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太陽の子供たち ~宇宙に進出した地球人の物語~  作者: さうざん
【大学生編】狙われる「リーダー」たち
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急変

新章突入です。

「訓練は順調そうだね。」

ショウタはそういって、戦艦アルタイルの第一艦橋で息をついた。

「やはり、いろいろ思い出されますか?」

「そうだね。」

ショウタは目の前に広がる星空を見つめた。

「我らが母艦、戦艦オリオン。艦長代理ハシモトショウタ、ただいまポイオーティア宙域に戻りました。」

今となっては懐かしい星空に、ショウタはそっとつぶやいた。



メカを倒すため、ヒルタ宇宙軍やリンネルーア軍との共闘が進んでいたが、まだ不慣れなことも多かった。加えて、両軍から太陽系での訓練をしたいという要望もあった。

太陽系防衛軍としては、異星人に不用意に太陽系宙域で訓練させるのも防ぎたがったが、訓練の必要性も痛感していた。話がどんどん大きくなり、太陽系防衛軍とヒルタ宇宙軍、リンネルーア軍の合同訓練が開かれたのだった。

訓練の場所は、太陽系外縁部。かつて辺境戦争が起きた宙域だった。ここで、辺境戦争のデータと照らし合わせながら訓練を行うことになっていた。

当然、それは辺境戦争の、癒えない傷を廻ることでもあった。あの戦争の生き残りであるチームゼロは、この訓練に慰霊の想いも込めていた。


「ハシモト最高司令官。」

第一艦橋で通信士の席についていた乗組員が、後ろを振り返って、ショウタを呼んだ。

「なんだ?」

「通信です。チームゼロ宛です。」

「チームゼロ宛?発信元は?」

「戦艦シリウスの……クラモト第3軍司令官です。」

「まったく、軍の通信で遊びやがって。内容は?」

ショウタはやれやれと頭を振った。遊びほどではないが、私的な要件をさも重大そうに、冗談で送ってくることがたまにあったのだ。

「それが日本語で……翻訳しますか?」

「日本語?ったくふざけやがって。見せてくれ。」

ショウタは画面に近づいた。




至急総旗艦アルタイルに集合

チームゼロにケ号作戦発動、準備されたし




「ケ号作戦?まさか。」

ショウタは息をのんだ。

「すまない。これからチームゼロの面々がここに来る。来たら少し狭いが、第一艦橋に通してくれ。それと、リンカとトウキにこの内容を伝えてくる。少しやりたいこともあるから、いったん艦橋を離れる。30分もしないで戻る。」

「わかりました。」

「二ヤーズィ艦長、今は訓練の真っ最中でも戦争中でもありませんが、念のためいざという時は。」

「ハシモト最高司令官、わかりました。艦橋はお任せください。」

「すまない。」

ショウタは速足で艦橋を去った。







「ケ号作戦?」

トウキは航海班室で油を売っていたところを捕まり、不機嫌そうにしていた顔を一瞬で変えた。

「しかも、俺たちだけにか?」

「ああ。」

「何かしら。私たちにだけ……。」

先ほど事情を知らされたリンカも戸惑い気味だ。

「少なくとも情報第1課長の私の元に来ている情報に、ケ号作戦につながるものなんてないわ。」

「おそらく直接伝えるつもりだ。」

ショウタは2人を見た。

「ケ号作戦……キスカ島撤退作戦の作戦名だ。アルテミスケノンで、もし何らかの理由で逃げる必要になった時、そしてそれを周りに悟られてはいけない時に使おうと冗談交じりに作った暗号。」

2人は頷く。

「とにかく、僕らがすぐ出れるようにしなければ。最低限の荷物をまとめ、ゼロの整備をしてもらおう。」

ショウタが静かに呟いた。

「この宙域で気になるところがあるから少し確認したいと頼んでおこう。ここはポイオーティア周辺だ。何か理由でもあると勝手に推察してくれる。不審がられることはないだろう。」

トウキが少し戸惑った顔で告げた。

「とにかく、やるべきことを。」

3人はそっと走り出した。






「ちょっと、どういうこと?」

第1艦橋についた瞬間、センカがカズマに詰め寄った。

「センカ、聞いてくれ。」

ユウキがその肩をそっと止める。

いくつかの戦艦に分乗していたチームゼロが、総旗艦アルタイルに集まることは珍しい。何かが起きたらしいというのは、その場にいる全員が自覚していた。

宇宙移民自治政府プロセルピナから極秘の通信が入った。」

カズマが全員そろったのを確認すると、低い声で告げた。

「極秘の通信?」

リンカが鋭く返す。

「ああ、宛先は第3軍の俺たち2人に。そして君たちにだ。」

LSSEテラポルトスからは一切何もないけれど。」

「たぶん連絡が取れない状況なんだろう。」

「どういうこと?」

リンカが少し混乱したような顔でカズマに詰め寄った。

「地球で軍事クーデターだそうだ。」

「誰がそんなこと?」

センカが、周囲の空気が凍りそうな声で尋ねた。

「僕らチームゼロが、だそうだ。」

カズマが自虐的な笑いを浮かべた。

「『太陽系の民主主義を守る会』を名乗る市民団体が、各国で一斉に僕らを批判するコメントを発表した。テレビ放送をジャックしたり、インターネットを駆使したり、派手にやったらしい。」

