【過去の光、未来の光】
※挿絵はAIイラストを使用しています
「わあ……天井が、星空になった……!」
照明が落ちた瞬間、キララが小さく息をのんだ。
丸いドームいっぱいに、夜の星が静かに広がっていく。
点が一つ、また一つと増えて、気づけば頭上のすべてが深い藍色に塗り替えられていた。
「本物とは違うけど……これはこれで、すごいな」
隣でピカルも見上げたまま、感心したように呟く。
星座の線が浮かび、解説の声とともに季節の空が移り変わる。
春の大三角、夏の天の川、冬のオリオン——地球の人たちが長い時間をかけて名前をつけ、物語を重ねてきた星たちが、順番に姿を見せていった。
アルフィオスの夜とは違う。
あの星空は、もっと鋭く、もっと静かだった。
けれど、暗闇の中で星を『知るために見せる』この場所は、どこか不思議で優しかった。
遠いものを手元に引き寄せようとする、地球の人たちの不思議な誠実さ、とでも言うのだろうか。
「ねえお兄ちゃん、空を作っちゃうなんて、地球の人ってすごいね!」
「ああ。遠いものを、近くに感じてもらう工夫だ。……記録や再現は、ただ真似するだけじゃないんだな」
キララは椅子に沈み込みながら、満天の星へ手を伸ばした。
指先がドームの光をすり抜ける。
触れられないのに、それでも伸ばしたくなるのは、なぜだろう。
「ねえ、アルフィオスも映ってたりして」
ピカルは少しだけ目を細めた。
「どうだろうな。地球からの距離じゃ、観測できてるかどうかも怪しい」
「でもさ、もし映ってたら?」
「……そうだな」
すぐには答えが出なかった。
ドームの星たちが、ゆっくりと回り続ける。
「誰かがここで、俺たちの星を見上げてるかもしれない」
キララはそのまま、星空に手を伸ばしたままでいた。
美しく造られた輝く星たちを見上げながら、兄妹はしばらく、静かな宇宙を感じていた。
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プラネタリウムを出ると、外はもう夕暮れに差し掛かっていた。
西の空がオレンジに染まり、その端に一番星がぽつりと光っている。
キララは空を見上げながら、ゆっくり歩いた。
「ねえ、さっきの話」
「どれ」
「アルフィオスが見えてるかもしれないって。……本当にそう思う?」
ピカルは少し間を置いてから、答えた。
「光の速さで届くなら、可能性はゼロじゃない。ただ、今ここに届いてる光は、ずっと昔に出発したものだ」
「どのくらい昔?」
「何百年も前、かもしれない」
キララはそれを聞いて、少し黙った。
歩道の石畳が、夕陽を受けてほんのり赤い。
「じゃあ、今のアルフィオスの光は、まだここに着いてないってこと?」
「そう考えると、そうなる」
「……なんか、不思議だね」
キララは空の一番星をまた見上げた。
あの光も、どこか遠い過去から旅をしてきたのだろうか。
「星って、見えてるのに、今じゃないんだね。もう変わってるかもしれない星を、みんな今だと思って見てる」
「そういうことになる」
「それって、ちょっと……さみしいような、でもきれいなような」
ピカルは何も言わなかった。
ただ、歩くペースが少しだけ緩やかになった。
二人の影が、石畳の上で長く伸びている。
キララはその影を踏みながら、またぽつりと言った。
「プラネタリウムの星も、本物の星も、どっちも今じゃない光なんだね。でも、どっちも本当にきれいだった」
「……ああ」
「お兄ちゃんは、どっちが好き?」
ピカルは少し考えてから、前を向いたまま答えた。
「どちらも、同じくらい」
キララはそれを聞いて、なんとなく笑った。
理由はうまく言えなかったけれど、その答えが、今夜の空によく似合っていた気がした。
一番星が、少しだけ明るくなった。
参加者リクエスト:ピカルとキララでプラネタリウム体験
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