the minutes of The anthem MTG No.4
the minutes of The anthem MTG No.4
第4回「太陽系の歌」会議 議事録
日時:2×××年,11月10日 10:00~17:00(途中昼休憩有) ※テラポルトス標準時
場所:テラポルトスLSSE本部 戦略局総合第3会議室
メンバー:ウエキセンカ戦略局戦略第1課長、ユリアン・ゲープハルト戦略局戦略第2課長、アサヒユウキ戦略局戦略第3課長、他
使用言語:英語(翻訳機使用) ※ただし一部各国語使用
・・・・・・・
「海行かば 水漬く(屍かばね)
山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ
かへりみはせじ 」
「センカ、辛気臭い歌うたうのはやめてくれ。」
「いま気分としてはこんな感じ。」
「だからこそ。海ゆかばを出してくるなよ。まじでかへりみはせじだよ。」
ユウキはそういって頭を抱えた。
会議はすでに硬直している。考えつくして放心状態の会議室はまさに屍が積みあがっているという感じだ。
「Auf der Heide blüht ein kleines Blümelein
Und das heißt, Erika.
Heiß von hunderttausend kleinen Bienelein
Wird umschwärmt, Erika. 」
「ゲープハルト課長がドイツ語を話すなんて……珍しいぞ。」
コンソロが呟いた。
「気持ちは……すごくわかる。エリカか……。」
「ゲープハルト課長、すごく悲壮感が漂っています。何かこうもっと士気が上がるような曲を歌ってください。せめて。」
ハンドルの言葉に、ユリアン・ゲープハルトは少し悩んでからまた別の旋律を歌い始めた。
「Muß i denn, muß i denn
Zum Städtele hinaus,
Städtele hinaus
Und du, mein Schatz, bleibst hier
Wenn i komm', wenn i komm',
Wenn i wiederum komm', wiederum komm',
Kehr i ei' mei' Schatz bei dir 」
「ゲープハルト課長、それは日本語で『別れ』という訳がついているのですが。」
センカの言葉にユリアンはやれやれと頭をかいた。
「完全に固まったな、この会議。」
「ええ、従来の楽曲から選ぼうということになったところでとん挫しています。」
ハンドルがホワイトボードを見ながらつぶやいた。
新しいものを作るよりも、昔から歌われている曲を歌おうとなったのだが、地球の売りは多様性である、ということがあだとなりつつある。どの国の者も歌える普遍的な曲などあるのだろうか。
ベートーベンの歓喜の歌なども候補に挙がったが、センカたちアジア側が「歌えない」「とっつきにくい」などと言い出しておじゃんになった。
こうしてよさそうな曲を思いついた者が歌いだし、それをみんなで聞く、という生産性のない時間だけが過ぎ去っていった。
「Вставай, страна огромная,
Вставай на смертный бой
С фашистской силой тёмною,
С проклятою ордой!
Пусть ярость благородная
Вскипает, как волна,—
Идёт война народная,
Священная война! 」
「ゲオルギィ、すごく暗い歌を歌うのはよしてくれ。」
ウィアが呻いた。
「ソビエトの『聖戦』ですか。割と好きですよ。」
「スパシーバ、ウエキ課長。」
ハチャトゥリヤンはわざとロシア語で返した。
「でも、空気がますます重くなったかな。」
「すみません。なんだか皆さん自分の国の歌を歌っていらっしゃるので。」
「まるで大喜利だ。ぜんぜん明るくないけど。」
ユウキがそういってため息をついた。その時、センカが突然明るい調子で歌い始めた。
「雪の進軍 氷を踏んで
何處が河やら 道さへ知れず
馬は斃れる 捨ゝもおけず
此處(こゝ)は何處ぞ 皆敵の國
儘(まゝ)よ大膽 一服やれば
頼み少なや 煙草が二本」
「ちょっと明るくなりましたね。」
コンソロが呟いた。
「この歴史マニア!戦闘マニア!雪の進軍なんて全然明るくないって!絶望的だって。」
「わかってるよそんなの!」
センカはそういって立ち上がった。
