↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Project Alpheos(プロジェクト・アルフィオス) ~あなたのリクエストで星の未来を取り戻せ~  作者: だしのもと
Project Alpheos 本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/97

地球編・4 届く形⑥

※地球編・4 ⑤の続きです。

※挿絵はAIイラストを使用しています

 数時間後。

 キララは、少しだけ仮眠を取ってから、通信端末の前に座った。

 画面の向こうには、相変わらず、冷静で感情の読めない表情のノヴァの姿が映っている。


「お元気でしたか、ノヴァ様」


 キララの声は、わずかに震えていた。


「あぁ。それで、報告があると聞いたが」


 ノヴァの声には、特に期待も興味もないように聞こえた。

 キララは、心臓がドキドキするのを感じた。

 でもここで引き下がるわけにはいかない。


「は、はい」


 キララは、深呼吸をしてから、話し始めた。


「私、地球で『衣服の循環』を見てきました。回収して、仕分けして、配って‥‥‥という現場です」「‥‥‥循環、か」


 ノヴァは、わずかに眉を動かした。


「ピカルの報告にもあったが、具体的には何を?」「回収、仕分け、配布の現場です」


 キララは、この数日間の体験を、できるだけ簡潔に説明しようとした。

 でも、緊張で言葉がうまく出てこない。

 ノヴァは、無言でキララを見つめている。

 その視線が、とても重かった。


「す、すみません‥‥‥落ち着いて話します」


 もう一度、息を吸う。

 そして、ゆっくり言った。


「仕分けは基準がないと回りません。配布は運用がないと混乱します。列、掲示、優先枠、衛生‥‥‥それがないと、回らないって分かりました」


 ノヴァは黙って聞いていた。

 途中で遮らない。

 そこが逆に怖い。


「‥‥‥それで、これを作りました。見てください」


 キララは、データを送信した。


『拠点運用・初動チェックメモ』


 ノヴァは、画面を見ながら、しばらく黙っていた。

 キララは、緊張で手に汗をかいた。

 ノヴァは、きっと——「こんなものは役に立たない」と言うんだろうか。


 やがて。


「‥‥‥キララ」


 ノヴァが、口を開いた。


「は、はい」

「この『優先列』だ。『同伴者1名まで』とある。根拠は?」


挿絵(By みてみん)


