表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Project Alpheos(プロジェクト・アルフィオス) ~あなたのリクエストで星の未来を取り戻せ~  作者: だしのもと
Project Alpheos 本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/91

地球編・4 届く形⑤

※地球編・4 届く形④の続きになります


※挿絵はAIイラストを使用しています

 その夜、キララは拠点の小さな机に向かっていた。

 データパッドの画面には、真っ白なドキュメントが開かれている。

 タイトルは『拠点運用・初動チェックメモ』


「‥‥‥何から書けばいいんだろ」


 今日見てきた配布会の混乱、人々の動きとスタッフの対応——全部、頭の中にある。

 でも、それを現地で「使える形」にするのは、想像以上に難しかった。


「まずは‥‥‥『列』からかな」


 キララは、ゆっくりとタイピングを始めた。


『列の作り方 ・入口から真っすぐ並んでもらう ・押し合わないように間隔を空ける』


 書いては消し、消しては書く。


「‥‥‥これじゃダメだ。具体的じゃない」


 キララは、頭を抱え深いため息をついた。


「間隔って、どれくらい? 押し合わないようにって、どうやって?」


 自分で書いた文章なのに、自分でも分からない。 これでは、説明も出来ないし現場で使えないだろう。


「もっと‥‥‥もっと具体的に‥‥‥」


 キララは、再び書き直した。


『列の作り方

 ・入口から3メートル離れた位置に開始地点を作る

 ・一人分の間隔は、腕を伸ばして前の人に届かない距離

 ・列が長くなったら、定期的に見回る 』


「‥‥‥うん、これならちょっとマシかも」


 でも、まだ何かが足りない。


「見回るって、どれくらいの頻度だろう? 見回る人が足りなかったら?」


 疑問が次々と浮かぶ。

 キララは、さらに書き加えた。


『・人員は15分ごとに列をチェック

 ・人員が足りない場合は、列の先頭に「押し合い禁止」の掲示を出す 』


「よし‥‥‥」


 時計を見ると、もう夜11時を過ぎていた。


「まだ『列』だけ‥‥‥」


 ちらりとキララは、画面に表示されている項目リストを見た。


『列』

『掲示』

『弱者枠』

『衛生』

『夜間治安』


 まだ、考えるべきことは山ほどある。

 キララは立ち上がり、部屋の隅に置いてあった小さな箱を取り出した。

 中には、リアナス家の象徴である金色に輝く細い環——『守冠』が入っている。


「‥‥‥」


 キララは、そっと守冠を手に取った。

 ピカルは普段、これを使ってデータ分析をしている。

 膨大な情報を整理し、仮説を立て、シミュレーションを繰り返し、記録を保存している。


「私にも‥‥‥使いこなせるかな」


 キララは、そっと守冠を額に装着した。

「ピンッ」と小さな電子音とともに、守冠が起動する。

 視界に、半透明の画面が浮かび上がった。


「‥‥‥すごい」


 データパッドに書いた『列』の案が、立体の模型になって現れた。

 入口、通路、テーブル。

 そこへ、透けた人の形が次々と並んでいく。


「これで‥‥‥流れが見られるんだ」


挿絵(By みてみん)


