番外編その4 カレー作りは終わらない!
クラーケン討伐戦が漁港へと戻った後。
俺たちはさっそく堤防前へと移動する。
いよいよ、待ちに待ったカレー作りだ!
「とはいえ、実はもう下処理は済ませてるんですけどね!」
「知ってんで。カイくんが船の上で夢中でいろいろしとったところ、ずっと配信に映しとったし」
>無心でゲソの塩揉みしてたの草
>ボンジリが話しかけても生返事だったし
>カレーへの執念よw
え? そうだったのっ?
びっくりさせようと思ってたのに……。
ちょっと残念だったが、まあ気を取り直そう。
俺はボウルの中でツルツルになったクラーケンのゲソぶつ切りと、一口サイズに切ったリヴァイアサンの白身のシャコ拳肉を配信画面に映るように掲げる。
「とりあえず、今日はこの二つをメインで味わえるようなカレーにしていければと思います」
>すげぇ。あまりにも食材過ぎる
>レア素材の見る影もなく・・・
>このままでも美味そう
「そうですね。新鮮なら刺身でもいけそうです。まあただ、せっかく食べるならカレーにした方が美味しいのでカレーにしますが」
「相変わらずカレーへの思想が強すぎなんよな……まあ、カレー配信やしそれでええんやけど」
ボンジリさんは呆れたと感心が半々くらいの様子で笑いつつ、
「シーフードカレーにするんよな? 俺もなんか切ったりするんで手伝えることあるか?」
「そうですね、じゃあ野菜のカットをお願いします」
そうして、俺たちのカレー作りは始まった。
* * *
──ジュウ、ジュウと。
たっぷりと油の敷かれた鍋の中で、ボンジリさんがみじん切りにしたタマネギが飴色になっていく様を眺めつつ、続いてニンニク、トマトと投入。
十分に火を通してから、各種スパイスを投下して油に香りを馴染ませていく。
「さあ、いよいよ新鮮なクラーケンとリヴァイアサンを炒めていきます」
「この星を生け簀にしてる巨大神の視点? それ言葉にすると途端にオモロ過ぎるんやけど」
鍋へと、まずはクラーケンのゲソのぶつ切りを投入。
熱が通りキュッと身が引き締まり反り返って、赤茶色だったゲソは鮮やかな赤色へと変色していく。
続いてリヴァイアサン。
こちらはシャコ拳の中に詰まっていた肉をブロック状にしたものを投入。
白身魚のようにプリッとしていたそれは、油と触れるなりパチパチと弾け、鱈のようなホロホロした白身へと変貌した。
味漬けは魚醤。
そして整える目的で少量の塩。
鍋からは、芳醇なスパイスに混じって夏祭りの屋台の香りがフワリと立つ。
イカの丸焼きのニオイだ。
クラーケン素材はだいぶ塩もみをしておいてよかった。
下処理がなければもっと主張が強かっただろう。
「じゃあ具材にも火が通ったところで、お水を1カップほど入れます」
「1カップ……? え、少なないかっ?」
ボンジリさんが意外そうに目を見張った。
それもそのはず。
1カップはだいたい200cc。
鍋へと入れた水は、具材を浸す程度の量しかない。
「それにとろみも出てへんし、スープカレーにしては量が心もとないで?」
「それでいいんです。今回作っているのはシーフードカレーはシーフードカレーでも、素材の味を楽しむための"ヒン"なので」
「ヒン?」
しっかりと煮込み終わると、俺は平皿を取り出してその上へとクラーケンのゲソ、リヴァイアサンのシャコ拳肉を盛り付けて、その上から鍋のソースをたっぷりとかける。
「完成です。これが俺たちの海の怪物カレー!」
「おおっ? なんや、これまでとはエラく趣向が変わったなぁっ!?」
ボンジリさんが完成料理を配信画面に見えるように持ち上げてくれる。
>これ、カレーか?
>魚の煮つけに似てるけど
>なんか、東南アジアの家庭料理みがあるな
「これはヒンって言って、ミャンマーの伝統的な煮込み料理なんですよ」
ヒンそれ自体には『おかず』や『煮込み料理』という意味があるらしく、日本人からしてみるとスパイスでの味付けが基本なソレはどう味わってもカレーの一種にしか思えない。
「日本やインド式のカレーだと、どうしてもルウやスープをメイン視してしまいますけど、このヒンの良いところは何と言っても素材に目が行くところなんですよね! 見てくださいよ、このゴロゴロとしたクラーケンのゲソにリヴァイアサンの拳肉! スパイスの味も染み染みで美味しそうじゃありませんかっ?」
サラサラなスープをサッとかけられ、ホンワカと湯気を立たせるゲソや肉の光景に……ゴクリと。
ボンジリさんが生唾を飲む音が届く。
「確かに、見た目がすごくエエなぁ……! それにこの海鮮特有の磯の香りと刺激的なスパイスの香りが、ダイレクトに食欲を誘ってくる……もう、食べてもええかなぁ?」
「ええ、喰いましょう……! 俺ももう、限界ですっ! 鍋から直で行かせてもらいます!」
「それはガッツきすぎやけども、気持ちはわかる。ほんなら、いただきますっ!」
俺たちはまず、クラーケンのゲソから、パクリッ!