「迷惑。」

センカはそれだけ一言呟いた。

「チームゼロは国連宇宙防衛軍の生き残りだという理由だけで全世界の権力を握った。まるで世襲の独裁者ではないか。まだ子供なのに『改革』と称して「民主主義」という世界の秩序を改悪した。これは正当なものではなく、国連宇宙防衛軍による軍事クーデターに過ぎない。よって今までの改革やLSSEそのもの、およびLSSEが宣言した天の川憲章はすべて無効であり、うんぬんかんぬん。だそうだ。」

「それをわめいているだけならまだいい。だが奴ら、各国首脳に協力なパイプを持っているらしい。現在地球上の各国のトップに交渉してる。」

「LSSEを共に解体しよう、と。元の秩序ある世界にしよう、だと。そしてそれに応じないのであれば、軍事クーデターの支援者として、命を懸けて批判し厳罰を与えると。」

カズマとユウキが一気にたたみかける。

「もはや脅迫だね。」

ハルカが呟いた。

「そして奴らは、LSSEの全職員の出頭と、太陽系防衛軍の速やかな母港への帰還。そして……僕らチームゼロの命を要求している。」

「命か……。」

ショウタがそっとつぶやいた。

「裁判もする必要がない極悪な独裁者だそうだ。」

ユウキがため息をついた。

「さすがにやばい集団だ、って宇宙移民自治政府プロセルピナが連絡をくれた。宇宙移民自治政府プロセルピナとしては、チームゼロの命と、辺境戦争後に作り上げた世界を守る方針だ。僕が戦略委員長だからじゃない、みんなの総意だ。宇宙移民自治政府プロセルピナはまだ僕らに連絡が送れるくらい、まだ動ける。しかし……とにかく身を隠せと通達された。」

「ユウキ、ウチはどういう状況なの?」

センカが足元を見つめながらつぶやいた。

「各国……日本は?アメリカは?ロシアは?どう動いてる?本部は?職員たちは?無事なの?」

「残念ながら、情報が錯綜している。宇宙移民自治政府プロセルピナもテラポルトスのLSSE本部との連絡が急におかしくなって、慌てて確かめてやっとわかったんだ。」

「最悪、本部施設が占拠されてるかもな……。」

タケルが呟く。

「とにかく、どうにかしなきゃいけない。」

ユウキが全員を見渡した。

「ここにはLSSE職員や防衛軍の兵士、ヒルタとリンネルーアの軍人もいる。全員の安全を図らなければいけないし、何らかの対応をしなければ。」

「ユウキ、最後にもう一度聞くわ……。人類宇宙委員会は何か?」

センカは足元をじっと見つめている。

「何も言ってない。むしろショウタのところに先に来るかと。」

「いや、一切連絡はない。個人的にもだ。」

ショウタも呟いた。

「センカ、こんな時にお前に頼るのも申し訳ない。」

ショウタはそう言ってセンカを見つめる。

「LSSE戦略局第1戦略課長、および太陽系防衛軍第1軍戦略長に聞く。僕らはどうしようか。」

「ウエキ第1戦略課長、僕はLSSE戦略局戦略第3課長、および宇宙移民自治政府戦略委員長として、あなたの意見に従うつもりだ。こちらからの提案はすでにしているものとする。」

ユウキもセンカを見つめる。

「地球の状態がわからない……。でも命を求められているのは私たちだけね?」

「ああ。基本的に出頭したものの命は保証されるし、攻撃したりはしないと言っている。」

「そう……。」

センカはショウタを、かつてのパートナーを見上げた。

「戦略長、意見具申。」

「許可する。」

「第1軍は至急テラポルトスに帰還、第2軍も同様。第3軍は母港である冥王星のプロセルピナシティに帰還。到着後はそれぞれ戦術局の指示に従う。」

「LSSEは?」

「LSSE本部職員に全てを任せる。少なくとも第2課長はテラポルトスに残っているはず。臨時の課長級会議で、よりよいと信じる方に動くように。ただし命を無駄にすることは許さない。と伝えて。」

