帰還と招待
10機のゼロは宇宙空間を飛び続けた。
逃亡先は、防衛軍の関係者がいない、目立たない星であるが、使い勝手をよく知っている辺境の星がよいとなり、ユウキとカズマが提案したのだった。
「あそこは、遺体の埋葬と遺品の整理はしたけれど、復興はまだまだで、後回しにされている。次の作業隊のために食糧なんかが残されているけど、人はいない。」
カズマが通信機越しに伝えた。
「アルテミスケノンベースキャンプは?」
トウキが聞く。
「危険すぎる。あそこは今は無人とはいえ、防衛軍が管理している。」
タケルがそういってため息をついた。
「こちらハシモト。移民星アスに向かう。カズマ、先頭を頼む。」
「こちらクラモト。了解した。」
移民星アスの滑走路に着陸すると、10人は市街地の入口に作られた小さな小屋につかつかと入っていった。
「だいたいの食料と燃料、医薬品なんかがそろってる。」
スズナが包みを調べながら言った。
「持ってきた分も合わせれば、なんとか持つよ。」
「もし必要であれば、キノスラやマナートなんかの分を持ってくればいいさ。」
ユウキが食料の缶詰を眺めながら言った。
「寝泊りはどうする?」
タケルが荷物を探りながら言った。
「テントなんかはあまり充実してなさそうだ。防空壕でも借りられるだろうか。」
「え?うちに泊まりなよ。」
ユウキがくるりと振り向いた。
「うちは壊れちまったからな。ユウキの家なら泊まれるはずだ。」
カズマも真顔で答える。
「え?いいのか?」
「当たり前だろ。俺たちの星だぜ。」
カズマはそういって笑った。
「ここで俺たちは暮らしてたんだ。壊れちまったけど、ここで暮らしてたんだ。」
食料や使えそうなものを担ぐと、10人は半壊した格納庫にゼロを押し込んで、市街地へ向かった。
「しかし、さっき農地を見ても思ったが……緑が戻ってきてるんだな。」
道端の草を眺めながら、ショウタが呟いた。ショウタにはあの砂埃の星の印象がこびりついていた。
「いずれ人が戻るころには、緑と生き物でいっぱいの星にしようと思ってさ。」
ユウキがうれしそうに笑った。
「農地も、あとあと大変にはなるけれど、でも生き物がいたほうがいいと思うから、地球からいろいろな植物の種を送ってもらってまいたんだ。雑草だけど、やっぱり緑が広がってるの見ると、昔の農地思い出すよね。」
「昆虫の卵も送ってもらったんだ。」
カズマも続ける。
「それから小動物とか鳥とかも。ほら、あそこ!」
向うに鳥が飛んでいるのが見えた。
「他にも、木を植えたりしたから、きっとすぐに緑でいっぱいの星になるよ。」
ユウキはそういいながら角を指さす。
「あれが僕の家だ。あちゃー、ちょっと壊れてるね。」
「ベランダが少しやられてるな。あと屋上もか。」
「雨漏りしないといいんだけど。」
「そっか、雨も戻ってきたんだよな。」
「人工的にやってるから、いざというときは止められるけどね。まぁいいや。後でふさごう。」
2人は当たり前のように入ろうとして、ふと足を止めた。
「さぁ、ようこそ。」
「食料はどこに置けばいい?」
スズナに聞かれてユウキが扉を指さす。
「地下の食糧庫……って今どうなってるっけ?食べ物腐ってない?」
「そういうのは全部回収したって報告されてなかったか?」
カズマがキッチンをいじりながら言った。
「じゃあ、大丈夫か。冷蔵庫は電気なくて使えないけど、涼しいから何とかなるんじゃないかな? あと、そこの棚も食料おいてた。ビスケットとか入れといて。」
「ユウキ、ガスはプロパンガスだからなんとかなりそうなんだが、電気はどうする?」
「発電所は壊れちゃったからね。太陽光パネルは何枚か生きてるけど……。予備の発電機、ないかなぁ。」
「うちの太陽光の小型発電機、外に置いてあったから生きてるかもそれない。ガス直したら行ってくる。」
「了解。カズマ、水道はどうだ?」