 キララの心臓が、ドキンと跳ねた。

 やっぱり、突っ込まれた。

 でも——ここで逃げたら、意味がない。


「え、えっと‥‥‥」


 キララは、必死に考えをまとめた。


「同伴者がいないと、弱い人が一人で来ます。子どもや高齢者が、人の波の中で一人は危ないです」

「‥‥‥」

「でも増やしすぎると、優先列が長くなって、逆に揉めます。だから、1名までがいいと思いました」「ふむ」


 ノヴァは、少し考えてから次の質問をした。


「『手洗い場または消毒液』とあるが、どちらを優先すべきだと思う?」

「手洗い場です」


 キララは、少し自信を持って答えた。


「消毒液は、数に限りがあります。でも、手洗い場なら、水がある限り使えます」

「では、なぜ『または』と書いた?」

「‥‥‥初動で、手洗い場を作れない時もあると思ったからです。まずは消毒で代わりにして、あとで手洗い場を整える‥‥‥そういう順番もあると思って」


 ノヴァは少し黙った。

 不安が膨らんだところで、ノヴァが言った。


「理由は分かった」


 否定ではなかった。

 キララは、喉の奥の力が少し抜けた。


 その後も質問が続いた。

 夜間の見回りは何人か。

 照明はどうするか。

 火気は誰が管理するか。


 キララは答えられるところは答えた。

 分からないところは、正直に「分かりません」と言った。

 その上で、「でも、こう考えました」と自分の考えを添えた。

 ノヴァは最後まで、黙って聞いていた。


 説明が終わったのは、1時間後だった。


「‥‥‥以上だ」


 ノヴァが言った。


「は、はい‥‥‥」


 キララは、緊張で肩が凝り固まっていた。


「この運用方法は、ピカルの計画書に追加する」

「え‥‥‥本当ですか?」


 キララは、思わず声を上げた。


「使えると判断したから、追加する」


 ノヴァの声は、相変わらず淡々としていた。


「ただし、これは『初動』だ。実際に運用すれば、問題点が出てくる。その都度、修正が必要になる」

「はい‥‥‥! 分かりました!」


 キララは、嬉しさで涙が出そうになった。

 あの厳しいノヴァが、自分のメモを認めてくれた。


「では」


 ノヴァは、通信を切ろうとした。

 でも、その前に。


「あの! ノヴァ様」


 キララが、呼び止めた。


「なんだ?」


「その‥‥‥第7地区の人たちのこと‥‥‥」


 キララの声が、少し震えた。


「私たち、間に合わなくて‥‥‥ごめんなさい」


 突然の謝罪にノヴァは、少し驚いた表情を見せた。

 そして――


「謝るな」


 その声は、厳しくはなかった。


「お前たちは、次を救うために動いている。それでいい」

「‥‥‥はい」

「第7地区の混乱は、こちらで何とかする。お前たちは、次の準備をしろ」

「‥‥‥分かりました」


 キララは、涙をこらえて頷いた。


「じゃあな」


 通信が切れた。

 キララは、しばらく画面を見つめていた。

 そして——ふっと、力が抜けた。


「‥‥‥終わった」

「お疲れ様、キララ」


 ピカルが、隣に座った。


「ちゃんと話せたな」

「うん‥‥‥すっごく怖かったけど」

「でも、頑張ってた」

「うん‥‥‥」


 キララは、ピカルの肩に頭を預けた。


「ねえ、お兄ちゃん。ノヴァ様って、本当は少しだけ優しいのかな」

「‥‥‥どうだろうな」


 ピカルは、少し考えてから答えた。


「優しいというより、『公平』なんだと思う」

「公平?」

「感情で判断せず、必要なことを必要なだけ言う。それが、あの人のやり方なんだろう」

「‥‥‥そっか」


 キララは、目を閉じた。

 そして——小さく呟いた。


「私、ノヴァ様のこと、ちょっとだけ分かった気がする」

「‥‥‥そうか」


 ピカルは、少しだけ笑った。


 その夜。


 キララが眠った後、ピカルは一人で通信端末の前に座った。

 画面の向こうには、ノヴァがいる。


「なんだ? 追加の報告か?」

「いえ‥‥‥少し、確認したいことがあって」


 ピカルは、少し言葉を選んでから口を開いた。


「再生可能エリア案は‥‥‥進めてもらえるんですか?」

「ああ、進める」


 ノヴァは、即答した。


「問題は『どう回すか』だ」

「‥‥‥」

「環境を作るだけなら、技術で何とかなる。だが、維持して、動かすのは別だ。運用が必要になる」


 ノヴァは、データパッドを操作した。


「妹の運用法は、どうでしたか?」


 ピカルが尋ねると、ノヴァは少し間を置いてから答えた。


「‥‥‥机の上だけの文章じゃない。現場の息がある」


 ノヴァの声は、本当にわずかだが、評価の色が混じっていた。


「数字がある。例もある。曖昧じゃない。それに『人が足りない時』『優先列が作れない時』の代案もある」