「とりあえず10分休憩にするよ!」
みんな立ち上がって伸びをしたり机に突っ伏したりし始めた。センカが伸びをしていると、エルソイが声をかけてきた。
「ウエキ課長、軍歌なんかにお詳しいんですね。女の子なのに。」
「こういう職業で、歴史も好きなので、個人的に聞いたり調べたりしたことがあったんです。」
センカはそういって伸びをした。
「軍歌を採用する気は全くないですけど、こうやって耳に残るような曲を選んでいきたいですね。」
「そうですね。私もメフテルの国の人間ですから、いい曲を選びたいです。」
「赤い悪魔ですか。」
センカが少し笑う。
「ええ、そうです。赤い悪魔と呼ばれては困りますが、それくらい印象に残る曲があればいいのですが。」
休憩が終わりかけた。メンバーは再び、ばらばらと席に着き始めた。
「あー、それ歌ったな。」
「でしょ?やっぱり定番なんだね。」
「旅立ちの日に、大地讃頌なんかは定番だろ。」
「ウエキ課長、アサヒ課長、何か思いついたんですか?」
資料をめくっていたハンドルが少し笑いながら声をかけた。席に座りなおしていたユウキとセンカが顔を見合わせて笑う。
「日本の卒業式で歌われる曲について話していたんです。」
「日本では、卒業式で卒業生や在校生が合唱をするんですよ。国歌や校歌だけじゃなくて、いろいろ歌います。」
「わたしとユウキは学校は全く違うところに通っていましたけど、やっぱり定番があるみたいで。」
「たぶん、合唱しようと思えば今できるんじゃないか?」
「できそうだよね。」
「日本ではどんな曲が定番なのですか?」
ウィアが面白そうに聞いた。
「いろいろあるけど……結局一番の定番ってなんだろう。時代によって流行りとかあるし。」
「蛍の光なら私も歌ったし、親世代も定番じゃないかな。」
センカはそういうと懐かしそうに目を細めた。
「ほたるのひかり、まどのゆき、
ふみよむつきひ、かさねつゝ、
いつしかとしも、すぎのとを、
あけてぞけさは、わかれゆく。」
「その曲、もしかして?」
全員が驚いた顔をして、センカの方を見ていた。
「Auld Lang Syne?」
「ええ、元はスコットランドの民謡です。Auld Lang Syneですよね。日本でも民謡とか、それから歌詞の内容が国土への愛なんかも含んでいたので、軍歌としても歌われていました。」
「あと、紅白歌合戦なんかでも歌われるし、閉店間際にお店が流したりもする、なんだかんだメジャーな歌だ。」
ユウキも少し驚いたように見つめ返す。
「Auld Lang Syneは我々もよく歌う歌です。」
ハンドルは息を吸い込んだ。
「Should auld acquaintance be forgot,
and never brought to mind ?
Should auld acquaintance be forgot,
and days of auld lang syne?
For auld lang syne, my dear,
for auld lang syne,
we'll tak a cup o' kindness yet,
for auld lang syne. 」
「確か、年越しのカウントダウンなんかで歌われるんですよね。」
センカがそう言ってあたりを見回した。
「この曲は、確か世界各国で歌われているはずだ……。」
ハチャトゥリヤンが呟いた。
「今調べてみたのだが、かつては国歌としてこのメロディーを採用していた国もあるくらいだ……確かに歌詞は各国で微妙に違うが……悪くはないんじゃないか。」
「公用語が正式に決められない今でも、各国で歌われているというのは、いいのではないか。」
ゲープハルトが少し嬉しそうに言った。
「僕もこの曲はよく知っている。」
「歌詞の意味は、古い友人との再会を祝う……か。」
ユウキもつぶやいた。
「宇宙移民たちも、これなら受け入れられる。地球という故郷への歌ともとれるし、ともに第2の故郷を築き上げた仲間への歌ともとれる。」
「問題は、この歌を知らない人たちだ……。」
ウィアが頭を抱えた。
「今、調べているのだが……。」
ハンドルが素早くタブレットの上で指を滑らしながら言った。
「おそらくヨーロッパ圏では大体の人が歌っているようだ。アラビア語バージョンもある。アジアも、ヨーロッパの植民地支配や第2次世界大戦中の日本の影響で比較的歌われているようだ。」
「もう少し調査が必要だとは思うが……いいんじゃないか?」
会議室は再び熱に包まれた。