「僕らは?」

「逃げる。」

「逃げた後は?」

「やるべきことがたくさんあるわね。」

「地球に戻るために?」

「そう。」

センカはそれだけ言った。

「ヒルタ軍とリンネルーア軍は?」

「テラポルトスへ。さすがにいきなり牢にぶち込まれることはないはず。」

「メイルとレイアは?2人の存在が好まれるとは思わないが……。」

「2人は連れていけない。ヒルタとリンネルーアの軍隊が怪しいと奴らに思われたら、それこそ太陽系が戦場になってしまう。振りでもいい、従順にしたがってもらって。」

センカは苦しそうにみんなの顔を見渡した。

「それでも、いい?」

全員、静かにうなずいた。


「二ヤーズィ艦長、聞いての通りだ。俺たちはここから逃げる。」

ショウタは後ろの艦長席に座るエンヴェル・二ヤーズィ艦長の背中を向けたまま告げた。

「はい……でも、戻ってこられますよね?」

「それは言わないわ。」

センカが悲しそうな顔で呟いた。

「あなたたちを、LSSEと防衛軍を守るために、何も教えない。ただ私たちは逃げたと、何も知らせずに逃げたと、何も知らない、関係ないと言ってください。」

「わかりました……。」

「ただ、逃げる前にLSSE本部に命令する。それを伝えてくれ。」

「わかりました。」

「みんな、何かあるか……。」

「ツツイコウスケ技術第1課長より技術局へ。全て君たちに任せる。技術はパンドラの箱だ。扱いには引き続き気を付けろ。全員の技術者としての想いを信じている。そう伝えてくれ。」

「シイナリンカ情報第1課長より情報局へ。すべてをあなたたちに任せる。もしものことがあって、YURIKAを守る必要が出て来たら、「椎名」と打ち込んで。そしてもしそれを解除したかったら、私の両親か、私に聞いてちょうだい。それだけよ。」

「オオノハルカ医務第1課長より医務局へ。命の重さは、あなたたちも知っている通り。いつも通り、助けて。お願いします。これだけです。」

「ニシオカタケル建設第1課長より建設局へ。本部施設は、とても強い。粘り強いはずだ。あきらめないでくれ。以上だ。」

「スギヤマスズナ主計第1課長より主計局へ。あなたたちにすべて任せます。私たちが扱うモノは、すべてなくてはならないものばかり。その立場を精いっぱい活かしてください。」

「ニイムラトウキ航海第1課長より航海局へ。航路の管理を怠るな。道さえあれば、みんな無事に帰れる。異星の友人たちのことも任せる。あとはよろしく頼む。」

「ハシモトショウタ戦術第1課長から戦術局へ。すべて任せる。どんな時も命を守れ。それだけだ。戦うのが仕事じゃない、戦わないようにしろ。お願いします。」

「同じく、クラモトカズマ戦術第3課長より戦術曲へ。こちらも冷静な判断を。辺境の人々の命を今度こそ守っていこう。以上だ。」

「ウエキセンカ戦略第1課長から戦略局へ。とにかく対話を、たくさんの人と話して。エリーゼ・フェシカが作り上げた『戦略』、あなたたちなら大丈夫。チームゼロのことは心配しなくていい、信じる方に行ってください。」

センカはそこで息を吐いた。

「それだけです。」

「いいんですか?もっといろいろ……。」

二ヤーズィ艦長にセンカは笑いかける。しかしその手は微かに震えていた。

「だって言ったら、ばれちゃうかもしれないじゃないですか。大丈夫です。ユリアンさんもいる。戦略局ですよ。なんとかなります。」

まるで自分に言い聞かせているようだった。ユウキは黙って顔を上げた。

「テラポルトスにいる宇宙移民自治政府プロセルピナの職員にも。プロセルピナシティに戻るように。ただし、LSSEテラポルトスから依頼があれば、協力しても構わない。判断は宇宙移民自治政府と現場の職員に任せる。宇宙移民自治政府戦略委員長アサヒユウキだ。」




テラポルトスから、太陽系の民主主義を守る会からの要求について、訓練中の艦隊に連絡が入ったのは、そのしばらく後の出来事だった。二ヤーズィ艦長は、チームゼロの逃亡を伝えると、要求に従い、地球に向けて発進することを約束した。

その知らせを聞いたユリアン・ゲープハルト戦略局戦略第2課長は、静かにため息をついた。

「無事で、どうかご無事で。」

テラポルトスはおそらく包囲されている。物理的にではない。しかしマスコミや市民団体に囲まれ、わずかな行動が命取りになりかねなかった。

彼が、すべてを託されたと知るのはもう少し先のことである。しかしユリアンは、センカたちチームゼロが何を求めているのか、早くも考え始めていた。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


少しわかりにくいかもしれませんが、地球でクーデターが起きてしまい、センカたちは命を狙われて帰れなくなってしまい、とにかく逃げたということです。防衛軍やLSSE本部は、職員の命を守るため、とりあえずクーデターに従うようにしています。


さて地球は、「地球による太陽系連盟」はどうなってしまうのでしょうか……。

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