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2人の課長の昼休み

昼食となり、メンバーたちはぞろぞろと食堂に向かったり、何か他のことをしにどこかへ走り去ったりし始めた。

戦略局総合第3会議室は、戦略局管轄の会議室である。LSSE本部施設には、課長級会議など重要なLSSE全体に影響を与える会議が開かれる「LSSE本部第1会議室」などの、本部全体で使う会議室があれば、戦略局、主計局といった部局ごとの会議室、情報第3課といった課で管理している会議室もあった。

また、より小さな単位でも使えるミーティングルームがあちこちにあり、簡単な打ち合わせなどに使われていた。

今回の会議での中心メンバー、「TAチーム」は「The Amthem」のプロジェクトのために結成されたのだが、戦略第2課のイギリス人、ベン・ハンドルと、戦略第1課のアルメニア人のゲオルギィ・ハチャトゥリヤン、戦略第2課のイラク人、モハメド・トゥーカーンの3人も、このミーティングルームで打ち合わせをしたのだろう。


センカは少し伸びをして、広がっていた資料やタブレットを少しまとめると、何やらスマホを見ているユウキと、荷物を整頓しているユリアンに声をかけた。

「ユウキ、ユリアンさん。昼食、一緒にどう?」

「あ、センカごめん。カズマから呼び出し。戦術第3課にちょっと顔出してくる。」

ユウキはすまなそうな顔をした。そして荷物を少しまとめると、急いで部屋を飛び出した。

「そう、ユリアンさんは?」

「珍しいですね、あなたがファーストネームで呼んでくるなんて。」

「いまは仕事じゃないですから。同僚のゲープハルト課長じゃなくて、尊敬できる大人のユリアンさんで、いいでしょ?」

センカはそういって少し笑った。

「いいですよ。第1食堂ですか?」

「そこしかないわね。」






センカは牛丼を、ユリアンはスープやパンをトレーにのせた。センカは当たり前のようにいつもの場所に向かったが、ユリアンはさすがに躊躇した。

「いいのよ。別に。」

いつもの場所には誰もいなかった。センカはちょっと寂しそうに座った。ユリアンもどきまぎしながら座った。

「緊張しますね。ここは伝説の席ですから。」

「そんなこと気にしなくていいのに。いただきますっ!」

センカは気にしていないようだ。

「あー、生き返る。」

「そうですか。」

「ええ。昨日もレポートで夜が遅かったし。」

「大学のレポートですか?」

「そうそう。本を読んで要約しなきゃいけなかったの。」

「なんだか懐かしいですね。」

「そっか、ユリアンさんは大学卒業後に来たんだもんね。」

「当たり前です。」

2人は少し笑った。

「ウエキ第1課長は、大学で今後何を専門にしていくんですか?やはり歴史?」

「ええ。そのつもりです。」

センカはそういうと箸を止めた。

「私は、たぶん人類史上で一番歴史をひっくり返そうとしている。小さいころから歴史が好きだったからこそ、余計にいろいろ感じちゃう。ご先祖様や、歴史を作ってくれた人たちにちゃんと顔向けできるのだろうか、って。だから、せめて私が変えてしまうかもしれない、今までの世界を、私が最後に見届けたくて。」

「すこし意外ですよね。」

「何がですか?」

「いえ、あなたは新時代の象徴のような人じゃないですか。」

「そうか、そう見えますよね。」

「あなたは革新派テラポルトスの人ですからね。」

ユリアンはそっとセンカを見つめた。

「たぶん、ユウキは新時代の……宇宙時代の象徴になろうとしている、というか宇宙移民としてならざるを得なくなっている。独立派プロセルピナとして、前へ進んでいくしかないんじゃないかな。」

センカは少し笑った。悲しそうな笑みだった。

「逆にあなたは、保守派ニューヨークとしての立場がある。従来の、過去の秩序を最後まで守らなければいけない。」

「個人的には、私は革新派テラポルトスですよ。というよりテラポルトスのLSSE本部で働いている職員たちは皆、革新派テラポルトスです。もっとも、第3課の職員は宇宙移民自治政府から出向している、という形式の職員も多いので、独立派プロセルピナでもあるのでしょうが。」

「そうですね。しかし……。」

「未来を見つめるあなたが、実は誰よりも過去を大切にしていて、過去を守る私が、実は誰よりも未来に希望を持っているなんて、あべこべですね。」

「ええ。ユリアンさんの大学時代の研究って確か?」

「国際政治や何かを研究しました。従来の国の枠組みを超えて、本当に協力することはできないのか、どうしたら世界平和が実現できるか、ずっと考えていたんです。」

ユリアンはほんの少しだけ笑った。

「僕はたくさんの選択肢を考えましたが、実現できたのは、LSSE。革新派テラポルトスの考え方が僕にとっては理想です。もちろん、独立派プロセルピナの皆さんの考え方も理解しています。」

「世界中の偉い人たちが、最後の砦としてユリアン・ゲープハルトを頼っているのに、ね。」

「もちろん、保守派ニューヨークでもありますよ。いざというとき、第2課として動きます。地球の番人としてね。」

「お願いします。」

「ところで、最後を見届けたいと言っていましたが…。」

「ええ、きっと私はいろいろなものを変えてしまう。だから、変えてしまうものを、最後まで見届けたいんです。」

「やはりあなたはただの保守派ニューヨークじゃないですね。立派な革新派テラポルトスです。」

「テラポルトスという派閥を作ってしまったのはどうやら私のようなので、なんだか不思議な気もします。でもそうですね。」

センカはそういって牛丼をかっ込んだ。


「そういえば、ユリアンさんは、今回の件、どう考えていますか?」

「今回の件……あぁThe anthemのことですね。」

「はい。」

「そうですね、個人的には知っている歌がいいです。ドイツ語の歌だったら歌いやすいですね。」

「なら、私は日本語の歌がいいですよ。」

2人は今度は思いっきり笑った。

「こうなってしまいますもんね。」

「本当ですよ、ウエキ課長。」


「よぉ、センカ!」

突然声をかけられた。センカは後ろも振り返らずに声を返す。

「タケル、今日は大学に行っているんじゃなかったの?」

「休講になったらしいから、トンボ返りしてきた。あ、ユリアン・ゲープハルト戦略第2課長ですね。お久しぶりです。」

タケルはセンカの隣に当たり前のように座った。

「ニシオカ建設第1課長、お久しぶりです。」

ユリアンは目の前に座った青年に声をかける。

「そうだ、戦略の2人に確認したいことがあるんだ。定期便の港でのサービスについてなんだけど……あ、ごめん資料ないや。また今度見せるよ。」

「急ぎじゃないもんね。了解しました。」

「ウエキ課長、そろそろ。」

ユリアンは時計を指さした。

「少し確認したい資料があるので、先に行きます。」

「はい、もうちょっとしたら追いつきます。」

センカはそういうと味噌汁をかっ込んだ。


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