絶望の課長会議
「バズ・ミサカ課長?」
「どうした?」
部下の不安げな声に呼び止められて、バズ・ミサカ戦術第2課長は足を止めた。
バズ・ミサカはすらっとしたアメリカ人で、日系人の血をひいていた。アメリカ軍で訓練を受け、その後もアメリカ軍で働いていたが、その優秀さを認められて太陽系防衛軍、そしてLSSE戦術局に引き込まれたのだ。一説には、第1軍司令官と第3軍司令官が日本人の学生ということで、あまりに実戦経験がなさすぎるだろうと、アメリカ軍の関係者を第2軍司令官として任命し、補佐させようという意味もあったらしい。(もっとも、辺境戦争の生き残りである2人を素人扱いする必要はさらさらなかったのだが、2人はミサカ司令官のことをよく信頼していた。)
「課長級会議が開かれることになったようです。」
「課長級会議? おいおい笑わせるな。第1課長が8名全員、第3課長が2名、行方不明で欠席だぞ?」
バズはあたりをさっと見渡すと、一気に低い声で呟いた。
「しかも、命を狙われている。」
「それでも、だそうです。」
「誰が開こうと?」
「守る会の連中です。」
「やっぱりそうか……。そろそろあの日から1か月近くたつが、初めてじゃないか?」
「ええ。最近の目立った動きと言えば、首脳陣の帰国くらいでしたが……。」
つい先日、LSSE本部と各国政府の交渉の結果、各国首脳と外交団がほとんど解放された。しかし数人の人質を残すことが要求された。(彼らは「連絡要員」としていたが。)
「課長級会談をするような何か……今まで、課長たちは接触すら許されていなかったのに。」
「何が起きているんだ……。」
バズは頭をかいた。
「とにかく、課長級会議に行こう。時間と場所は?」
「はい、ミサカ司令官。」
会議室に、いつものメンバーが集まっていた。といっても、いつも一番楽しそうな10名の若者がいないだけで、会議室は一気に暗く見える。特に沈んでいるのが、ユリアン・ゲープハルト戦略第2課長だ。
そして、重々しい雰囲気を一層際立たせているのが、黒い服を着た監視員たち、「守る会」のメンバーたちだった。
「それでは、ゲープハルト戦略第2課長。いつも通り始めてください。」
会議の進行は交代で回すこともあったが、だいたいはセンカかショウタが仕切っていた。課長たちは思わずため息をつく。
「では、始めましょう。早速ですが……「守る会」の方からお話がある……ようです。」
数分後、会議室ではスティーヴ・プラウキ情報第3課長が呆然と頭を抱えていた。
「ヨハンが死んだ……?」
「残念ですが。」
監視員が告げる。
「世界各地で不審な通信網を作ろうとしている動きがあると、調査の結果わかりました。辿っていった結果、ヨハネスブルクのヨハン・モコエナという男にたどり着きました。そしてそこから、シャーリーズ・プラウキ、あなたの奥様に。」
「シャーリーズが?彼女は……?」
「失礼ながら、あなたと奥様、さらにモコエナとの通信記録を探らせてもらいました。あなたの安否を気遣うものがほとんどでしたが、ヨハン・モコエナと協力していたようなので、念のため事情を聞かせてもらったのですが。」
「事情を聞いた?拷問をしたの間違いではないか?」
「スティーヴ、落ち着け。」
マイクロフト・アスキス情報第2課長がスティーヴの肩に手を置く。
「それで、2人は?先ほど、ヨハン・モコエナが死んだと伝えられましたが。」
「はい、2人が突然逃走を図り、こちらに攻撃してきたので、我々も応戦したのです。そのさなか、ヨハン・モコエナは死亡。シャーリーズ・プラウキは行方不明です。」
「そうか……。」
「あなたのところに、奥様からご連絡は?」
「ありません。ここ数日、メッセージがなかったので、心配していたのですが。」
「そうですか。奥様に危害を加えるつもりはありませんが、事情を聴きたいので、連絡が取れたらすぐにお知らせください。」
「……わかった。」
呆然とするスティーヴ・プラウキをちらりと見て、監視員は続けた。
「世界中で、私たちに対する反抗が始まっているようです。その中には、あなた方の名前を語ったものもありました。よもやあなた方が反旗を翻すなどという愚行に出るとは思えませんが、万が一のことがないよう、ご協力お願いします。」
「ユリアン、大丈夫か。」
「あ、ああ。すまん、バズ。」
その日の夜、第1食堂のあの席で珍しく、バズ・ミサカ戦術第2課長とユリアン・ゲープハルト戦略第2課長が顔を合わせた。あの席の存在が未だにばれていないだけでも、今は救いだった。
「ひどい顔色だ。」
「当たり前だ。」
ユリアンはいら立った声を上げた。
「そうだな。」
バズはため息をついた。
「お前たちの行動はすべて見張っていると、そういうことか。一層外部との連携がとりにくくなった。」
「スティーヴには悪いことをした。あいつがあの民間軍事会社の出身だということも知っていて、そのころの人脈が使えると知っていて、俺はあのメモで協力を求めた。俺が殺したも同然だ。」
「思いつめるな。戦略と戦術の担当者が、情に流されるわけにはいかないだろ?」
「にしてもだ。悔しいよ。」
「そうだな……。俺も、米軍とこっそりやりとりするのはしばらく控えようと思っている。すまないな……。」
「いや、仕方ない。俺も、ドイツ絡みの情報ルートを控えるよ。俺のせいで祖国や友人、家族に被害を与えるわけにはいかない。」
「うん、そうだな。」
2人はしばらく黙りこくっていた。
「しかし、スティーヴたちの行動がバレたのは痛手だった。宇宙移民自治政府との通信網が絶たれてしまった。」
バズは悲しそうなため息をついた。
「本音で通信できないのは痛い。下手にすれ違いがおきないといいんだがなぁ。」
ユリアンはコーヒーを一口飲んだ。
「嫌なクリスマスになりそうだな。」
課長会議も課長級会議も大きな違いはないということにしておいてください。