 キララは指先で、入口の前をなぞった。

 人が並び、扉が開く。

 その瞬間、先頭が一歩だけ前に出る。

 それを見て、後ろの人も詰めてくる。

 押されて、また一歩。

 扉のすぐ前が、ぎゅうぎゅう詰めになった。


「あ、だめだ。入口の前が近すぎる」


 キララは、列の先頭を少し後ろへずらした。

 入口の前に、空いたスペースをつくり、もう一度やり直す。


 扉が開いても、先頭は急に飛び出さない。

 空いた場所がクッションになって、流れが落ち着く。


「うん。入口の前は、これくらい空けておかないと」


 キララはメモに打ち込んだ。


『入口から五メートル。人を誘導する係が立てる場所』


 列の間隔、二列にする方法、看板の位置、優先列の通り道、手洗い場の場所——ひとつずつ、守冠の中でやり直しながら確かめていく。


 人が動く、詰まる、流れる、揉める。


 数字を変え、配置を変え、ルールを足す。

 何度も、何度も。

 どれも、難しい話じゃない。

 でも、決めておかないと、現場は簡単に崩れてしまう。


 そのとき、キララはふと気づいた。


「――これ、服の配布だけじゃない。食べ物を配るときにも使える」


 守冠の模型の中で、服の箱を食べ物の箱に変えてみる。

 並ぶ人の数は変わらない。

 焦りも、不安も、同じだ。

 違うのは中身だけで、混乱する場所は同じ。


 入口、看板、列、優先枠、手洗い場。


「同じだ‥‥‥」


 キララの目が輝いた。


「服も、食べ物も、配る仕組みは同じ。ちゃんと運用しないと、混乱する」


 守冠の画面に、食べ物の種類や保存方法、配る量の計算——そんな項目が次々と追加されていく。


「これも‥‥‥メモに入れなきゃ」


 キララは、再びタイピングを始めた。


 守冠が彼女の考えを手伝い、情報を整理し、おかしな部分を直し、もっと良い形を教えてくれる。

 いつの間にか時間が経つのも忘れて、キララは作業に集中していた。


______________


 翌朝、ピカルが目を覚ますと、キララはまだ机に向かっていた。

 頭に、守冠を装着していた姿に目を見開く。


「‥‥‥キララ?」


「あ、お兄ちゃん。おはよう」


 キララは、振り返って笑顔を見せたが、その目には、くまができていた。


「‥‥‥まさか、寝てないのか? それに、守冠(それ)‥‥‥」

 ピカルは、少し驚いた。

 あのキララが、守冠を使っている。

 以前なら、「情報多すぎて難しいから」と避けていたはずなのに。


「2時間くらい‥‥‥かな? でも大丈夫。もうすぐできそうだから」

「無理するなよ」


 ピカルはため息をつき、チラリと画面と手元にある乱雑に書かれたメモを見つめた。

 そこには、何度も書き直されたであろう痕跡があった。


 削除された文章。

 追加された項目。

 修正された表現。

 そして——守冠によるシミュレーション結果。


 ピカルは、少し複雑な表情で妹を見つめた。

 でも同時に、今までこんなに真剣に何かに取り組むキララを、見たことがなかった。


 いつもは、明るくて元気で、でも少しだけふわふわしていた妹。

 それが今、こんなにも集中して、一つのことに向き合っている。

 しかも守冠を使いこなしている。


「朝ごはん、食べるか?」


「うん‥‥‥でも、ちょっと待って。この部分だけ終わらせたいから」


「‥‥‥分かった。手軽なもの持ってくるから」


 しばらくするとピカルは手軽に食べれるよう小さなサンドイッチを、キララの横に置き隣に座った。 ピカルは、画面を覗き込む。


『拠点運用・初動チェックメモ

 1. 列と動線:

・入口から5m離れた位置に列の開始地点を設置

・一人分の間隔は約1m

・20人超で15分ごと巡回

・2列化で交互誘導 』


 そのほかにも『掲示』『弱者枠』『衛生』『夜間治安』を挙げており、それぞれの項目の下には、さらに細かい理由や代替案が箇条書きで記されていた。

 そして最後に「※食料配布応用可」とも書かれている。


「‥‥‥すごいな」


 ピカルは、率直に感心した。


「え?」

「いや、ちゃんと『使える形』になってる。しかも、シミュレーション結果まで入ってる」

「本当?」


 キララの目が、ぱっと明るくなった。


「うん。具体的だし、数字も入ってる。これなら、現場で見た人がすぐに動ける」


 ピカルは、守冠を装着したキララを見た。


「それも‥‥‥上手く使えてるな」

「うん。お兄ちゃんが普段使ってるの、見てたから。最初は難しかったけど、慣れたら便利だった」

「そうか」


 ピカルは、妹の成長を改めて実感した。


「よかったぁ‥‥‥」


 キララは、ほっと息をついた。


「でも‥‥‥これで十分かな?」

「十分かどうかは、分からない」


 ピカルは、正直に答えた。


「実際に使ってみないと、分からないこともある。でも、これは『第一歩』としては、十分だよ」

「第一歩‥‥‥」

「うん。これをベースに、現場で修正していけばいい」


 ピカルは、キララの頭をそっと撫でた。


「よく頑張ったな」

「‥‥‥ありがとう、お兄ちゃん」


 キララは、少しだけ涙ぐんだ。

 疲れと、達成感と、安心感が、一気に押し寄せてきた。


「さあ、少しでも食べたほうがいい。それから、少し休め」


「うん‥‥‥でも、その前に」


 キララは、データパッドを操作した。


「これ、ノヴァ様に送りたいの」

「‥‥‥あの人に?」


 ピカルは、少し驚いた。


「うん。お兄ちゃんが作った『再生可能エリア計画』に、この運用メモを追加してほしくて」

「でも、あの人は厳しいぞ。細かいところまで突っ込まれる」

「‥‥‥分かってる」


 キララは、少し緊張した顔で頷いた。

 実は、キララはノヴァが少し苦手だった。

 いや、苦手というより怖かった。

 あの感情の読めない表情に冷たい視線。

 そして、容赦ない質問。


 以前、ピカルの報告に同席したとき、ノヴァはキララの発言をほとんど無視した。

 まるで、「お前の話は聞く価値がない」と言われているようだった。


「でも‥‥‥」


 キララは、拳を握った。


「ちゃんと届けたいから。私が、直接説明する」

「‥‥‥そうか」


 ピカルは、妹の成長を改めて感じた。

 以前のキララなら、ノヴァとの対話を避けていただろう。

 でも今は、自分から向き合おうとしている。


「じゃあ、通信を繋ぐよ」

「うん!」

地球編・4 届く形⑥に続きます。


お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!


リクエスト企画の方は不定期で参加者様を募集してます。

Xで最新情報を投稿してますので、よかったらご覧ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