玄米ご飯と里芋のアイスクリーム
水面にはぷくぷくと泡が浮かんでいる。
「匂いは……ダイジョーブ。多分?」
すっぱかったり変な匂いは特にしない。それでも念のため漬けておいた水をざるで切ってざっと洗う。
そういえば、せっかく玄米でお米を購入したのに、玄米のまま食べたことがないな、と思ったのだ。
玄米。ロハスでオーガニックでほっこりとした丁寧な暮らし、なんて売り文句で高級なカフェのランチに出てきたりする、オールフードとかホールフードの代名詞的存在。
炊き方にはいろいろ流派があって、芸能人で意識高い系セレブな何某さんは小豆を入れた発酵玄米しか食べないなんて公言してたりする。小豆入れて何日か保温するとか、腐んないの? 大丈夫? やっぱ白米で醤油マヨご飯食べたい、とか、そこら界隈では考えるのも悪なんだろう、きっと。引きこもろうって考えたときにカップ麺を箱で買い込んじゃうわたしとは、きっと人種からして違う。
一番手軽なのは、びっくり炊きといって普通に炊いた後、あらためて水加減して炊く方法。私がご飯を炊くの失敗したときによくやる手順を、意図的に行う。それから時々水を替えつつ二日ぐらい浸水させて、発芽を促し、発芽玄米にしてから炊く方法。熱処理してある玄米じゃなく生きてる玄米だと胚芽部分からぴょこんと芽が出てくる。あとは戦争を題材にしたアニメ映画で有名になった楠公飯なんていうのもあった。炒ってから炊くと、ぷわぷわに炊き増えする、ってことなんだけど、それって玄米リゾットの手法と一緒だ。おそらくポップライスにしてから加熱することで、米ぬかの層を弾けさせて中のでんぷん質に水分を吸わせる手法だ。楠公飯は美味しくないらしいけど、そのまま食べるよりもリゾットみたいな出汁を吸わせる調理法向きのはず。
とりあえず今日は単純に一晩浸水させてみただけで炊くことにする。
なるべくスタンダードな玄米のポテンシャルを感じてみたいしね。
玄米って臭いとかまずいっていうけど、どんなもんなんだろう。
今日のわたしにはカレーがあるから、多少の匂いや食感はカレーがカバーしてくれるはず。
では、いざ!
普通に白米と同じように加熱して、同じように蒸らす。
炊いた量は二合。
そのまま食べるのに厳しくても、このぐらいの量ならそれこそリゾットにしたりすればなんとかなるからね。
炊けたご飯は、白米よりも確かに匂いは強い……かも?
気になるほどじゃない。
白米と同じように底からほぐすと、白米よりもパラパラしている。
カレーをかける前に一口味見をしてみたら、そんなに嫌いじゃない味だった。なんというか、白米と違って口に入れた瞬間もう甘くて、噛み締めると味が濃い。プチプチした噛み応えと癖があるから、好みは分かれそうだけど、普通に玄米美味しい。
美味しいお米って玄米でもすでに美味しいんだな。
あー、でもかなりパラパラしてるから、おむすびにするのは難しいかも。
それに味が濃くてはっきりしてるから、続くと飽きるかもしれない。
ダイエットにもいいっていうし、おむすび屋さんを休みにするときは玄米にしてもいいかもな。
玄米で残ったカレーを食べたら、今日は埋めてあった大根で切り干し大根を作ろう。
毎日のルーチンを済ませ、大根と人参と里芋を掘り出してきたらお昼になった。
お昼は玄米の残りと、大根の皮きんぴらと、小松菜の味噌汁、白菜の浅漬け、それときぬかつぎ。大根の皮きんぴらがめんつゆ味なので、きぬかつぎにした里芋はそのまま塩で食べる。
玄米は兵式飯盒で里芋を茹でつつ、中蓋を利用してあっためた。ちょっとしたことだけど、こういう雰囲気を感じる作業ってちょっと上がる。
朝からカレーも食べたし、軽くでいいかなって思ったら、なんだかものすごく宮沢賢治な献立になってしまった。サウイフモノニ ワタシハ別になりたくもない。
まだ残ってるチャーシューは、多分夜にブレッドが来るだろうからその時出そうかなって。
物足りないかな、って思ったのに、噛み応えのある玄米を主食にしていたせいか、すぐにおなか一杯になった。きぬかつぎを食べる時に、いったん箸を置いて皮を剥く作業が入るせいもあったかもしれない。
「茹ですぎた」
きぬかつぎ、多いかなと思いながら里芋を六個ほど茹でた。一個食べて思った。おかずにはならないなって。酒のつまみにはいいのに。
なんとなく持て余し気味になった里芋を残し、食事を終える。
残った里芋は煮っ転がしにしてもいいけど、なんか他にレシピがなかったっけ……。
「そういえばあれも使ってみるか」
シナモンとクローブを水から火に掛け、湧いたところでリーフティーを濃いめに淹れる。
「あとカルダモンと生姜入れたら立派なチャイだな」
開封して持て余し気味になっていた粉のヤギミルクを溶いてはちみつを入れる。どちらも濃いめ甘めだ。砂糖じゃなくてはちみつにしたのは、ヤギミルクの草っぽさをはちみつの癖で対消滅できないかな、って。
で、皮を剥いて潰しザルで裏漉しした里芋を、甘くしたチャイでゆるめていく。なんとなくでポタージュよりずっとトロミが強いくらいな感じ。これを混ぜながら冷やして凍らせるとアイスクリームの出来上がり。
氷魔法万歳。魔法ってホントめちゃくちゃ便利だな。機械任せに放置しておける電化製品はもっと便利だったけど。どうにかして魔化(?)製品とか作れないだろうか。
誰か作ってほしい、切実に。
ハンドブレンダーがあればもっと簡単だけど、やればできるものだ。
「お、冷やすとクセも抑えられる? スパイスなくてもいけたかも」
あったかい状態でも味見に少し飲んでみたけど、冷えてる方がぐっと好みだ。
市販のアイスクリームが溶けると割とテスクチャーがもったりしている。溶けにくくしたり、氷の結晶が大きくなりすぎないようにするのに粘度が必要で、増粘多糖類を添加してトロミをつけたりする。その増粘多糖類として里芋の裏ごしを加えたというわけ。
トルコアイスとも呼ばれるドンドゥルマなんて、温かいトルコ地方でも溶けにくくするためか、本場のものは喉に詰まるほどねっとりしてるらしい。
トルコどころか異世界に来てしまっている今、本場でドンドゥルマを食べるなんて夢のまた夢だわ。
チャイ風味里芋ヤギアイスも十分美味しいからいいけどさ。
玄米を長時間浸水させたときに水面に浮かぶ泡は、発芽時に玄米が二酸化炭素を吐き出したもので、毒性はないそうです。
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