「水道管がズタズタ。発水所も確認しなきゃダな。生きてはいるはずだが…。」
「俺も手伝うよ。」
コウスケが名乗り出た。
「さすが技術第1課長さん。頼む。場所分かるか?」
「辺境戦争中に何度か来てるから、なんとなくわかる。」
「じゃあ、お願いする。なんかあったら連絡してよ。」
「コウスケ、俺も手伝う。」
ショウタが工具をまとめながら言った。
「ショウタ助かる。じゃあ、行ってきます。」
センカはリンカと共に、地球で何が起きているのか調べられる範囲で調べようとしていたが、うまくいかないようだ。
「下手に通信すると、居場所がばれてしまう。やはりこれ以上は……。」
「そうか。ごめんリンカ。」
「いや、なんとかハッキングして、足がつかない方法を考えるよ。」
「地球で本当に何が起きているんだか。」
センカは悲しそうに首を振った。
「本部が軍事的に制圧されていなければいいけど。」
「ところでセンカ、この後どうするつもり?クーデターをなんとかしないと、地球に戻れないし、世の中ぐちゃぐちゃよ。」
「考えてるところ。まだ考えなきゃ。でもLSSEのみんなを信じよう。それしか今はできない。」
「そうね……。とにかく情報収集ね。」
リンカはため息をついた。
「なんとかするわ。それにしても、カズマ、ユウキの家に詳しいのね。」
「入り浸ってたからな、アサヒさん家には。まぁだいたい作りも一緒だしね。」
水道、電気、ガスがとりあえず確保できたということで、10人はビスケットや缶詰で簡単な夕食を済ませ、ユウキの家のリビングでめいめいお茶を飲んでいた。
「家具が残っていてよかった。アスの復興が進んでいないのが幸いしたね。」
ユウキがそっとつぶやく。
「夜は僕の部屋とミノリの部屋、あとは父さんと母さんの部屋を使ってくれ。寝袋とベット、ソファもあるし、クッションとか布団とか、さっきスズナとハルカがはたいといてくれたから、使って。」
「ユウキ、ありがとう。」
ショウタがそういってみんなを見渡した。
「それじゃあ、少し早いが、ミーティングでもしようか。」
「なんか、懐かしいね。」
どことなくそんな声が上がる。
「はいはい、始めるぞ。まずは情報担当から。」
「はいはい。」
リンカが姿勢を正す。
「地球の情報を知らなきゃいけない。この後、簡単だけど有効な、ハッキング防止の防御プログラムとか、足がつかないようにいろいろ工夫するから、明日には地球のニュースとかわかるようにする。それまでは各自携帯電話の電源とかも入れないで。」
「技術担当だ。この星の簡易通信設備を改造してリンカの防御プログラムを打ち込む。こうすればこの星ではネット使い放題だ。」
「リンカ、コウスケ、ありがとう。戦略は?」
「情報が分かり次第ってとこ。LSSE本部施設がどのくらい自由に動けるかによる。」
センカの言葉にユウキが素早く反応する。
「もし、それがだめだったら?」
「宇宙移民自治政府に応援を要請するかも。でもそれも安易な考えだよね。」
「ああ、宇宙移民自治政府も銃に動けない可能性が高い。」
「でも、希望を託せる人はたくさんいる。」
センカはそっと微笑んだ。
「何人か心当たりがいるの。彼らとうまく連絡が取れれば。でもこれは私たちの仕事じゃない。テラポルトスのみんなの仕事。」
「わかった。センカもユウキも、情報が入り次第よく相談してくれ。他、主計!」
スズナが返事をした。
「はい、食料について。ここには約1か月分の食料がある。無駄にしないで、でもしっかり食べてください。」
「それに付随して医務からも。体調管理はしっかりとお願いします。念のため毎日熱とか測ってください。」
「うわー、昔みたいだ。」
「本当に懐かしいねぇ。」
「もう3年前くらいになるのか。」
チームゼロの面々は、大きな不安と共に、どこか安心していた。こうして夜は更けていった。