「んーーーッ!!! んまいんまいんまいっ!!!」
「肉厚でこりっこりやぁ! ほんで、噛むとステーキ肉みたいにジュワァッと中からいい出汁が溢れてくる! 見た目通りのイカ味やけれども、贅沢な食感でこりゃあ美味い!」
続いて、リヴァイアサンの拳肉だ。
箸でつつくと、ホロホロと身が崩れるので、そのひと口ぶんを掴んで口へと運ぶ。
「ほぁ……んまいなぁ……!」
「ずっとおんなじことしか言わんやん、カイくん。食レポなんやから、『美味い』の前にもっと味を伝えようとせなアカンで」
「でも、んまいし……」
「はぁ、ほな、よく聞いときや。俺が手本を見せたる」
俺の感想にため息をつきつつ、ボンジリさんもまたリヴァイアサンの拳肉を食べる。
すると。
「美味い……えっ、なにこれ、ウマァッ!?」
ボンジリさんもまた、唐突に語彙力を失ってコチラを見やる。
……うん。
その気持ちはわかる。
「これ、見た目的に白身魚の淡白な味わいかと思いきや……!」
「ヤバい! 食ったことあらへん味してる! 例えるなら、めちゃくちゃ味の濃いカニとウニの中間……みたいな!」
>……ゴクリ
>語彙力なくなってて草
>いいな、美味そう……
>マジで食いたいw
>そんな美味いんか!
>リヴァイアサンの味は知らんかったなぁ
>今からイベント参加してくるわwww
>食レポ下手のカイはともかく、あのボンジリが言葉を失うレベルの美味さは気になるな
コメント欄へとあふれ返るコメントを追いかけることもせず、俺とボンジリさんはひたすらスパイスの効いたリヴァイアサンの拳肉へと齧り付く。
歯ごたえはつみれのようで筋繊維っぽさも感じないので非常に食べやすい。
「せやっ、このカレーの効果はどんなもんなんやろ?」
ボンジリさんがさっそくステータスボードを開いて確認し始める。
基礎ステータスが上昇している他、その他欄の特殊効果の部分に以下の記載があるようだった。
★
水中での行動速度・行動可能時間が大幅に上昇
★
「おおっ? なんかすごいの付いてんで!」
「水中って……行動できるのっ!?」
「まあLEFはなんでもできるからなぁ。ダイビング用装備とかもあるにはあるで」
マジか。
西洋ファンタジーと思いきや、割と近代的な装備とかもあるんだね?
驚いていると。
堤防の下、大きな魚影が横切った。
陽の光にウロコがきらめく。
「あっ、ブリだ!」
「ちょっ、カイくんッ!?」
ちょうどいい!
水中でも動けるならば動かせてもらおう!
堤防から飛び降りた俺は、頭から一直線へ魚影へ向かう。
ザブンとリアルな水の感触を味わうが、しかし自分がまるで魚にでもなったかのように水の抵抗がない。
俺の手に持っていた一ツ星クッキングナイフは、ブリの背中を正確に貫いていた。
「漁ったどぉぉぉッ!」
水面へとブリを持ち上げて出ると、上からあぜんとした様子のボンジリさんがコチラを覗き込んでいた。
「ボンジリさん! 次はブリのカレームニエル作りましょうっ!」
「食い意地が張ってるにもほどがあるやろッ!?」
クラーケンやリヴァイアサンを食し終わってもなお、カレー作りは終わらない。
海の幸、まだまだカレーで堪能させてもらおうじゃないか!
いったんここで番外編はひと区切りです!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
後日、『番外編その5 LEF攻略掲示板』を公開予定ですので、そちらも楽しみにお待ちいただければ幸いです。
たびたびお知らせしておりますコミカライズ版の方もぜひよろしくお願いいたします。
1話から3話まで、カレー料理盛沢山です!
https://booklive.jp/product/index/title_id/20182575/vol_no/001
それでは、引き続き本作をよろしくお願いいたします!




