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番外編その3 海の怪物カレー!

リヴァイアサンはどうやら、自らのエモノに対してプレイヤーたちが手出ししてきたことに怒り狂ったらしい。

咥えていたクラーケンを放すと、俺たちへの怒りのままに、空気が震えるほどの咆哮をした。

その直後。

甲高い破裂音が響き渡るや、一人のプレイヤーが吹き飛んで、船の外へと落下していった。



>出た!

>リヴァイアサンのシャコパンチ!

>避けなきゃ即死だぞ!



配信中のコメント欄に、有識者たちからのチャットがズラリと流れていく。



「シャコパンチ……!? って、水中で貝を叩き割る威力のアレかっ!?」


「音速を越えたあの攻撃は視認不可能や! 予備動作を見て避けるしかあらへんで!」



ボンジリさんが、緊張にゴクリとその喉を慣らしつつ、リヴァイアサンへと目を凝らす。



「ともかく、報酬のこと考えるんは後回しや! 今は生き残ることを第一に──攻撃来るでぇっ!!!」



シャコパンチを皮切りに、リヴァイアサンによる苛烈を極める攻撃が始まった。

その二本のエビ的な脚で船体にしがみつき揺らしたかと思うと、その大きなカニ系ハサミの腕を横なぎに振るってくる。


俺とボンジリさんは何とかしゃがんで避けられたが、揺れで体勢を崩していた数人のプレイヤーがまた船外へと吹き飛ばされていく。



>なにこれ、即死じゃんっ!?

>エグすぎ草

>残り何人だっ?

>たぶん二十人切ってるかも

>これ何分逃げ切ればいいの!?

>確か五分とか……



……五分、ということは。

残りはまだ四分以上ありそうだ!



「カレーバフで、器用と敏捷性を全部盛りしましょうっ!」


「恩に着るで、カイくんッ!」



アイテムボックスから取り出したカレーの小瓶。

それをボンジリさんと分け合って飲んだ。


体の奥底から、スパイスの熱さと活力が湧き上がってくる!


──攻撃はなおも続く。

リヴァイアサンのハサミが開き、その間から水弾がマシンガンのように撃ち出されて甲板の上を蹂躙したかと思えば、個別にターゲットを絞った不可視のシャコパンチがプレイヤーを次々と襲い来る。


十八人から十五人。

十五人から十人。

十人から七人。


プレイヤーの数は次々と減っていき、そして。



「──うおッ……!?」


「ボンジリさんッ!?」



残り時間およそ半分。

鞭のように振るわれたハサミの先端がかすめて、甲板の端ギリギリまで吹き飛ばされてしまっていた。



>やべぇっ!

>ボンジリィィィッ!!!

>早く起きろ!

>リヴァイアサンのヘイト向いてるぞ!



ギギギ、と。

その甲殻の拳が縮む。

シャコパンチの前兆だった。



「ボンジリさんッ!!!」


「く、来るんやない! カイくん!」



ボンジリさんは、装備していたリンゴ飴ハンマーを捨てた。



「俺は死なんでぇっ……! ここで死んだら配信者の名が廃るぅッ!!!」



ボンジリさんが、大きく横っ飛びした。

その直後、ビュオンッ、と風を切る音。

シャコパンチが、ボンジリさんのすぐ横を貫いた音だった。



>おぉぉぉおおおっ!?

>マジで!?

>シャコパンチ避けたぁ!

>体を軽くしたからか!

>ナイス回避ぃっ!!!



驚愕と称賛のコメントが溢れ返る。

だが、直後。

大きく船体が揺らされる。



「クソッ……立てへんッ!!!」



ギギギ、と。

リヴァイアサンの、今パンチを放ったのとは反対の甲殻の拳が縮んでいた。



>マズい!

>連続攻撃だ!

>ボンジリ逃げてぇぇぇッ!



コメントの声掛けに応じたいところはやまやまだろう。

だが、激しい船体の揺れがそれを許さない。


……次は、避けられない!



「ボンジリさぁぁぁん!」


「っ! カイくんっ!?」



辛うじて身動きの取れる俺が、ボンジリさんの前へと出る。



「なんで来たっ!? はよ逃げな──」


「いっしょにリヴァイアサンカレーの味を確かめるまでは、死なせないッ!」



シャコパンチ、もう《《その音》》は何度も聞いてきた。

いくら不可視の攻撃だって、パンチを打ち放つ直前の甲殻の軋む音まではかき消せない!


耳を澄まして……振るう!


カレーバフによって極限まで高めた器用さで、俺は短剣"一ツ星クッキングナイフ"を横なぎにした。

すると。

ガラスの割れるような音と共に、輝く青いエフェクトが広がった。



>うおおおおっ!?

>パリィだっ!

>シャコパンチをっ!?



リヴァイアサンの打ち放ったその硬い拳。

俺はそれをジャストタイミングで弾くことに成功する。

拳はノックバックする……だけにはとどまらなかった。



──ピシィッ! と。



岩に亀裂を入れるような音とともに、リヴァイアサンのそのシャコの拳へとヒビが入った。

リヴァイアサンは低い苦悶の声を上げている。



「カイくん、助かった……! でも、これはいったい……!?」



>これ、部位破壊じゃねっ?

>ウソっ!?

>シャコ脚って部位破壊できたっけ

>攻略サイトには載ってないけど……

>でも破片散ってるぞ!?

>部位破壊報酬ウマウマ!



