山賊戦
【再編集】9/7 加筆修正しました。
この距離で当たらないはずがない。目の前の赤髪の小僧は背中を見せ油断している。黒頭巾の山賊男は赤髪の小僧を目掛け、棍棒を大きく振り上げた。
黒頭巾の山賊は叫んだ。
「観念しろ、小僧!」
痛みを避けようと身体を固くし大きく動けば、却って隙が生じてしまう。ならば動く距離そのものを減らし、紙一重で避ければいい。赤髪の小僧——レインは、重心を低くし身を滑らせた。
棍棒の風切り音が耳元を掠めるが、その一撃は空を切っただけであった。
レインは、伸びてきた太い手首を掴み取り、流れで引くのではなく、相手側へ押し込み、体勢の均衡を振れさせた。
「うおっ」
黒頭巾の山賊は情けない声を挙げ、反動で身体を半分に折った。足元はなんとか地を捉えたが、まだ不安定さを残す。
レインは間髪入れず、短剣の柄を山賊の鳩尾に打ち込んだ。黒頭巾の男は耐え切れず嗚咽を漏らして白目を剝き、身体を地に沈ませた。
こいつらを殺す必要は無い。商人の積み荷が目当てで、振り回す武器は脅し程度の代物だった。だから、短剣の刃は鞘に収めたままでいい。
この辺りでは、商人には護衛が付き物だ。そして大体、商人自身は戦う術を持たない。二人の護衛を気絶させれば山賊達の勝ちだった。だが、運の悪いことにレイン達が通りかかったのだった。
山賊は全部で七人いた。商人の荷馬車を襲撃しようと動き出した瞬間、レインは一人の山賊の背面から近づき、首筋に短剣の柄を打ち込み気絶させた。
次に、背丈が低いが身の幅がやや広い一人の山賊がこちらに気づき、襲い掛かってきた。最初の一人を静かに沈めたつもりだったが、やはり向こうもそれなりの戦闘のプロである。
ミーナが襲撃者だと商人達に向かって叫び、二人の護衛は防御態勢を整える時間が、僅かにだが、できた。あとは手分けして襲撃者を一人ずつ倒していくだけだった。そして、相手はあと四人。
ちなみに、二人目の低身長で少し緩い体格の山賊は、ミーナの大きな叫び声で一瞬隙を見せた為、すかさず顔面に膝蹴りを食らわせ気絶させた。直後、脇腹が鋭く痛んだが、今は少し落ち着いている。
レインは浅く息を吐いた。深い呼吸をすると、脇腹が痛んだ。そして、自身が少し焦っているのを感じた。何しろ、相手の人数が少しだけ多い。
山賊の持っている武器は殺傷力が低いにしても、武器は武器である。商人が連れている護衛の実力が分からないという不確定要素もあった。だから、一人でも多く自分が仕留めなければならない。
少し遠くから、商人の護衛のものと思われる勢いのある声が聞こえてきた。思ったよりも戦況は悪くなさそうだ。
「おまえは……赤毛の片目野郎!」
後方十歩程の場所から、聞き覚えのある声が飛んできた。レインは振り返ると木々の間に、まだ記憶に新しい男の姿があった。頬に青黒い痣を残した山賊。昨日ミーナを襲った三人組のうちの一人であった。
「またあんたか。嬉しくない再会もあるもんだな」
レインは肩をすくめた。
「こいつだ!俺はこいつにやられたんだ!」
山賊は周りに聞こえるように叫んだ。しかし、山賊の仲間の気配はそれほど近くにはない。
「三人がかりで俺に負けたこと、ちゃんと仲間に言ってくれたのか?」
「うるせえ!ころしてやる!」
男が短剣を抜き、刃先をこちらに向ける。しかし、刃は小刻みに震え位置が定まっていない。こちらへ襲い掛かるのか、逃げるのか、決め切れてないらしかった。
迷いは動きを鈍らせる。レインが踏み込もうとした、その時だった。
「よそ見をするな!」
近くに潜み、機会を伺っていた商人の護衛が、青黒痣の山賊に向かって飛び込んでいた。全身に込めた勢いで、山賊を突き飛ばした。
「ぐわっ」
青黒痣の山賊の身体は、街道脇の茂みに突っ込む。ばきばきと枝の折れる音がした後、何か硬く重たい物に当たったかのような音が聞こえた。吹っ飛ばされた男が動き出す気配はない。
「……今のは痛そうだな」
商人の護衛が思わず口を挟んだ。
「あなたがそれを言いますか!」
すると、馬車の陰からミーナの声が飛んできた。
「レイン、こっちも片付いたよ!」
声のするほうへ視線を向けると、商人のもう一人の護衛が山賊の腕をねじ上げていた。頭領らしい男は既に地面に倒れ、残る一人も戦意を失い武器を捨てている。七人いた山賊たちが全員動けなくなるまで、さほど時間は掛からなかった。