 ノヴァは、画面を見つめた。


「これは、実際に現場を見た人間でなければ書けない」


 ピカルは、少し驚いた。

 ノヴァが、ここまでキララのメモを評価しているとは思わなかった。


「それで‥‥‥どうするんですか?」

「人員を募る」


 ノヴァは、はっきりと言った。


「初動で失敗するわけにはいかない。運用を理解している人間が必要だ」


 ノヴァは、厳しい表情になった。


「希望の象徴になる再生可能エリアは、失敗すると一気に絶望になる。だから最初が肝心だ」


 ピカルは、頷いた。

 確かに、その通りだ。


「実証は‥‥‥どこで?」


 ピカルが尋ねると、ノヴァは少し考えてから答えた。


「移民の受け皿になっている境界集落がある」

「境界集落‥‥‥?」

「リ(・)メ(・)ン(・)・(・)ゲ(・)ー(・)ト(・)だ」


 その名前を聞いた瞬間、ピカルの表情が変わった。


「リメン・ゲート‥‥‥」

「ああ。AURORAの派遣員を輩出したということで、資金提供がまだ手厚い地域だ」


 ノヴァは、データを画面に表示した。


「現在、移民を受け入れているが、移民集中によるトラブル報告も上がっている」


 画面には、リメン・ゲートの状況が映し出されていた。

 人々が密集する狭い路地。

 不足する食料と水、そして小競り合いをする人々。


「‥‥‥厳しい状況ですね」

「ああ。だからこそ、だ」


 ノヴァは、ピカルを見た。


「実証は、最も危うい場所でやる。成功すれば、説得力が最大になる」

「‥‥‥」


 ピカルは、リメン・ゲートという名前を、もう一度心の中で繰り返した。


 『リメン・ゲート』


 それは、リアナス領の境界にある集落。

 そして——アルデンの故郷。


「‥‥‥アルデン」


 ピカルは、小さく呟いた。

 12年前、崩落事故から自分とキララを救ってくれた、あの赤髪の男。

 今は、AURORAの調査員として、他の星を回っているはずだ。

 でも、彼の故郷は——今、移民の受け皿として、苦しんでいる。


「どうした?」


 ノヴァが尋ねた。


「いえ‥‥‥リメン・ゲートには、知り合いがいまして」

「知り合い?」

「はい。アルデン・セリオスという人です」

「‥‥‥ああ、あの男か」


 ノヴァは、少しだけ表情を和らげた。


「彼は、優秀な調査員だと聞いている」

「彼がいなければ、僕とキララは今ここにいません」

「‥‥‥そうか」


 ノヴァは、少し考えてから言った。


「なら、なおさらリメン・ゲートでの計画を成功させなければならないな」

「はい」


 ピカルは、強く頷いた。

 ノヴァは、データパッドを閉じた。


「では、準備を進める。お前たちも、地球での学びを続けろ」

「分かりました」

「それから、妹のことだが」


 ノヴァは、少し言葉を選んでから続けた。


「‥‥‥お前とは違って、奔放すぎると思っていた。正直、あまり役に立たないだろうと思っていた」


 その言葉は、厳しかった。

 でも、ノヴァは続けた。


「だが——今回のメモを見て、考えを改めた。お前は『何を作るか』を考える。妹は『どう使うか』を考える」


 ノヴァは、ピカルをまっすぐ見た。


「どちらも、必要だ」

「‥‥‥ありがとうございます」


 ピカルは、深く頭を下げた。


「――事実を述べただけだ」


 ノヴァは、そう言って通信を切ろうとした。

 でも、その前に。


「あなたも‥‥‥変わりましたね」

「‥‥‥何がだ」

「以前なら、こんなこと言わなかったでしょう」


 ノヴァは、一瞬、言葉に詰まった。

 そして――


「‥‥‥お前たちの報告を聞いていると、な」


 ノヴァは、少しだけ表情を和らげた。


「変わらざるを得ない」

「そう、ですか」


 ピカルも僅かに微笑んだ。


「じゃあ、僕たちももっと頑張ります」

「ああ。期待している」


 通信が切れた。 ピカルは、しばらく画面を見つめていた。

 そして——小さく呟いた。


挿絵(By みてみん)


「リメン・ゲート‥‥‥アルデン‥‥‥」


 アルデンの顔が、頭に浮かんだ。

 豪放で、人懐っこくて、でもいざという時は頼りになる——あの男。

 彼の故郷で、再生可能エリアの実証が始まる。


「‥‥‥必ず、成功させる」


 ピカルは、拳を握った。

地球編4・⑦に続く。次で4最後です。


お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!


リクエスト企画の方は不定期で参加者様を募集してます。

Xで最新情報を投稿してますので、よかったらご覧ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。