呆気にとられるボンジリさんと、視聴者コメントを眺めて。

俺はハッとした。



「そうか! これ多分、シャコパンチの《《反動》》のせいだ……!」



シャコパンチの威力は非常に高い。

現実世界でも、シャコの種類によっては銃弾と同じだけの威力があると言われるほどに。

だが、それゆえに反動が大きく海中以外で打つと自壊のリスクがあるそうだ。



……おそらく、リヴァイアサンもそうなんだ。



パンチそれ自体は打てるが、パリィのようなカウンターを完璧に合わせられると、自身のパンチの威力が拳へと跳ね返り──壊れてしまう。



「ボンジリさん! パリィだ! パリィし続ければ倒せそう! 部位破壊報酬ももらえるっぽいし!」


「いや、ムリムリムリぃっ! あんな攻撃弾けんの、カイくんくらいのもんやって!」


「なら、俺の後ろにいてください!」



もう、甲板を逃げ回るようなマネはしない。

どっしりとその場で構えて、リヴァイアサンの攻撃のタイミングを計った。

しかし。



〔……〕



リヴァイアサンは少し間を置くと、その拳を引っ込める。

それから改めて別のプレイヤーたちへと標的を変えて攻撃し始めた。

バチンッ、バチンッと、傷の付いていない方のシャコパンチでプレイヤーたちが次々と海に落とされていく。



「……あれ? 俺たちの方に来ないの?」


「……あー、コレたぶん、フォグトレント戦のときと同じや。AIの"パターン最適化"っちゅーヤツやな」



LEFに存在するモンスターを含むNPCにはプレイヤーの行動を学習し、より最適な行動パターンを生み出すAIが搭載されている。

それがパターン最適化だ。



「カイくんに攻撃したら部位破壊されるって学習したんちゃうかな……」



>www

>そんなバカなwww

>いやそれは草www

>カイ危険認定受けてて草

>神話の怪獣もカレーになるのは嫌か…

>リヴァ「アカン、煮込まれる……!」

>リヴァイアサン賢いw



なんてこった。

というか攻撃してこなくなるAIってなんだよっ?

部位破壊報酬が増えれば、具材にできるパーツも増えただろうに!


その後、俺たちへとシャコパンチは飛んでくることはなく。

ハサミ攻撃や水弾を避け続け、他のプレイヤーたちが全員シャコパンチでノックアウトされる姿を見ているうちに、サバイバル戦の五分は過ぎ去った。



〔……〕



リヴァイアサンはどこか未練を残すかのようにその鰐顔でコチラを一瞥すると、エモノのクラーケンを咥え直し、海の中へと戻っていった。




* * *




「──やったでみんなっ! リヴァイアサンからの生還イベント、無事クリアや!」



>おめ!!!

>乙!!!

>88888

>マジで生き残ってて草

>残ってるの二人だけw



ボンジリさんがアイテムボックスを開き、俺がもらったのと同じイベント報酬の数々を配信へと映し始めた。



「クラーケン素材としては足にイカ墨、宝石なんかもあるみたいやな! 売ったら結構な値になりそうや! ほんで肝心のリヴァイアサン素材は、甲殻と鰐牙。それと部位破壊報酬の"シャコ拳"もあるやんけっ!」



>シャコ拳は初見だわ

>攻略サイトにも載ってない

>もしかして新素材なのでは……?

>新武器生まれそう!



「だとしたらホンマにアツいなぁ! 加工したらどんな武器ができるんやろ……鍛冶屋行くのが楽しみになってきたわ。まあそれはさておき……な」



とたんに。

ボンジリさんはその声のトーンを落とす。



「さすがに甲殻や拳は食い物にはならへんし、カレーに入れるのは無理そうやな……。カイくん、落ち込まんといてや。クラーケンだけでも、全然新しいカレーにはなると思うし……」


「えっ? いや、いけると思いますよ?」ガンッ ガンッ ガンッ‼



リヴァイアサンの硬い甲殻をハンマー代わりに、シャコ拳へと同じくリヴァイアサンの鰐牙を釘のように打ち込んでいたら……パカリ。

シャコ拳が割れた。



「カ、カイくーーーんッッッ!?!?!?」


「あ、ホラ、やっぱりシャコ拳の中に肉詰まってましたよ!」


「躊躇なく初ゲット素材ぶっ壊しとるぅッ!!! 行動力レベチかッ!?」



>wwwww

>wwwww

>ちょwwwww

>マジでコイツwwww

>あまりにも草

>素材を割るなwww

>その発想はなかった

>カレーのためにそこまでするっ?

>肉詰まってましたじゃねーよ笑



カレーのためにそこまでするかどうか、って?

そんなの、しないわけがないじゃないか!

俺、カレーを食べにLEFに来てるんだぞっ?



「さあ、作っていきましょうか! 俺たちの海の怪物(シーフード)カレーを!」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

X(旧Twitter)の方で番外編は三話予定とウソをつきましたが、四話か五話になります、すみません。


続きのお話『番外編その4 カレー作りは終わらない!』は明日公開予定です。


そしてコミカライズ版の方もぜひぜひお頼み申します!

監修がんばりました!

https://booklive.jp/product/index/title_id/20182575/vol_no/001


カレーに狂っていてしっかり面白いので……ぜひご購入&ご評価いただきたい!

それでは、引き続き本作をよろしくお願いいたします!

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コミカライズ連載決定!6/3(水)~

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― 新着の感想 ―
武器としての素材を求めてない。食料としてのカレー具材を求めてココに居るワケだからね。
シーフードというか新フードというか(笑) 多分世界で誰も食べた事のないカレーにドキドキワクワク どれほど貴重な素材だとしてもカイ君にとっては料理に使えるかどうかしか意味は無いですからね
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