【ふたりぶんの、ひとつのケーキ】
※挿絵はAIイラストを使用しています
「わあ、ショーケースがきらきらしてる……!」
キララは店に入るなり、ガラスケースに顔を近づけた。
いちごのショートケーキ、つやつやのチョコレートケーキ、レモン色のタルト。
どれも小さな宝石みたいに並んでいる。
今日の体験は『ケーキ屋さんのお手伝い』。
エプロンを借りて、二人で厨房に立つことになった。
店主のおばあさんが、にこにこしながら一枚の注文票を差し出す。
「ちょうどよかった。今日ね、常連の女の子の誕生日ケーキを頼まれてるの。よかったら、二人で作ってみてくれる?」
「ええっ、私たちが!?」
「土台はわたしが見ててあげるから、大丈夫。デコレーションは、二人の好きなように」
ピカルは注文票に目を落とした。
『六歳・女の子・いちご好き』とある。
「……わかりました。やってみます」
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スポンジを焼き、クリームを塗る工程は、自然とピカルの担当になった。
温度、時間、クリームを引く角度。
ピカルの手つきは危なげなく、切り分けた断面はきれいな水平を保っていた。
「お兄ちゃん、相変わらず正確だね……」
「土台が歪むと、上に何をのせても崩れる。基礎が大事だ」
問題は、その次だった。
いちごを手にしたピカルが、定規でも当てるように、等間隔で並べ始めたのだ。
寸分違わぬ間隔、寸分違わぬ角度。
「……こう並べると、視覚的に安定する」
「うーん」
キララは腕を組んで、首をかしげた。
「きれいなんだけど……なんか、お店のサンプルみたい」
「それの、何が問題なんだ」
「んーとね、これ、六歳の女の子の誕生日ケーキでしょ?」
キララはいちごを一粒つまんで、くるっと回した。
「私だったら、こう……びっくりして、笑っちゃうケーキがいい!」
そう言うと、キララはクリームといちごとチョコを使って、ケーキの上に不格好な動物の顔を描き始めた。
丸い目、ちょんとした鼻、ぐにゃっと笑った口。
お世辞にも整っているとは言えない。
でもなんだか、見ているこちらまで笑ってしまう顔だった。
ピカルは、しばらくそれを黙って見ていた。
「……対称性は、完全に崩れているな」
「あはは、そうだね!」
「だが」
ピカルはいちごを一粒、キララの描いた顔の横にそっと足した。
「この顔なら、こっちに一粒あったほうが、笑って見える」
「……お兄ちゃん」
「基礎は俺が保証する。表情のほうは、お前に任せる」
キララは、まばたきをひとつして、それから大きくうなずいた。
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完成したケーキを受け取りに、女の子が家族とやってきた。
箱を開けた瞬間、女の子が息をのんだ。
「……わあ! このケーキ、笑ってる!」
きゃっきゃとはしゃぐ声が、店内に響く。
いちごを指さして、目をきらきらさせている。
その隣で、お母さんも「かわいい」と笑っていた。
ピカルとキララは、厨房の奥からそっとその様子を見ていた。
女の子の笑い声が、扉が閉まるまで続いていた。
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帰り道。
夕暮れの空の下を、二人で並んで歩いた。
「あの子、すっごく喜んでたね!」
「……ああ」
「お兄ちゃんの土台、断面ほんとにきれいだった。あれがあったから、私も安心してデコできたんだよ」
「……そうか」
ピカルは少し間を置いてから、続けた。
「俺のいちごの並べ方は、たしかに整っていた。でも、あの子はたぶん笑わなかった」
「そんなことないよ」
「いや」
ピカルは前を向いたまま言った。
「整っているものは、安心する。でも、笑わせるのは……お前のほうだ」
キララは、ぱっと顔を上げた。
「それ、褒めてる?」
「事実を言っている」
いつか聞いたのと同じ台詞に、キララはくすくす笑った。
「じゃあ、次も一緒に作ろうね。お兄ちゃんが土台で、私が顔!」
「……いちごの数だけは、俺に決めさせろ」
「なんで!?」
「多すぎると、崩れる」
キララは笑いながら、夕暮れの道を跳ねるように歩いた。
その手には、店主がお礼にくれた、いちごが一粒。
かじると甘さのなかに、ほんの少しだけ酸っぱさがあった。
参加者リクエスト:二人でケーキ屋さん
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