷物はこれで最後?」
「うん、そう。」
「じゃあ、着陸ポットさん、さらばっ。」
ショウタがあるボタンを押すと、すっとゴムボートに乗り移った。着陸ポットが見る見るうちに沈んでいく。
「さぁ、いくぞ。目指すはアフリカ、そっからヨーロッパの国々を味方につける。大変だぜ。」
「わかってるって。」
ゴムボートは走り出した。




