【きみの声が、返事みたいだった】
※挿絵はAIイラストを使用しています
イルカが音楽に合わせて跳ね上がるたび、観客席から歓声があがる。
陽の光をまとった水滴が、星みたいにキラキラと散った。
「すごい……! 空、飛んでるみたい……!」
キララは興奮のあまり、気がついたら前のめりになっていた。
隣の席の人にぶつかりそうになって、あわてて姿勢を正す。
でもすぐにまた、前のめりになった。
イルカが水面を割って跳び上がるたびに、胸の中で何かが一緒に跳ねる。
あの体で、あの高さまで。
水の中に生きているのに、空へ向かう。
ショーが終わって席を立とうとしたとき、アナウンスが流れた。
『イルカとふれあいタイムにご参加の方は――』
「ふれあい!?」
キララは気づいたら走っていた。
水辺に案内されると、目の前にイルカが現れた。
つるんとした体で、こちらをじっと見ている。
黒くて丸い目が、思ったより近い。
「こんにちは!」
そっと手を伸ばすと、ひんやりして、やわらかい。
魚のようでもなく、石のようでもない。
なんとも言えない、独特の感触だった。
「すごい……! この体でキミは飛んでたんだね!」
イルカが軽く頭を押しつけてくる。
くすぐったくて、思わず笑い声がこぼれた。
「ねえ、キミも楽しい?」
キュッと鳴く声に、キララの顔が輝いた。
「そっか、私もだよ! 一緒だね!」
もう一度だけ、そっとその頭を撫でると、水の冷たさが指先に残った。
イルカはひとつ身をひるがえして、するりと深いほうへ戻っていった。
その背中が水面の下に消えるまで、キララはずっと目で追っていた。
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夕飯のあと、キララはテーブルに頬杖をついてぼんやりしていた。
ピカルが向かいで本を読んでいる。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なに」
「イルカって、どのくらい賢いの?」
ピカルは本から目を上げた。
「種にもよるが……言語に近い音でコミュニケーションを取る。個体ごとに違う鳴き声を持っていて、それが名前のような役割を果たしているという研究もある」
「名前……」
キララは目を丸くした。
「じゃあ今日、私が話しかけたとき、ちゃんと聞いてたってこと?」
「聞いていたかどうかはわからない。ただ、反応はしていたんだろう」
「頭、押しつけてきたんだよ。こう、ぐいって」
キララは自分の頭を両手で抱えて、それを再現してみせた。
ピカルが少し眉を上げる。
「それは……懐いていたんだと思う。あいつらは警戒した相手には近づかない」
「じゃあ、好きって思ってくれたってこと!?」
「さぁ? 好きかどうかまでは知らない」
「でも嫌いじゃなかったんでしょ」
「……まあ、そうなるな」
キララはそれを聞いて、なんだかとても嬉しくなった。
胸の奥が、またあのときみたいに跳ねた。
「私ね、キミも楽しい? って聞いたら、キュって鳴いたんだ」
「そうか」
「返事だと思ったんだよ!」
ピカルは少し間を置いてから、本に視線を戻した。
「……返事だったかもしれないな」
否定しなかったが、キララにはじゅうぶんだった。
「またいつか会いに行きたいな。あの子のこと、顔、覚えてるかな」
「個体識別はする。ただ、人間の顔をどこまで区別しているかは……まだよくわかっていないらしい」
「じゃあ、私がまた行って、またぐいってしてくれたら、覚えててくれてたってことにする」
「……自由な解釈だな」
「いいじゃん」
キララはにっこりして、扇風機の風に目を細めた。
指先にはまだ、あのひんやりした感触が残っている。
水の冷たさと、やわらかさと、あの黒くて丸い目。
会いに行ったらきっと、また来てくれるんじゃないか――そんな気がしていた。
リクエスト:キララとイルカのショー&ふれあい体験
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